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412:イド君(エス)の悲劇

作:◆MXjjRBLcoQ

 始めまして、僕は井戸です。
 何の因果かこんな殺劇遊戯場に配置されることになりました。
 あまりの不遇に、僕はこの話が決まった瞬間思わず涙してしまいましたが、それも昔の話。
 捨てる神あれば拾う神あり。今の僕は、イドとして、希望と幸福に満ちています。
 なんといっても可憐な女の子の水浴び姿を拝むことが出来たのですから。
 途中、相方と思しき金髪美青年が乱入してきましたが関係ありません。
 お手つきであろうと、女性の禊の前ではその事実は無力。
 ビバ、イド!
 でも一応心の中で少女に手を合わせます。淑芳さんごめんなさい。
 僕は想像の中で貴方の胸に手を伸ばしてしまうかもしれません。

 と、僕が淑芳さんのイマジンな胸に手を添えようか、それともイドとしての尊厳を守って揉むか悩んでいると。
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」
 そんなどこか聞き覚えのあるようなメロディとともに、一人の少女が僕の前に現れました。
 頭に天使のわっか、背中に昇り竜、そして手はに棘付きバット。
 げげえぇ、
 僕は思わず悲鳴を上げてしまいました。
 このゲーム最大の要注意人物の一人、ドクロちゃんです。
 ドクロちゃんはよろめきながらも、僕をその瞳にとらえました。
 いえ、少し表現が足りません。そう、僕は一瞬で彼女の瞳に囚われてしまったのです。
 脱水症状でしょうか。たしかに肌は罅割れ、唇もかさかさ。
 しかしその桜色の丸い頬、高く整ったしかしどことなく幼さを感じさせる鼻梁、
そしてどこまでも深いディープブルーの瞳の奥底に、僕は果てしなく落ちてしまったのです。
 もう前世からの宿命のように。

「やったー、井戸だよぅ」
 この思いをよそに、歓声を上げて詰め寄ってきたドクロちゃんは、僕のつるべをぐいとつかみます。
 いたい!
 その手つきがあまりに乱暴だったので、僕は思わず悲鳴を上げてしまいました。
 僕の中でスタートした人もここまで乱暴じゃなかったよ。
 もちろんそうは言っても井戸の叫び。ドクロちゃんに聞こえる道理はありえません。
 彼女はお構いなしに僕の血水を汲み上げ、んくんくと白魚のような喉を鳴します。
 あぁあぁ、身体に悪いよ、ドクロちゃん。脱水のときは少しづつ飲まないと下痢ぴーしちゃうよ。
 結局、彼女は手桶一杯の水を一息で飲み干してしまいました。
 ぷはぁーと涼しげな吐息をついたときにはもう、その唇は鮮やかな真紅で肌は熟れた桃のような瑞々しさを取り戻しています。
 ああ、ますます可愛い。
 元気になったドクロちゃん。ご自慢の棘付きバットをぶんぶん振り回し、

  ドカーン!!

 近くにあったクヌギの松田君を薙ぎ倒しました。
 え、ええぇぇぇ?!?!
 あまりに突然の凶行に思わず口をあんぐりと開ける僕。
 その間にもドクロちゃんはバットを振り回し、松田君を薪の山へと変えていきます。
 ばこ、ぼく、どか、ばき、ぶん……ことん。
 破壊的な音が止み、僕が自失から立ち直るときには、松田君はしっかり積み上げられた組み木と化していました。
 惨い、いくらなんでも惨すぎる。
 何の意図があって、何の非があって、松田君は、松田君は死ななければならなかったのか。
 あまりのことに僕は不可能と知りながらも、ドクロちゃんを問いたださなければならなくなりました。
 四秒ほどの躊躇、僕は意を決して、
 さぁ、ドクロちゃん説明してよ! 何故こんなことをしたの?
 叫びました。大きな声で。ドクロちゃんに聞こえない井戸の声で。

……今僕の心は虚しさで一杯です。
 いじける僕のすぐ真横、ドクロちゃんはおがくずを集めて木時を擦り合わせ始めます。
 どうやら火をおこしているようです。
 やがてちりちりと煙が上がり、しばらくするとそれはもう立派な火種となって燃え上がります。
 ここまでくれば僕にでもわかります。彼女はキャンプファイヤーの準備をしていたのです。
 火種はドクロちゃんの手で、大量のおがくずとともに組み木の中にくべられます。
 火はすぐに組み木に燃え移り、やがて松田君が立派なキャンプファイヤーになったことを僕は知りました。
 おめでとう、松田君。
 涙を流し拍手する僕。もう僕にはそうするしか出来ないのですから。
 ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。組み木の弾ける音が拍手と唱和します。ああ、生きているって何なんだろう。
 と、ひとしきり悲しんだ僕はドクロちゃんがいなくなってることに気づきました。
 きょろきょろと辺りを眺めてみると、いました。キャンプファイヤーの陰に隠れていたようです。
 杖をつきながらも、せわしなく身体とその唇を動かしています。胸がぶよんぶよんと冗談のように跳ね回っています。
 ごくり。生唾を飲み込んで、僕は彼女の様子を少し注視することにしました。
 踊っているようです。歌っているようです。
 ドクロちゃんはその蜂蜜のように甘いソプラノボイスを振りまいて、火の周りを回るように踊っています。
 フォークダンスです。何故にフォークダンス?
 少し耳をすませてみると、

  マイム・マイム・マイム・マイム♪

 あぁっ、解りました。なんとマイムマイムです。
 ドクロちゃんは水を見つけた喜びを、昔ながらの味わい深い祈りで示していたのです。
 さすが天使! もうわけが解りません。

 棘付きバットを杖にその身を支えながらも、必死に踊るドクロちゃん。
 ダンスは最高潮に達し、ドクロちゃんの額やうなじからは玉の汗が吹き出します。
 ツインテールが揺れるたびにそれらは宙に舞い上がり、お日様と炎の明かりに照らされ、
陽炎のなかで水晶のようにきらきらと輝くのでした。
 手を広げ、ドクロちゃんは右足ホップ。チラリと覗く、汗と脂ののった太ももが眩しいです。
 きっと彼女の脳内ではたくさんのお友達が輪を作っているのでしょう。僕の脳内では……いえ、何でもありません。
 それよりもドクロちゃんです、今度は華麗に左足を伸ばし、

  びたーん!

 唐突にバランスを崩したドクロちゃんは、哀れ地面に倒れてしまいました。
 さっきまでのあふれんばかりの生気はどこにいったのか、唇や肌は見るも無残に乾燥し、紫色に変色しています。
 脱水症状です。当たり前です!
 果たして彼女、大丈夫なのでしょうか? ほんとにこんなおつむで生き残れるのでしょうか!?
 おぉっと、ドクロちゃん立ち上がりました。
 よろよろと僕にもたれ掛かりながらも、つるべに手を伸ばします。
 中学生にしては豊かな胸が、僕の端に乗っかって自重でお饅頭のようにつぶれます。
 くぼんだ目を力なく開きその手を伸ばす様は、まさっしく逆説的な色気がむんむんです。
 不健康なのに艶っぽい。かすかに漂う背徳の香り。
 はっきり言って無駄にえろいです。
 ここには桜君はいないんだよ! サービス過剰だよ、ドクロちゃん!
 しかしその瞬間、
「んきゃぁぁぁぁぁぁ」
 落ちました。ドクロちゃん落ちてしまいました。

 お約束としか言いようがありません。あんな体勢でつるべに手を伸ばしたら落ちて当然。言い訳無用。
 だめです、やっぱりだめです。彼女のおつむでは生き残ることは不可能に近いようです。
 激しい水柱が上がり、辺りには一足早い小雨が降り注ぎます。
 この高さです、ひょっとしたら足ぐらい折っていても不思議ではあしません。が、
「やったぁ、お水がたくさんだよぅ」
 心配した僕を置き去りにする体の奥底から響く声。激しい水音。
 なんとドクロちゃん喜んでます。水を勢いよく飲み干しながらその手の平で水と戯れ遊んでいます。
 そのぽじてぃぶしんきんぐがとっても涙を誘います。
 と、そこで僕の目は三度見開かれることになりました。
 彼女の汗と僕の体液にまみれ、ブラウスが、ソックスが、ぐっしょりぬれてその肌に張り付いているのです!
 しかもこの尋常じゃない濡れ方からすればショーツまでぬれてても疑問はありません。
 また、透けて見える肌は熱で仄かに赤く、かすかに湯気が立ち上る様はまさしく扇情的の一言。
 ドクロちゃんもそれに気が付いたのか、その端正な顔を困惑にゆがめます。
 ああ、恥らう姿が余計に…… GJ!
「あれ、どうやって出たらいいのかな」
 あらら、服のことを心配していたわけではないようですね。はやとちりはやとちり。
 とは言ってもそれなりの高さがある僕、直径だってドクロちゃんの両手を伸ばしても足りません。
 さっきまでその瞳に囚われていた僕がドクロちゃんを閉じ込めてしまっているのです。
 そう、体内に!
 喜び勇む僕の心が……

「あれれ、なんかくらくらしてきらよ」
 あの、なんかこのパターンは……
 頭を抑え、ろれつが回らない口調、ふらふらとさまよう足元。
 酸欠です。
 ……とても厭な予感に侵食されていきます。
 ドクロちゃん、首を不意に不吉にふらりと揺らし、
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」

 へぶほぉっ

 僕を体内から棘付きバットで殴打したのです。
 内壁のレンガが獣にその爪で裂かれたように抉れます。隙間から土砂が流れ込んできます。
 やめて! ドクロちゃん! 僕死んじゃうボブゥ!
 それエスカリボルクじゃないでしょう! 君、今魔法使えないんだよ! 生き返らないんだよ!
 そんな声にならない僕の悲鳴が彼女に届くはずもなく、バットの巨大な質量が僕の中で思う存分その威力を発揮します。
 掠めた底がざっくり割れて、僕の血が、水が、命が流れ出していきます。
 一撃を受けた壁の一角が崩れ小さな穴が出現、そこから空気が吹き出てきます。
 これでドクロちゃんは助かるでしょう、しかし僕はもうここまでのようです。
 徐々に失われていく僕の水。揺らめくドクロちゃんの絶対領域。
 彼女のショーツと、その奥で透けてるであろうアレを見ることなく僕の視界は闇へと塗りつぶされたのでした。

【F−2/井戸の底/1日目・13:45】
【ドクロちゃん】
[状態]:脱水症状はとりあえず回復。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: 出れないよう。

[備考]:F-2の井戸の一角が崩れました。穴はどこかに続いている可能性があります
    F-2の井戸は枯れました。井戸の底で地下水がどこかに流れ込んでいます。
    F-2の井戸のほとりでキャンプファイアーが煌煌と燃え、狼煙を作っています。

2005/07/16 修正スレ155

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