作:◆J0mAROIq3E
「見ろよミリア! この人参、泥がついてるぜ!」
「掘りたてだね!」
「しかも放置されてるのにこんなに瑞々しい!」
「濡れ人参だね!」
「いや濡れてはいないと思いますけど」
商店街をしばらく歩き回るうち、三人は八百屋を発見した。
当然店員はいないのだが、野菜は少量ながら置いてある。
(主催者が置いた……? でもそれじゃあ毒の可能性もあるんじゃ……)
手の触れた大根を気味悪げに要が見たとき。
「きぇぇい!」
「きゃあ! アイザックかっこいい!」
アイザックはテーブルの上に置いた人参を猛然と切り刻んだ。
「食いなミリア……真心の人参スティックだ」
「わぁ! いただきまぁす!」
「ちょっ、ミリアさ……」
止める暇もなく。両手で人参スティックを持ったミリアは、ハムスターのようにそれをかじる。
「……えっと、大丈夫ですか?」
要が躊躇いがちに聞くや否や、ミリアは目を見開いた。
「うわぁぁ! 大変だよアイザック、要!」
「どうしました!?」
「どうしたミリア!?」
「この人参、生でも甘いよ!」
「無農薬だな!」
「有機栽培だね!」
心配しすぎかな……と要も人参を一本つまむ。
おいしかった。
デイパックに生でも食べられそうな野菜――トマトや人参、その他を詰め、アイザック達は意気揚々と立ち上がる。
「これで健康生活間違いなし! 次は救急箱だな!」
「薬屋さんだね!」
「あの、ここって奥が民家になってるみたいですから救急箱ぐらいあると思います」
普通ならですけど、と続ける要に二人は大げさなほど「わぁびっくり」のジェスチャーを見せた。
「さすが知能犯のイエロー!」
「イエローロジカルだね!」
「キイロジカルだな!」
「いいから早く探しましょうよ。思ったより時間かかっちゃいましたし」
こんなに騒いでよく悪人に見つからないなぁ、と今更ながら思う要であった。
幸運にも包帯や化膿止め、絆創膏といったものが少量ずつ詰められた箱が二階の戸棚にあった。
ついでにお茶菓子まで見つけたのでそれも取っていく。
「アイザックはタンスを開けた。なんと救急箱を見つけた! お菓子も見つけた!」
「勇者だね!」
「勇者って空き巣なんですか……?」
「違うよ要、勇者は王様から民家のタンスと壺を調べるよう命令されたんだよ!」
「国民の抜き打ち持ち物検査だな!」
「役に立っちゃいそうなものは勇者様が没収だね!」
「やっぱり空き巣じゃないですか」
「大丈夫大丈夫、俺達泥棒だから!」
「泥棒だから盗まなきゃ!」
どこにツッコミを入れたものかと思案したとき。
外から小さな爆音が聞こえた。
「甘い、甘い少年!!」
初老の紳士が、少年の放つ火球を避け、時に指を鳴らして動き回っている。
その光景を戸の陰から三人が呆然と見つめる。
吹き込む熱気が、これが現実のものだと告げていた。
「と、特撮だねっ」
「爺さんファイターだなっ」
さすがに小声になって成り行きを見守る。
少年――終とは一度倉庫で遭遇しているものの、姿が違いすぎて気付くことはなかった。
最初は老紳士の連れらしい少年少女三人がいたが、すぐに逃がされた。
それからかなりの時間、少年と老紳士が拮抗を続けている。
止めようとはしたものの、動きが早すぎて割り込むことさえできなかった。
見ているうちに突然紳士の動きが止まり、そこに火球が殺到する。
「は、早く助けに行かないとっ!」
「でもでも、アイザックが死んじゃうのは嫌だよぅ」
自分たちなりに何とかしようと必死に考える二人の隣で、要は怯えを全身で表していた。
アイザック達や潤のような善人がいても、やはりここは殺し合いの場なのだと。
程なく。
少年の持つ剣に体を貫かれた紳士は、ゆっくりと崩れ落ちた。
少年が立ち去るのを見届け、三人は倒れたままの紳士に駆け寄った。
「しっかりしろ爺さん! 傷は深いけど浅いぞ!」
「そうだ救急箱だよ要!」
「……駄目です、アイザックさんミリアさん……」
右胸に触れても、感じるはずの鼓動は既に停止していた。
「うぅ、サスペンスだねアイザック……」
「第一発見者だな……」
言いながら、アイザックは十字を切って両手を合わせ、出鱈目な弔いをした。
ミリアがそれに倣い、要も慌てて真似をする。
彼らなりに真面目に冥福を祈っていると、紳士のポケットから何かがはみ出ているのに気付いた。
「何でしょうこれ……ナイフみたいなヘラみたいな……」
「遺品だな。……よし、これを持って俺は爺さんの遺志を継ぐ!」
「復讐だね!」
「今度あいつを見たらこの勇者剣の名にかけて……ぶつ!」
「でもでも、そしたらアイザックまで焼かれて刺されちゃうよぅ」
「じゃあ遠くからこっそりぶつ!」
「わぁ! 慎重派だね!」
即座にいつものノリを取り戻した二人を見て、要は震えながらも呆れたように息を吐く。
(……この二人と一緒で本当に良かった)
見た目より軽いナイフを強く握りしめ思う。
二人の底抜けの明るさに感謝し、要は老紳士に再度黙祷を捧げた。
「あ……もうすぐ12時だな。早く戻んないとグリーンにしばかれる!」
「愛のお仕置きだね!」
「心配してるかもしれませんから、早く戻りましょう」
こうして、商店街での一連の騒動は幕を閉じた。
一方、ビルの事務室で潤は気怠げにため息を付いた。
時計を見るともうすぐ12時。
(遅いなあいつら……帰ってきたらぶん殴ってやる)
子犬の肉球をぷにぷにしながら物騒なことを考える。と。
「ただいまグリーン!」
「頑張って走ってきたからぶっちゃ嫌だよグリーン!」
「すいません、遅くなりました」
三者三様の挨拶を聞き、
「あー……おかえり」
何だか馬鹿らしくなり、苦笑を漏らした。
「ふぅん……火をぶっ放す小僧に倒された爺ねぇ」
いよいよファンタジーの領域だな、と余裕ありげに鼻で笑う。
「それで、これが遺品なんですけど……」
「……おやおや。いーたんったらあたしのプレゼントを横流ししやがったのか」
要が見せたのはかつて潤が零崎から奪い、友人に渡した錠開け専用鉄具だった。
恐らく主催者に没収されて支給品に回されたのだろうが。
「潤さんの……ですか?」
「ああ。これ、鍵開けるのに便利な泥棒グッズなんだけどさ。わざわざ支給されてんなら、どっかの鍵開けれるのかもな」
「どうするミリア!? 泥棒が鍵を開けれたら……無敵だぞ!」
「火と火が合わさって炎になったガンタンクだね!」
「そりゃガンバスターだろ馬鹿ども」
一発殴っとこうかなと起き上がったとき……頭の中に声が響いた。
「……どうしたもんかね、まったく……人類最強の請負人が聞いて呆れるな」
小笠原祥子。
忌々しい放送は、祐巳の言うところの“お姉さま”が没したことを冷徹に告げた。
「祐巳になんて言やいいんだよ……今ごろ泣いてんぞあの子……」
祐巳が同じエリアの崖の上で放心状態になっているとは知らず、潤は片手で顔を覆う。
「でも潤さん。それなら尚更祐巳さんを探して、励ましてあげるべきだと思うんです」
数時間前の自分のように。
この底抜け天上抜けに明るいカップルと、犬のような竜に励まされたように。
「そうともグリーン! 別れがあれば出会いあり!」
「私たちだっていっぱい別れて悲しかったけど、それ以上にいっぱい出会った嬉しさの方がおっきいもん!」
自分たちが若いまま友人達が老いて亡くなっていく苦悩。
そんなもの、この二人の幸福永久機関の前には無力であった。
「そっか……そうだよな。パンピーに諭されるなんざ、あたしもヤキが回ったもんだ」
頬を平手で叩いて活を入れる。
「よっしゃ! 飯にするぞ野郎ども。今日のあがりを出しやがれ」
「へい親分!」
「親分!」
「おい起きろファルコン。飯だ飯」
黒く濡れた鼻をぴしぴしと指で弾く。
「ん……やめてくださいデシ、ルーミィしゃん……」
「あん? そりゃ元の飼い主か? それよりほら、大根食え」
「その前に手当てしましょうよ潤さん……」
【C−4/ビル一階事務室/一日目/12:10】
『人類最強の世にも幸せなバカップル国記』
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。内臓は治ったけど創傷が塞がりきれてない。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:錠開け専用鉄具(アンチロックドブレード)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻)は殺す こいつらは死んでも守る
[備考]:右肩が損傷してますから殴れません。太腿の傷で長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は数時間で治癒)
体力のほぼ完全回復には残り11時間ほどの休憩と食料が必要です。
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に深い傷(止血済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お腹空いたデシ
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式・野菜とお茶菓子)
[思考]:ランチだミリア!
【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式・野菜)
[思考]:そうだねアイザック!!
【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式・野菜)
[思考]:潤さんとホワイトの手当てをして、食事
[備考]:上半身肌着です