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464:red tint

作:◆jxdE9Tp2Eo

「ここは?」
相良宗介の目覚めた場所、そこは所狭しと機械が並ぶデ・ダナンのブリッジだ。
「軍曹、何を寝ぼけている!軍曹!」
自分を叱り飛ばす声に顔を上げると、そこにいたのは彼が最も苦手とする上官、マデューカス中佐だ。
「はっ!失礼いたしました、中佐殿!、妙な夢をみていたのであります!」
すばやく直立不動の姿勢をとる宗介。
「奇妙な夢、詳しく言ってみろ!」
「はっ!自分と大佐殿、以下ウェーバー軍曹らを含む一行が拉致…」
「そこはいい、最近の出来事を述べよ」
「はっ!正午頃謎の女性と遭遇、千鳥かなめを人質にとられ戦闘を強要された次第であります!」
「その女性は何者かね?」
「名は不明、ですが非常に美しい姿をしており、また奇怪な力を使うようであります!
身体的な特徴は長い髪で顔の半分を隠している、その程度です」
そこで黙り込むマデューカス。

「そうか、で君は、むざむざその女の要求を飲んだのかね?」
「お言葉ながら人質を取られており、ご存知であることを前提に申し上げますが
 非常に特殊な状況下ゆえ、一時従うことが最善と判断いたした次第であります!」
「して、場所はどこかね?」
「それは…」
そこで宗介の視界が大きくぐらつく、床が揺れているようだ。
「今のは攻撃ではありませんか?中佐殿」
「話を逸らすな!続けたまえ!」
改めて姿勢を正しながらも宗介は妙な気分になっていた、この僅かな違和感は何だ。
それに…あの数々の出来事が夢だったとはやはりまだ考えづらい…。
「失礼ながら申し上げます!大佐殿はどちらに行かれたのでありますか?」
恐る恐るの質問、そのときまた大きな揺れ。
「大佐は現在別任務に就いている」
別任務?いや自分の知りうる限りこの状況でそれはありえない…。
それに考えてみれば何故中佐は自分の夢の中身を知っているのだ?
その時また大きな揺れ、そして不意に別の光景が目の前に開けた。

「おい!せんせー!せんせーってばよ!」
「何かね?治療中は邪魔をするなと」
「いいから外見ろよ!」
終の言葉に窓の外を見るメフィスト、周囲の風景が動いている。
「ほう…山が動いてるな」
「違う!動いてるのは山じゃない!病院だよ!雨でぬかるんで地滑りを起こしてるんだ!」
終の声と同時に建物が急速に軋みだす。
「この肝心な時に」
催眠術による尋問も佳境に入りつつあるところで何たることか。

「君は志摩子くんらを頼む、私は…」
しかしその時ベッドの上の宗介が目を開く、
(目覚めたか!いかに私の力が弱体化されてるとはいえ、なんという精神力の持ち主だ!)
だが、動揺するメフィストではない、宗介の確保を素早く行おうとするが、
床が傾き、そちらに注意が向いてしまう。
その隙に宗介は窓から外へと飛び出してしまっていた。

(逃走を選ぶか!判断力も一流だな、潜在能力は京也くんらと同じレベルと見た)
もちろんメフィストの技量ならばこの状況でも確保は容易い、だがそうはしなかった、かわりに、
「千鳥かなめを救い出したいのならば自分の心を偽るな!何が起きてもただありのままの心をもって
 彼女の全てを受け入れたまえ!」
そう声をかけると、メフィストは病院内へと戻っていき、それから数分後、病院は山肌もろとも粉砕されたのだった。。
「大丈夫かね?」
病院のガレキを軽く押しのけながらメフィストが難を逃れた志摩子らに声をかける。
「私たちは大丈夫です、でも終さんが」
「あたくしたちをかばおうとして、そしたら目の前で転んでそのまま土砂の下敷きになってしまったんですの」
「なるほど…」
まったく世話が焼ける…そういう顔のメフィストは聴診器を取り出し土砂に当てる。
「あの少年は非常に頑健な肉体を持っている、この程度なら平気だろうが…」
聴診器を当てた位置からしばらく歩いた地点を指差すメフィスト、
「あの場所だ」
みると地面が僅かに盛り上がっている、そしてしばらくたつと、泥まみれの姿で這い出してくる終。
「おい医者!場所がわかってるんならちったあ手伝ってくれよ!」
「医者として君の生命力を信じたまでだ、必要以上に治療を行わないのも医者の条件の一つでね」
「この…」
藪医者だなんていえない。

「それに自力で逃げられる者はまだいい、彼女はもはや動くことも叶わない」
メフィストの腕の中にはテッサの死体が収まっていた。
「諸君、それぞれの信じる神の元に祈りの言葉をお願いする」

テッサの埋葬を済ませた一同、
「とりあえず雨風の凌げる場所にいきませんか?」
志摩子の提案に頷く一同、それに泥まみれの終の服も調達せねばならない。
「あの…ドクター」
そうだ、伝えなけれならないことはたくさんある、しかしダナティアの言葉をさえぎるメフィスト。
「すまないが後にしてくれないかね、我々には片付けねばならぬことが多すぎる、それに会わねばならぬ者もいてね
 せめて6時まで待ってくれないだろうか?」
口調はやわらかいが、断固とした意思の表示だった。
口をつぐむダナティア、だが何としてもこの医師を自分の陣営に引き込まねば…彼ほどの逸材を自分の傍らに置ければ、
それは百万の味方を得たにも等しい。
まして分散の愚を犯したがゆえに、彼女はむざむざ仲間を失ったのだ。
もう同じ轍は踏まぬ、
「それよりもそろそろ何かを羽織ってくれないかね、私はともかくその少年には目の毒だ」
メフィストが指を動かすと、物陰からシーツが音も無くダナティアの身体に巻きつく。
「ああ、ドクターは魔術も堪能でいらっしゃる…」
そこで初めてダナティアは自分が下着姿のままだということに気が付くのだった。

(しかしそれにしても)
メフィストの表情がやや険しくなる。
(あの女、相変わらず不可解極まりない…まるで1人の戦士を育てているようなものだというのに)

「夢では…なかったのだな、俺としたことが」
ずぶぬれになりながらさ迷う宗介、窮地を脱出したとはいえ…もう彼に気力は残されていなかった。
(首を5つじゃ)
美姫の言葉が冷たく響く…もう間に合わない。
いや…まだ手はある、最後の手段が…
「生きていてくれさえすれば…俺はそれだけで」
いつしか雨はやみ、そして濃霧が周囲を包む中、宗介は教会へと向かっていた、が。

教会周辺の草むらには明らかに何者かが通った新しい足跡があった。
(そんなっ!)
心配が焦りへと変わる中、道を急ぐ宗介、墓地を通り抜けると教会がある。
あの女と出会った祭壇の背後には階段があったはず、おそらくあの教会に通じているはずだ。

教会の中は凄まじい戦いの痕跡があった、床には見知らぬ少年の死体が転がっている。
その奥には眼光鋭い長髪の戦士が立っていたが、何かを言い含められていたのか
黙って道をあける。

そして階段から地下へと降りる宗介。
そこには誰もいない…いや、横たわる影が1つ、
「千鳥っ!」
かけよる宗介、そしてその身体に触れようとした時だった。
「そう…すけ?」
むっくりと起き上がるかなめ、だが宗介は戸惑いを隠さない…なにかがおかしい。
「あのね、わたしおなかがすいてるの…だから飲ませて、宗介の血を」
その言葉に反射的に身構えそうになる宗介、どこかで聞いたことがあるこの状況、あれは確か?

「クルツ、なぜ俺の家でテレビを見る…」
「いやぁ、テレビ壊れててよ、みろよこの女優、すげぇ胸」
画面の中ではドレス姿の女優が、鋭い牙をむき出しにしていた。
「ヴァンパイアだってよ…咬まれたらそいつもヴァンパイアになるんだ」
「くだらん、非現実的だ」

あのときはそのままベッドへともぐりこんだのだが、今かなめの口元には確かに牙が生えている。
ということは…。
クルツの言葉がリフレインする。
(かまれたらそいつも)
「ねぇ…いいでしょ?私夢をみてたの…私が死んで宗介がテッサと結婚する夢…とてもさびしくて、悲しかった
だからね…もう離れない…宗介をずっと私のものにするの」
かなめの赤く染まった瞳から、大粒の涙がこぼれる。
「千鳥…」
宗介の手が震える、
これは俺の知っている千鳥かなめじゃない…、違う…だから…。
その手がかなめの首に伸びる、しかし
「それでも俺は…」
構えた手をおろす宗介。
「わかった…俺の命が欲しいなら全部お前にやる…それでお前の苦しみが悲しみが癒えるのならば」
「お前と同じ世界に堕ちるのならば、それでも構わない…俺の世界と時間は全てお前にくれてやる」
宗介の首筋に牙を伸ばそうとしたかなめの顔が寸前で止まる。
「そう…すけ…ありがと…でも…その言葉だけで充分だよ」
その瞳が少しずつ人間の色に戻っていく。
「私、もう人間じゃなくなったけど、今までもいっぱい危ない目にもあったけど、でも宗介にあえて本当に良かった…
だから宗介は自分のために生きて」

かなめは自分にかけられた呪縛を振り切り、宗介から離れ、そしてナイフを自らの心臓に突き立てようとする。
「さよなら…今度出会えたら、2人で生きていけたら…」
「やめろっ!今度じゃない!今だ!俺は今お前と生きていたい!だから死ぬな!」
かなめを取り押さえ必死で叫ぶ宗介。
「お前が化け物でも構わない、お前が化け物なら俺は人殺しだ!だから一緒に生きよう!頼む!
それが叶わないのならば、俺もお前の傍に行く!」

まさに渾身の叫びだった、その時かなめの身体からまた力が抜けていく、そして。
「宗介…私」
かなめの身体に人の温もりが戻ってきていた、
恐る恐る首筋を触る、傷は消えていた。

「我が呪縛に耐えるとは…ふふふそなたらの勝ちよ」
闇から抜け出してきたかのように、音もなく2人の背後にたつ美姫。
「四千年生きてきて、そうそうあることではないわ…ふふふ」
「首は」
「皆までいうでない、そなたの叫び、1000の勇者の首にも等しいわ、ではどこにでも行くが良い、2人手を取り合っての」
だが、宗介は去らなかった。
「ほう、去らぬのか?」
「俺の目的は一つ、この島から脱出すること、そのためにはあんたのような強者につくのが戦略的に一番だ」
 宗介の表情はまるで代わらない、いやもう彼に迷いはない。
「ほほ…わたしを神輿に担ぐか」
それに美姫もまんざらではないようだ。
「だがわたしはお前の女に一時は手を出したのだぞ」
「だが、あんたは結果的に千鳥を守ってくれた…約束を反故にしても構わない立場であっても
それにここを去ってもいずれ誰かと戦うことになる、少なくとも俺はあんたには勝てる気がしない」

「ならば好きにするがよい、わたしは何も求めぬ、わたしと共にありたいのならばそうすればよかろう
 わたしが不要であれば去ればよい」
楽しくてたまらぬという感じで笑う美姫、宗介はかなめへと向き直る。
「千鳥…」
さっきとは違い、どう言葉をかけていいのかわからない。
「いいよ…それでも…」
うつむいたままのかなめ。
「本当は、だれも殺して欲しくない…」
「でも宗介はいままで私のためにいっぱい頑張ってくれたんだから…
 それにあんなことになった私を宗介は受け入れてくれた…だから私も戦う…宗介1人に苦しみを背負わせたりしないから」
もう一度宗介はかなめをしっかりと抱きしめる。

「決まったようだの…さて」
美姫は宗介らを従え地上へと上がり、待機していたアシュラムの方へ顔を向ける。
「おまえはどうする?もう気が付いているであろ?今のおまえはおまえであってお前ではない」
その言葉に厳しい表情を見せるアシュラム。
「知りたいか?お前が本来何を思い、何を考え生きていたかを」
「それは…」
「ほほ、怖いかの?」
美姫の言葉に固まるアシュラム、確かにその通りだ。
「無理をせずとも構わぬ、知りたくなればその内教えてやろう…まぁ」
「お前にもあの娘のように命を賭して真に必要としてくれる誰かがいればまた話は変わってくるのじゃが」
そして美姫は勢いよく教会の扉を開け放つ。
数メートル先も見えぬ濃霧が彼女の身体を包む、さらに陽光は西の彼方に去ろうとしている。
もう、彼女を阻む物は何もない。
「さて…行くかの」
その言葉に戦慄する一同、だがまたここで彼女は微笑む。
「ふふ、わたしは何もせぬ…言ったであろ、あのような輩に踊らされるほどわたしは愚かではない、だが
進んで踊る者もおれば、踊りたくなくとも踊らねばならぬ者もおるであろ、ゆえにわたしは何もせぬ
ただ聞きたいだけ、彼らの声をの、ふふ、彼らはいかなる正義・欲望のために他人を踏みつけているのかをの
誰も彼も己が正しいと思って事を起こすものよ」

お互いの顔を見る宗介とかなめ、美姫の言葉がのしかかる。
「どうした?来ぬのか?このような島、本来ならば一飛びだが、たまには地を歩くのもよかろうて」

「いこう、宗介」
宗介を促すかなめだが、あることにようやく気がついた。
「宗介、その手…」
「ああ」
傷口の処理は完璧だったが、今の彼には左腕が欠損していた。
それを知ってかなめは、より近く深く、宗介へ寄り添う。
「大丈夫…私が宗介の左腕になってあげるから」
「左腕だけじゃすまないかもしれないぞ」
「右腕がなくなったら右腕になる、足がなくなったら足になったげる
 宗介の足りない部分は全部私が代わりになってあげるから」

「し、しかしだな、気持ちは嬉しいが移植には色々と面倒がつきまとう、それに」
かなめの言わんとしてる意味が何か、宗介にもわかってはいる。
だが、どう応じていいか分からないのだろう、
かなめはそんな宗介の不器用さが愛しく思えて仕方がなかった。

【B-4/病院/一日目/16:45】
【創楽園の魔界様が見てるパニック――混迷編】
【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:疲れ有り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:救いが必要な者達を救い出す/群を作りそれを護る
[備考]:下着姿

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子らを守る

【竜堂終】
[状態]:健康
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける
[備考]:空腹、泥だらけ

【D-6/教会/1日目/17:55】

【相良宗介】
【状態】健康、ただし左腕欠損
【装備】なし
【道具】なし
【思考】どんな手段をとっても生き残る

【千鳥かなめ】
[状態]:通常
[装備]:鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
[道具]:荷物一式、食料の材料。
[思考]:宗介と共にどこまでも

【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:これから夜の散歩

【アシュラム】
[状態]:全身に打撲。かなり疲労。
    催眠状態(大きな精神的衝撃があれば解ける)。精神的に不安定。
[装備]:青龍偃月刀(血塗れ)
[道具];デイパック(支給品一式・パン6食分・水1700ml)、冠
[思考]:自分の意志にやや疑問を持つ。
    美姫に仇なすものを斬る 。

2006/01/31 修正スレ239-248

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