作:◆fg7nWwVgUc
チサト ――あの青年が確かだと思うもの、彼の幸い、彼の真実。自分はそれを、奪う。
アストラ ――己が確かだと思いたかったもの、己の妻。殺人精霊はもう居ない。
そして彼女の対なるミズーもまた――
( ――俺にはまた 何も無い)
一歩、また一歩を踏みしめながらは、ウルペンはひたすらにその言葉を繰り返す。
信じるに足る物など何も無い世界。
帝都、契約、絶対殺人武器。
それらは風のようにすり抜けていき、手の中には何も残らなかった。
心の奥に虚しさだけが募る。
信じるに足るものなど何も…
「…いや、一つあるか」
思わず声が漏れ、唇が皮肉に歪む。
それでも歩みはとまらない。
――死――
彼がもたらし、彼に訪れ、彼の真実を奪い去った事もある。死。
この世界において唯一信じるに足る、必ず果たされる約束、いや、契約。
かつて信じていた契約、己の不死を保証するそれとは違う。
「契約者」の死、彼はそれを目撃した。
また「契約者」であった自身の死、それもこともなげに訪れた。
しかし、その死によって証明された事もある。
『奪われないものなどなにもない』
それだけが、唯一絶対の真実。
(皮肉なものだな…。逆吊りの聖者には相応しい)
おそらく、それは絶望なのだろう。
規則性に欠けながらも途切れる事の無い歩調の中で自覚する。
俺は絶望しているのだ――と。
唐突に、先ほどの青年の決然とした表情が浮かんだ。
信じるものがあるかと言う問いに、即座に答えたその表情。
――彼にも絶望を。
絶望した心中に生まれた願望――チサトを殺し、彼から奪う。彼に絶望を教える事。
それは何か儀式めいた意味を持つように感じられた。
例え倒錯であったとしても構わない。
いや、あの青年だけでは飽き足らない。
参加者の全て。
絶望を知らない者の全て。
既に死したはずの自分と出会う生者の全て。
このゲームという名の殺しあいに否応無く飲み込まれた全てに。
思い知らせてやるのだ。死と喪失だけが人に約束された唯一のものだと。
そして―― やがては自身にも再び死が訪れるだろう。
だが、それまでに、果たしたい望みがある。チサト――
「これで…」
自然と歩調が早まる。
確かなものはなにもない、それが答え。自分はそれを証明する。
「これで満足か、アマワァあああああ!」
いつしか彼の内、出血に喘ぐ男の内は外見も知らぬ女と異形の怪物の姿に占められつつあった。
やるべき事は決まっている。
チサトを殺し、全てを殺し、アマワに答えを突きつけるのだ!
この島のどこかにいるアマワに…
彼は歩みをとめない――
『地図の空白が失われた時、怪物はどこにいくのだろう?』
【G−3/森の中/1日目・12:30】
『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索