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330:灯火と帰還者の物語

作:◆QhOm486dgg

 クリーオウは時計を見る。時刻は11:00
 空目と交代してから1時間が経つ。
 隠れるながら窓から外を見る。

(誰か来るかと思ったけど……意外)

 皆と別れてからすでに3時間になるが人影は無かった。
 クリーオウはふとため息を吐く。そのとき、空目が目を覚ました。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」
 クリーオウは小声で謝る。
「いや、問題ない。……燃える臭いがするな」
 空目は軽く鼻をひくつかせながら言う。
「え、そんな臭いはしないけど」
 クリーオウはそういぶかしげに答える。
「……外か」
 空目はそう言って突然歩き出す。
「え、ちょっと待ってよ!」
 空目の突然の行動にクリーオウは慌て、急いで空目を追いかける。

 そこには休んでいた人間がいた。
 相手もこちらに気がついたのだろう。慌てた様に手に銃を持ち直す。
「そこで止まれ!」
 その人間は制止の声を放つ。その声にクリーオウと空目は止まる。
 そして止まった直後空目は言う。
「……お前は、何だ?」
 その言葉にクリーオウは疑問を持つ。普通なら誰だと聞く。何故『何だ』と聞いたのか。
 相手もその言葉に疑問を持ったのだろう。不審な顔をしながら、しかし次の瞬間納得したように答える。

「僕は坂井悠二。坂井悠二本人の残り糟から作られた代替物、トーチと呼ばれる存在。
……よく僕が人間じゃないって分かったね」
 クリーオウはその言葉に驚き、空目は無表情のまま言う。
「俺はこの世の物でない匂いが識別できるだけだ。
匂いの原因が何か知るために来たが、君自身が怪異だったか」
「怪異か……確かにそうかも知れないな。まぁ、僕のことは置いといて君たちはどのように行動しているの?」
「今は人探しの最中だ」
「僕も同じく人探しの最中。まずはお互い情報交換しようよ」

 情報交換が始まる。お互い探している人物は知らないこと。そして――

「この『物語』は一体どこから手に入れた?」
『物語』を読み終えた空目は悠二に質問する。
「森の中の小屋。場所はE-5付近だよ」
「そうか」
「この『物語』は絶対脱出の役に立つんだと思うんだ。恭一もそう思うだろ」
「不明だ」
「……そうか」
悠二の露骨に残念そうな声、しかし空目の言葉には続きがあった。
「だが、この『物語』は本物だな」
「本物?」
 空目はその疑問に目を瞑りながら話し始める。
「これは合わせ鏡の物語。恐らくは魔女……十叶詠子が仕込んだ物だろう。
『物語』は人から人へ"感染"し、"感染"した人間は『物語』により認識された異界が牙を向く。
以前遭遇した鏡に関する『物語』では40人死んだ」
 悠二は不安になったように疑問を放つ。
「この『物語』は危険な物?」
「不明だ。だが、調べる必要はあるだろう。
異界をこの世界に呼び込むとしたら、異界に耐えられない人間には危険だろうな」
 その言葉に悠二は考え込む。

「……つまり耐えられる人間だけに伝えれば良いわけか。
僕はどっちかっていうと、君の言葉で言う怪異そのものだからそこまで危険ではないけど、
ただの人間であるクリーオウさんにとっては危険な物。だからクリーオウさんには見せなかったんだね」
 悠二の考えに空目はうなずきつつ答える。
「その可能性が高い」
「これからは見極めた上で『物語』を読ませるよ」
「それがいいだろう」
 悠二は自分の意思を空目に確認、空目はそれに同意する。
「ありがとう。この『物語』が危険かもしれないって分かっただけでも良かったよ。
……さて、そろそろ僕は行くよ」
 今までの会話について行けず黙っていたクリーオウは、その言葉に反応する。
「え、一緒に探さないの?」
 悠二は苦笑しつつ
「いや、止めておくよ。僕はシャナと長門さんを探さなきゃいけないし、君達の中だと僕は足手まといにしかならない。
でもシャナ達を見つけたら僕は港C-8に行ったって伝えて欲しいな」
「……分かった」
「あ、そうだ。友好の印にこの缶詰をいくつかあげるよ。中身何か分からないけど」
 悠二はバックパックからIAI製と書かれた缶詰を10個取り出すとクリーオウに渡す。
「え、これいいの?」
「うん、良ければ食べて。……それじゃまた。恭一、クリーオウさん」
「ああ」「また後でね」
 こうして悠二はこの場所から立ち去って行った。

「恭一はなんで物語を読ませること自体に反対しなかったの? あの『物語』は危険なんでしょ」
 悠二と別れ、学校に戻りながらクリーオウは空目に聞く。それに対し空目は、
「現段階では情報不足だ。第一本当に魔女が関係しているかも不明だ。
また力で止めようとしても相手は怪異そのもの。逆に此方が死ぬことになる」
 口ではそういいながら空目はクリーオウに紙を渡す。そこにはこう書かれていた。

『どこからか主催者が聞いている可能性もあるためここに書く。
物語に"感染"しなければ、異界はその人間に影響を与えない。また、
異界が発生した場合、異界に耐えられる者にとって刻印の効果を一時的にでも無効化できる可能性等利点もある。
ならば、異界に耐性がある者に同意を得た上で『物語』を読ませたほうが良い。
坂井が考えていたことはそういうことだ。それを止める理由は、今の所俺にはない』

「でもそれって……」
「なんにしても不明なことが多い。まず何が起きているか知る必要があるな」
「皆が戻ってきたら相談だね」
「そうだな」

 もうすぐ二回目の放送が始まる――

【居残り組な悠二】
【残り85人】
【D−2(学校周辺)/1日目・11:20】

【坂井悠二】
[状態]:健康・感染
[装備]:狙撃銃PSG-1
[道具]:デイパック(缶詰の食料、IAI製)、地下水脈の地図 (かなり劣化)
[思考]:1.シャナ、長門の捜索。2.異界に耐性ある人に物語を知らせる。3.港C-3に移動
[備考]:悠二のMAP裏に零時迷子のこと及び力の制限に対する推論が書いてあります。
    ただし制限の推論が正しいかは不明です。
    缶詰の中身、物語・感染の詳細は後の人に任せます

【学校居残り組】

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。缶詰の食料(IAI製10個)
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康/感染
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式/《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: ゲームの仕組みを解明しても良い/詠子が何をしているか知る。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。

*行動:交代で二時間睡眠。皆が戻ってきたら寝かせて見張り。
    学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ。
    また、『物語』について皆に相談する。

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