作:◆fg7nWwVgUc
from the aspect of ULPEN
ざく ざく ざく…
森の中に、ただひたすら自らの足音のみがこだまする。
それは心地のいい音だった。
風で葉の揺れる音も帝都の我が家を思わせて心をおちつかせる。
妻の眠るあの小屋を。
いったん草原へ抜けたのだが、暫く歩いてから引き返して正解だった。
また、見晴しの良い草原では、片目を失った視界は酷く不安でもあった。
ここにはそれがない。
どれほど歩いたのだろう。30分、あるいは1時間か。
(無心のあまりに時の概念すら忘れたか)
唇を歪ませて苦笑しつつ、彼、ウルペンは胸中でそうつぶやいた。
が、ふと気付いて笑みを消す。
長く仮面で表情を覆ううちに付いてしまった癖だった。
一人で歩きながら唐突に笑みを浮かべる男など気味の悪いものでしかないだろう。
見ている者は居ないはずだ。少なくとも彼の気付いてるなかでは。
それでも直した方がいいに変わりない。
しかし彼は気付いていなかった。
彼が見当違いな方向へ進んでいる事も。
左目を失い左腕の焼けおちた体は、酷くバランス感覚にかけており、まっすぐに歩く事は困難だ。
知らぬ間に蛇行し、同じ場所を彷徨っていても不思議は無い。
勿論いく場所に目的があったわけではない。が、それでも現在地を見失う事はリスクになりうる。
しかし彼は気付いていなかった。
森も、極限を超えた心身も、驚くほどに平穏だ。
しかし彼は気付いていなかった。
変化はいつもこともなげに訪れる。
from the aspect of MONKEY TALK
ざざぁぁぁ!
「っ!!」
本日二度目の落下感。こんなものは一日に一回で十分だ。
一日一回落下感。なんだか標語みたいで語呂が良い。
…いや、普通は一回もないのか?
「て、そんなことよりも… ドクロちゃん!!」
眼前に迫ってくる地面を後目にぼくは腕の中の少女を抱き寄せた。
目をつぶって衝撃に耐える。ついでに舌を噛まないように。生物として当然の防御反応だろう。
ずざぁぁああああん
ゆっくりと目を開ける。よし。特に怪我をした様子はない。
「ふわあーん ひははんひゃっはよー(舌噛んじゃったよー)」
なんだかものすごい涙目だ。砂埃でも目に入ったか?
「………」
まあこの娘にそんな事期待するのは無駄だよなぁ。
しみじみと感心して辺りを見回す。
あの銀髪が追ってこないとも限らないし、今の大音響で他の参加者に気付かれないとも限らない。
上方の気配を伺ってから、前方に視線を延ばす。
そこにあったのは…黒い影。
最初ぼくはそれを怪物だと思った。
なんだか酷い違和感がある。
なぜだか凄い危機感がある。
いや、よく見ればそれは知っている人物だった。
小屋にやってきて、娘を探していたあの男。
女の子を殺した、と言っていた。危険人物と見て良いだろう。
そして違和感、その理由は――すぐに分かった。男には左腕が無い。
たった一つそれだけが彼のシルエットに怪物じみた印象を付加していた。
でも、本当に――それだけなのか? ぼくの脳が危険信号を送る。
「ドクロちゃん!逃げるんだ!」
これもまた、本日二度目。
しかし当のドクロちゃんは目をこすっていて何も気付いていない。
「ドクロちゃん、といったか」
黒尽くめの声。肌が泡立ち、皮膚が戦慄する。
その言葉に反応したのはドクロちゃん。
「そうだよ。おにいちゃんの名前は?」
小首を傾げる仕草には危機感というものが全くない。
先ほど傷つけられたというのに忘れてしまったのか。
何故――気付かないんだ。
このぼくが、こんなに恐怖していると言うのに。
あの娘は、あんな目にあったというのに。
何故――この恐怖に気が付かない。
「俺の名前か」
面白そうに、男。
「俺の名前など、もうないも同然だ。もとより、多くの者が知っていたわけでもない。そして、それも皆死んだ」
ああ、そうか――
「今の俺は黒衣だ。空白を跋扈し人の世を蹂躙する怪物だ。
さて黒衣に名前がいるか?存在の全てをこの衣のうちに隠す存在に?
答えは否、だ。」
これは、この恐怖は――
「今の、俺に、名前は、ない」
今分かった。この恐怖はぼくの恐怖だ!!
物語を歪ませ、結末を狂わせる無為式へのジョーカー。
他人に成り代わろうとする彼女、雑音。そしてこの男。
怖い、恐い。恐ろしく、恐怖している。
「終わりを始めようじゃないか」
見た事のある糸がどこからとも無く現れ、ぼくのひざの上の、少女の首に巻き付いた。
「う あ、いやぁあ」
さっきの牽制とは違う、本気の攻撃。男は、ドクロちゃんを殺す気だ。
なんだか、少女の体重が軽くなっていくみたいだ。急速に、乾いていく。
「っやめろぉおお!」
ぼくはできる最善の事をした。つまりドクロちゃんを放り投げた。
木々の向こうに小柄な少女の影が消える。
…今度はちゃんと目をつぶってくれる事を祈ろう。
とりあえず、男の意識はドクロちゃんから逸れたようだった。
そして、逸れた意識が次に向かう対象は――
「つまり身を挺してあの娘をかばう、というわけだな」
やっぱり、ぼくですか。
「――別に、身を挺したつもりなんて、ないですよ。ぼくはこう見えても薄情なんです。後であの子にいろいろと恩を着せるという下心がありありなわけで」
戯言だ。分かっている。
それでも喋るのをやめられない。
足が震えて動かない。
足が竦んで動けない。
それを知ってか知らずか男は一歩、こっちに近付いてきた。
気が付けばぼくの首筋にも銀色の糸。
「では一つ質問をしよう、少年。問いはこうだ。
『お前に確かなものはあるのか』」
は は、とぼくは笑った。
かすれて、悲鳴じみて聞こえていたかもしれないけど、それでも確かに笑った。
なんと、滑稽じゃないか。
今まで、ぼくは望まれもしない戯言を語ってきた。
それは物語を狂わせ、結果多くの死者が出た。
本当に、多くの人がぼくの戯言で死んでいった。
この島に来てからも一人。もしかしたら凪ちゃん、ドクロちゃんも。
戯言じみた質問だ。答える事も、戯言。
男はぼくにそれを要求している。名前の無い男。戯言の効かない切り札。
効く相手のいない戯言なんて、虚しい独り言。
「そんなもの、あるわけないじゃないですか。
壊して、眺めて、逃げて、近寄って、憎んで、愛して。
そのどれもが半端だ。
ぼくは「生きて」なんかいなかった。ただ、「いる」だけだった。
徹底的に、何もしなかったんだ。
生きたいのに、生きられず、死にたいのに、死ねず。
そんな、戯言使いです」
多分、これが最後の――
「さしあたって、確かなのはぼくはあなたに殺されるだろうと言う事ぐらい…ですよ」
最後の、戯言。
「お前は賢明だ」
ああ…喉が乾いた。
誰か、僕に水を下さい。
【F−4/森の中/1日目・13:10】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/(零崎人識)/(霧間凪)/三塚井ドクロ)
【いーちゃん 死亡】
【ドクロちゃん】
*生死不明。 次の書き手に任せます。生存なら脱水状態。
【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:こいつ(ギギナ)をどうにかして、いーちゃんたちと合流
『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索