作:◆wkPb3VBx02
「待ってください!……ぐぁっ!」
タン!と二度目の銃声。今度は肩ではなく足を狙ったのか、右脛に激痛を古泉一樹は感じた。
前のめりにつんのめり、しかし右手は打たれた左肩を押さえていたため、咄嗟に反応出来ず古泉はその場に転倒してしまう。
「くっ……何故……?」
どくどくと血と飲み水が流れ絨毯に染みを作っていくのを尻目に、古泉は遠ざかってくアーヴィーの背中を見つめた。足を怪我している割には、その速度はえらく速い。
自分の発言のどこが発砲のきっかけに成ってしまったのだろうか、と古泉は漠然と疑問に思う。
(……しかし、これは返って良かったのかもしれませんね)
優秀な射撃手を失ってしまったことは大きな損失だが、このまま時間が経ってここぞという時に裏切られるよりはずっとましかもしれない。
完全に見えなくなってしまったアーヴィーを意識から振り払い、古泉は床を無事な右手と左足で這って壁まで辿りつく。
手頃な棚を支えにして上半身を持ち上げ、そのまま壁にどさりと凭れる。視界の霞みが焦燥感を煽った。
「怪我の手当てを……しなければいけませんね……」
声は掠れ、何時ものアイドル然とした彼の笑顔も今は苦しげだ。引き攣り気味な笑顔は、明らかに無理して笑っているとしか思えない。
古泉は近くのガラクタを探り、治療器具もしくはそれに準ずる物がないか探した。不幸なことに、使えそうなのは一本の短剣だけだったが。
「これだけ、ですか……覚悟を決める他ないようですね……」
古泉は懸命に独り言を続けて意識を保とうとした。そうでもしなければ、今すぐ気絶してしまいそうだった。
短剣の鞘を抜き、ぎらりと輝く銀の刃が錆びていないことを確認した後、古泉はそれを逆手に持った。
何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、古泉は短剣を左肩に突き込んだ。
「……く、ぐぁ……あああっ!!」
ぐちゅり、という肉を抉る音を間近で聞きつつ、手首を捻って体内に残る弾丸を抉り出す。
ぽとり、と弾丸が絨毯の上に落ちて転がって行ったのを見て、古泉は短剣を放り出す。付近のボロ布を手繰りよせ、残り少ない水で傷口を洗ってからきつく縛ろうとした。
が、上手く出来ない。左肩は思うように動かず、些細な衝撃で激痛齎すだけだ。口を使って縛り上げるのに、古泉は少々時間を食った。
縛り終えた頃には視界のほとんどはぼやけていて、目蓋が酷く重く感じた。このまま寝てしまいたいという誘惑に勝ち続ける自信が、古泉には無かった。
「足の方はどうやら掠っただけみたいですね……」
誰にともなく、古泉の独り言は続く。まるで自分を励ましているかのような行為に、若干の空しさを覚えながらも。
古泉はまたもや苦労して右足を止血処理を施し、安堵の溜息を吐いた。蒼白だった顔も、止血前よりかは幾らか穏やかになっている。
(どうにかして、長門さんと合流しなければなりませんね……)
当初の計画はほとんど崩れてしまった。また、新たに練り直さねばならないだろう。
だが、そんな余裕は肉体的にも精神的にも残ってはいなかった。
無事手当てを終えたという事実から来る安堵感に浸りながら、古泉は目を閉じた。
やらなくてはいけないことも、酷く遠い物に感じていた。
そのまま、古泉は眠るように気を失った。
古泉一樹、ゲーム開始から二度目の気絶であった。
【G-4/城の中/1日目・08:00】
【古泉一樹】
[状態]:気絶中。左肩、右足に銃創(共に止血ずみ)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:長門有希を探す