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235:地下追走

作:◆MvRbebNEg

 最初に飛び出して来たのは女の方だった。
 無抵抗な者に銃を向ける事に対し、脳の奥底で誰がか止めろと警告するが、師匠に貰った命を繋ぐためにはこうするしかない。
 頭部、眉間を狙って引き金を引く。
 射出された弾丸は思い描いた理想の軌道を瞬時になぞり、無防備な女に命中する──はずだった。
 着弾する直前、女の脇から飛び出してきた男が女を突き飛ばし、そして、被弾した。
 苦痛を訴える叫びも一瞬、男は右手の得物をこちらに向かって投げ付けてくる。
「くっ!」
 銃身で弾いて凌ぐが、その行為によってできた隙は女に銃を構える時間を与えてしまった。
 女が引き金に指を掛ける。
 咄嗟に近くにあった物陰に飛び込みやり過ごす。数発の銃声が響き、何かが壊れる音がした。
 音が止んだところで手だけを物陰から出し、二人がいるであろう方向に撃つ。まぐれ当たりに期待したが、再び銃声が響きその期待は外れた。

 少しの時間をおいて呼吸を整えたのち、周囲を警戒しつつ物陰から出る。
 ここを襲う前に周辺に人がいない事は確認しているが、銃声を聞き付けた好戦的な輩が乱入してこないとは限らない。

 二人が逃げた方向に目をやると、男のものと思われるおびただしい量の血が廊下を染めていた。
 この量から考えるに恐らく男は助からないだろう。
 だが女は生きている。自分が生き残るためには女も殺す必要がある。

 ──生き残らなければならない。どんな事をしてでも。

 ……ですよね? 師匠──
 亡き人を思い、自分の決心を再確認し、血の道を辿る。無論、周囲への警戒も怠らない。
 過去に自分は自分のものではない血を使って敵を欺き殺した事がある。
 女がそこまで機転を利かせるだけの状態かどうかは分からないが、注意しないに越した事はない。
 赤い道標は屋外──庭の中程にある不自然な扉の前まで続き、そこで途切れていた。

 女が中で待ち伏せている可能性を考慮しつつ、慎重に扉を開く。
 金属製の扉はあちらこちらに錆が浮き、硬質の物体の軋む音が周囲の空気を震わせる。
 銃を構えながら中へと入る。中は暗く、開けた扉から差し込む光だけが四方を壁で囲まれた室内を照らしている。
 下へと続く階段以外は何も見当たらない。

 足音を極力たてないようにゆっくりと階段を降りて行く。懐中電灯はつけない。
 自分が逃げる立場であれば、この階段の終わりで待ち伏せ反撃する。
 今から行くので襲ってくださいと主張するような代物は使わないに越した事はない。
 最初は扉から差す光で気付かなかったが、階段内は発光する玉黴のようなものが所々に浮いていた。とりあえず足元が分かれば問題ない。
 しばらく進むと階段の終わりが見えた。警戒を一層強め一歩一歩慎重に進む。
 階段の先は大きな空洞になっており、少し離れたところから先は黒い水面が広がっていた。
 階段脇には先程撃った男が横たわり絶命していた。とりあえず周囲に人の気配は窺えない。

 キノは少しだけ警戒を解き、改めて周りを見渡した。

【C-3/地下の湖/(1日目・09:56)】
【残り90人】
【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ベネリM3(残り5発)
ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り18発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:女(風見千里)を探す。最後まで生き残る。

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