◇2人の間に何が…−−有力情報なく、依然真相は闇
四日市市の大型スーパーに設置された現金自動受払機(ATM)コーナーで先月17日、女性に「泥棒」と叫ばれた同市内の男性(当時68歳)が買い物客らに取り押さえられ、駆けつけた警官に手錠をはめられた後にショック死した事件から1カ月。四日市南署はATMに設置された防犯カメラの検証などから、ほどなく男性を無実と断定したが、肝心の女性はいまだ見つかっていない。一体、男女の間に何があったのか。真相は依然、闇の中だ。【影山哲也、嶋野啓二郎】
■女性の行方■
防犯カメラに映っていた女性は2歳ぐらいの子供を抱えていた。年齢が25〜30歳ぐらいで、身長は約160センチ。やせ形で髪は肩までの薄い茶髪だった。事件以来、県警は延べ1500人の捜査員を動員し、大型スーパー周辺の住宅街や小さい子供がいる家庭などを中心に、女性のカメラ映像を写
真にして聞き込み捜査を展開。これまで照会は2万件を超え、中には「似ている人が近くにいる」という情報も何件かあったがすべて別
人で、確信に触れる情報は皆無だ。
一方、女性の映像や写真を公開して、広く情報提供を呼び掛ける手法については「女性は立場上、被害者。被疑者扱いできない」(県警幹部)との理由で公開していない。
■不審な行動■
防犯カメラには、問題の男女2人しか映っていなかった。男性が財布からキャッシュカードを取り出し、現金を引き出そうとしたところ、男性の背後で子供を抱えた女性がいきなり、男性の肩にぶつかっていき、さらに男性の胸ぐらにつかみかかる様子が映し出されていた。この時、女性が「泥棒」と叫んだとみられるが、男性が何かを盗んだ形跡は全くなかった。県警幹部は「故意にぶつかったとしか見えない」「子供を抱えたまま、なぜそんな行動をとったのか」といぶかる一方、「カメラに映っている時間の前後に2人の間に何があったのかは分からず、映っている画像だけでは判断しかねる」と頭を抱える。
■「逮捕は正当」?■
署員2人が駆けつけた時、既に女性の姿はなかった。だが、男性を犯人と決めつけ窃盗未遂の疑いで手錠をはめ、もがく男性を約20分間、後ろ手に押さえ続けた。刑事事件に詳しい専門家からは「証拠保全の観点から女性を素早く探して確保するのが基本」との指摘も出ているが、県警の山川和俊刑事部長は「適切な対応で、逮捕は正当だったと思う」と主張する。これに対し、今月13日の県議会教育警察常任委員会では、委員から「現場の状況をしっかり分析し、事件からの教訓を得るべき」「現場での対応マニュアルを作製したらどうか」など厳しい指摘が相次いだ。
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◆事件経過◆
2月17日
午後1時10分ごろ |
四日市市尾平町のスーパー「ジャスコ四日市尾平店」に居合わせた四日市南署の警察官が、ATMコーナーで女性の声で「泥棒」という声がしていると連絡を受ける
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同15分ごろ |
警察官が、買い物客らに押さえつけられていた男性の引き渡しを受け、窃盗未遂の疑いで現行犯逮捕 |
同30〜35分ごろ |
男性がおう吐し意識不明となり、同署の刑事が手錠を外す
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18日
午前1時50分ごろ |
搬送先の病院で男性死亡 |
同日 |
司法解剖の結果、男性の死因は高血圧性心不全、不整脈と判明 |
21日 |
同署が男性を無実と断定 |
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