作:◆8L3KP6.ps6
しずくと接触した宮野ら三人は、ひとまず彼女を休ませようと近くの林へ移動した。
大丈夫だと言い張る彼女を一旦眠らせ、一時間半ほど経ち目が覚めた所で事情を聞き出した。
「目にも止まらぬ速さで動き、怪しげな術を使う謎の美女……。
興味深いとは思わないかね、茉衣子くん?」
「興味深いかどうかはともかく、確実なのは危険人物だということでしょう?
どうなさるおつもりですか? 班長、それに……オーフェンさん?」
そう問いかける茉衣子の横には、沈んだ顔で三人を窺うしずくがいる。
「思うに、妖艶な美女が狙いとするのは葉巻の似合う中年と相場が決まっているわけだな。
つまりこの島随一の中年男を探すか、もしくは中年になるまで待とうホトトギス」
「黙れ」
戯言と共に飛び回るスィリーを、オーフェンが素早く掴んでデイパックに突っ込んだ。
「……しずくには悪いが、俺はそいつを助けには行けないし、手を貸すつもりもない。少なくとも今はな。
まだ探さなきゃいけない奴が残ってるし、下手に戦うわけにもいかねえ」
『けけっ、人間、命あってのモノダネだからなぁ』
エンブリオが茶々を入れるが、しかし誰もそれに構わない。
オーフェンの言葉は、しずくにとって残酷であれ、しかし当然と言える判断だからだ。
「それで、班長は?」
「うむ、その謎の美女氏に会いに行こうではないか」
さらりと告げる宮野。
「…………班長、しずくさんの話を聞いていませんでしたか?
人間離れした速度で動き、しかも他人を操る術の持ち主なんですよ?
そんな人と会おうだなんて、一体何を考えて……」
「落ち着きたまえ茉衣子くん。
考えてみたんだが、その美女と我々、そしてしずくくんの利益は一致するところにあるやもしれん」
「恐らく謎の美女氏は、『ゲーム』を楽しみこそすれ、積極的に殺人をする気はないのだろう。
人質を取り交換条件に殺人を要求するのがその証拠だな。
そこに、私と茉衣子くんの付け入る隙がある」
「班長、私は同行するとは……」
宮野は無視して続ける。
「美女氏の術がEMPに類するものかは不明だが、
他人の肉体・精神に干渉する術ならば刻印に対処出来る可能性はゼロではない。
そこで、――エンブリオを交渉材料に使う」
一瞬、全てが沈黙する。
「こちらの要求は、千鳥かなめの解放及び、可能であれば我々の刻印の解除。
そして美女氏への見返りは、エンブリオによる能力覚醒だ。どうかね、三方丸く収まったではないか!」
宮野の歓声は辺りにむなしく響き渡った。
数秒の沈黙の後、茉衣子が重苦しい調子で口を開いた。
「……班長、それは相手方がこちらの言い分を呑むことが前提ではないですか。
しずくさんとその仲間が受けた仕打ちを聞いてなかったのですか?」
「だからこそだよ茉衣子くん。伝聞ではなく、私達自身で彼女を見定める必要がある。
参加者全員の命運すら託すことになるかもしれんのだからな。
……しずくくんは、これでよろしいかな?」
宮野の口上に呆気に取られていたしずくは、ハッと我に返り、
「あっ、ありがとうございますっ!」
礼の言葉と共に頭を下げた。
「……仕方ありませんわね。班長一人で大事な交渉に向かわせる訳にもいきません。
同行いたします。私にエンブリオを使われるよりはマシでしょうからね」
宮野は茉衣子の言葉に満足そうに頷くと、顔を最後の一人に向けた。
「ということになったが、――オーフェンくんはどうするかね?」
「俺の考えはさっき言った通りだ。悪いがお前らとはここでお別れだな」
言いつつオーフェンはデイパックに手を突っ込み、人精霊を引っ張り出した。
「代わりと言っちゃあ何だが、この飛行物体を進呈しよう」
「む、トレードか? トレードならば服を脱いで抱き合うのが風習らしい」
意味不明のことを語るスィリーは、オーフェンの手から逃れ振り返り、
「――む、念糸か? 念糸使いがいたのか?」
今まで以上に意味不明の単語であり、――何か意味を持つであろう単語にオーフェンが眉をひそめる。
「お前、今度は何を――」
立ち上がってスィリーを捕まえようとする。
その瞬間、オーフェンは強烈な虚脱感に襲われた。
(……何が……何が起きた……!?)
叫びを上げることすら出来ず、地に伏せるオーフェン。傍らには、倒れる時にぶつかったデイパックから荷物がこぼれている。
「オーフェンさん!? どうなさって――」
「全員、動くな」
少し離れた木の影から、低い声が聞こえてきた。
「手加減はしてある。まだ殺しはしないが、許可無く動けば命が無いと思え」
「ッ!?」
人影の正体に、宮野は眉をひそめ、茉衣子は息を呑み、しずくが顔を青ざめさせた。
真っ黒に焼けた左腕を垂らすその男は、しかしそれを気にすることなく口を動かす。
「これからいくつか質問をする。貴様らはただそれに答えればいい。
まずは――」
【E-8/林/1日目・14:40】
【ウルペン】
[状態]:不愉快。左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:目の前の連中から情報を聞き出し、その後殺す。
参加者の殺害(チサト優先・容姿は知らない)。アマワの捜索。
[備考]:第二回の放送を冒頭しか聞いていません。
『黒色スリーとメカ娘』
【しずく】
[状態]:右腕半壊中。激しい動きをしなければ数時間で自動修復。
アクティブ・パッシブセンサーの機能低下。 メインフレームに異常は無し。 服が湿ってる。
ウルペンに驚いている。
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:火乃香・BBの詮索。かなめを救える人を探す。 ウルペンに驚いている。
【宮野秀策】
[状態]:好調。 ウルペンを警戒。
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。
【光明寺茉衣子】
[状態]:好調。 ウルペンに驚いている。
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。
【オーフェン】
[状態]:脱水症状。何をされたのか理解出来ていない。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:敵襲? 宮野達と別れる。クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。
2005/11/30 修正スレ190