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465:ブラック・ストマック(腹の探りあい)

作:◆Sf10UnKI5A

「じゃ、まずはそっちの事情から話してよ」
 酒屋の奥、狭いダイニングキッチンで、臨也は前に座るマージョリーに言った。
 マージョリーは眉をひそめ、
「事情って、私があんたに話すことがどれほどあると思ってるの?」
「どれほども何も、沢山さ。
現在の体調。所持品及び戦闘手段。俺と手を組んだ理由。
この島で何人殺したのか。出会った奴の名前や、知っている人間の名前。
それに、好きな酒の銘柄とかね」
 相変わらずの笑みと共に口を動かす臨也。
 それを聞くマージョリーも、口に薄い笑みを浮かべている。
「その質問、全部そっくりあんたに返すわ」
「随分とズルいことを言う」
「じゃ、公平にこうしましょ。
順番に一つずつ文章を言って、互いにそれに答える。
例えば私が、『昔、自分は――』と言う。
そしたらあんたが『鼻垂れのガキンチョだった』と答え、
私は『周りの男をたぶらかしていた』と答える。
勿論、質問も答えもこの“ゲーム”に関係することに限る。どう?」
「面白そうだね。じゃ、レディーファーストってことで、……どうぞ」

「じゃ、まずは軽く。『名簿に知っている名は――』」
「『二つもあった』」
「奇遇ね。『二人もいやがった』」
「で、俺か。『この島に来てから出会ったのは――』」
「『男が四人に女が五人』」
「『死体が七つに大嫌いな奴が一人』」
「ふーん、お互い難儀してるみたいね。次、『この島で殺したのは――』」
「『可哀想な人間を一人』」
「『調子に乗っていた馬鹿を一人』」
「気が合うね。じゃあ、『この島で見つけたい人間は――』」
「『一人だけ。ただしそいつの状況次第』」
「『一人だけ。ただしお邪魔虫がいなければ』」
 臨也が言い終わったところで、マージョリーが一息をつき、
「それじゃ、そろそろ本番と行きましょうか」
「今までのは前座? ま、質問の中身も軽かったし、当然か」
「判ってるじゃない。じゃあ行くわよ。
『この島で生き残るためには――』」
 臨也は数秒考え込み、
「……『他人を利用はしても信用しない』」
「『最後の一人まで殺し切る』」
 間髪入れずに発せられたマージョリーの言葉に、臨也は笑みを苦笑へと変えた。
「なるほど。じゃ、少し趣向を変えようかな。『もし私から刻印が消えたら――』」
「『全力でこの“ゲーム”を壊す』」
「『禁止エリアに逃げ込んで時が経つのを待つ』」
「つまらない答えね。『もし知人が殺人鬼と化していたら――』」
「『全力で逃げ回る』」
「『手を取り合って皆を殺そうと持ち掛ける』」
 臨也はますます苦笑を濃くし、
「そんなに俺を脅かして楽しいのかい?」
 対し、マージョリーはその妖艶な笑みを濃くし、
「そんなに臆病者のフリをして、私の油断を引き出したいの?」

「困ったな。俺は本心を言っているだけだってのに」
「いいからとっとと続けなさい」
「はいはい。『可能ならば真っ先に殺したいのは――』」
 今度はマージョリーが数秒の間を置き、
「そうね……、『三人と、一人と、あそこにいる人間』」
「ふうん? 俺は、『一人だけ』」
「まったく、もう少し面白い答えは言えないの?
つまらないから後一回ずつで終わりよ。いいわね」
「見事なまでに自分勝手だね。ま、そもそもキリがないか」
「判ってるなら、余計なことは言わない。じゃ、行くわよ。
『傷ついた参加者が、助けてくれ、手を貸してくれと言ってきた。そこで私は――』」
「『その参加者に質問をした』」
「……何よそれ」
「質問の答え次第で、ってことさ」
 マージョリーは怪訝そうな顔で、今までで一番妙ね、と言った。
「で、そっちは?」
「どうせ予想してるんでしょ? 『そいつを楽にしてやった』」
 臨也は曖昧に笑っただけで、その答えには何も言わなかった。
 そして、少し考えてもいいかな、と言い、
「……よし、これにしようか」
 臨也の表情は、楽しそうな、どこか意地の悪そうな笑みになっていた。

「『殺されそうになった時、私は――』」

 マージョリーの顔から笑みが消えた。正面の臨也を睨むように見る。
「ネガティブね。貴重な最後の質問だってのに」
「これも所詮はゲームだろ? いいから答えてよ」
「……『相手を殺すことで、生き延びた』」
「つまらないな」
 マージョリーの表情が、ほんの一瞬だけ歪んだ。
「……ご大層な言い分ね。何様のつもり?」
「君ほどじゃないよ。何もかもを捻じ伏せることで生き残ろうとする君よりは」
「それじゃ、あんたはどうなのよ」
 臨也は笑い、もったいぶるように間を空けて答えた。
「――『相手を絶望させることで、生き延びた』」

 テーブルの上の酒瓶がマージョリーの手に捕まえられ、そのまま彼女の口にあてがわれた。
 マージョリーは豪快に一口を呑むと、ドンッという音を付けて酒瓶を置いた。
「……なかなか有意義だったとは思わない? イザヤ」
「そうだねマージョリー。で、どうするんだい?」
「あんたを少しは信用するわ。利用するために、ね」
「それじゃ、俺もそうしよう」
 ぬけぬけとよく言うガキね――とマージョリーは思った。
「で、本題。雨が降ってる内に行きたい所があるから、着いて来なさい」
「了解」
「ああ、それと」
 マージョリーはデイパックの中から一本の酒瓶を取り出し、臨也に差し出した。
「あんたの銃を早速使うことになるかもしれないから、持ってなさい」
「……狙撃と酒瓶に因果関係があるってのは初耳だな」
「手が震えた時に必要でしょ」
「……面白いジョークだね」
 もしアル中だったとしても、スピリタスは無いだろう――と臨也は思った。

【C-3/商店街、酒屋/1日目・16:00頃】 
『詠み手と指し手』
【マージョリー・ドー】
[状態]:わりと上機嫌。
    全身に打撲有り(普通の行動に支障は無し)
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1300ml) 、酒瓶(数本)
[思考]:ゲームに乗って最後の一人になる。
    臨也と共闘。興味深い奴だと思っている。
    シャナに会ったら状況次第で口説いてみる。
[備考]:臨也の装備品をナイフとライフルだけだと思っています。
    (もし何か隠していても問題無いと思っている)

【折原臨也】
[状態]:上機嫌。
    脇腹打撲。肩口・顔に軽い火傷。右腕に浅い切り傷。(全てとも処理済み)
[装備]:ライフル(弾丸30発)、ナイフ、光の剣(柄のみ)、銀の短剣
[道具]:探知機、ジッポーライター、禁止エリア解除機、救急箱、スピリタス(1本)
    デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:マージョリーと共闘。 面白くなりそうだと思っている。
    セルティを捜す。人間観察(あくまで保身優先)。
    ゲームからの脱出(利用できるものは利用、邪魔なものは排除)。残り人数が少なくなったら勝ち残りを目指す
[備考]:ジャケット下の服に血が付着+肩口の部分が少し焦げている。
    ベリアルの本名を知りません。

※二人がどこに向かうかは以降の書き手に任せます。
※酒屋の傍に、蟲の紋章の剣が隠してあります(放置中)。

2006/01/31 修正スレ237

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