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四日市のATM 無実の男性死亡から1か月 謎のまま
読売新聞/中部発(03/17/04)の記事

 三重県四日市市のスーパー「ジャスコ四日市尾平店」で二月十七日昼過ぎ、泥棒と間違われた同市内の無職男性(68)が警察官に取り押さえられた後に死亡した事件は、きょう十七日で発生から一か月を迎える。現場となったスーパーの現金自動預け払い機(ATM)コーナーで、男性に向かって「泥棒」と叫んだ女性の行方は分からず、事件は謎に包まれたままだ。遺族らは「事件のことには触れたくない」と、進展しない捜査にいらだちを強めている。

 ◆被疑者はだれ?
 「防犯カメラの映像は、女性が男性から何か奪おうとしているように見える。窃盗未遂の被疑者として女性の画像を公開すべきだ」

 「コマ送りの不鮮明な映像だけで、女性を被疑者と断定するのは早計。犯罪が確定していない段階で画像などを公開した例は、グリコ・森永事件しかない」

 三重県警内部では、捜査方法をめぐって意見が分かれている。

 ATMコーナーの防犯ビデオには、男性がキャッシュカードを出した途端、子供を抱いた女性が男性に駆け寄り、財布かカードを奪おうとしているように見える映像が残されていた。不鮮明だが、女性の顔が正面 から撮影されていた。

 県警は捜査員を延べ千四百人投入、土日曜は百五十人態勢で周囲四―五キロまで拡大し、二万数千件に及ぶ聞き込みを続けた。これまでに数回、似た人物の情報があり、色めき立つ場面 もあったが、いずれも別人だったことが判明している。

 


 ◆逮捕の正当性
 「確認もせず、なぜ逮捕したのか」。事件後、県警には市民からの電話が相次いだ。

 事件当時、店内に偶然居合わせた二人の四日市南署員は、通報でATMコーナーに駆け付けた。「泥棒」という女性の大声で、買い物客三人が男性に組みついていた。署員は男性をうつぶせにして手錠をかけ、もう一人が女性を捜したが、その約二十分後に男性は意識を失い、十八日未明に高血圧性心不全で死亡した。強いストレスを感じた場合に発症するケースがあるという。

 山川和俊刑事部長は「二人の対応は適切だった」としたうえで、「(制圧と死亡との)因果 関係を問われること自体が遺憾」と断言する。捜査員の一人も「あの場面で他の対応はとれるはずがない」と言い切るが、県警内には「署員に過失がなかったか検証する必要がある」という意見があるのも事実だ。


 ◆いらだち
 県警は男性が亡くなった二日後、「防犯カメラの映像から、少なくとも男性の方が何かを奪おうとした可能性は極めて低い」(四日市南署・前川清治郎副署長)と公表した。しかし、遺族の一人は「取り押さえた人も署員も、どうして確認してくれなかったのか」と悔しがる。

 男性は地元企業を定年後、警備のアルバイトなどをしていた。友人は「気が優しくて、穏やかな人。あの人が罪を犯すなんて、ありえない」と話す。近所の女性も「奥さんが『犯人扱いされたことが何よりも悔しい』と繰り返していたのが気の毒」と思いやる。

 病院に運ばれる時、男性の手には、二つに折れ曲がったキャッシュカードが握られていた。「疑いをかけられ、人前で取り押さえられた恐怖や屈辱が込められているようだった」。捜査幹部の一人はこう述懐している。  




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