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224:Don't Despair

作:◆l8jfhXC/BA

「我は癒す斜陽の傷痕」
 傷口はふさがれたが、まだねばつくような熱い痛みが残っていた。苛立ちが募る。
 石段の西にある高架下の森の中、息を潜めてオーフェンは身体と精神を休ませていた。

 不満はあったが、それなりにうまくやれていたあの女性との関係。
 そして弟子と会い、彼女は弟子を生かすために死んだ。そしてその弟子は遺志を継いで生き延びる選択をした。
 ……最初がごたごたしただけでこのゲームではこれが普通ではなのかもしれない。だが。
「……」
 参加者の誰かの力を目覚めさせるため。
 最後に残った一人に用がある。
 なにかの儀式。
 ──どれもこんなゲーム(そう、奴らにとってはゲームなのだ!)を成り立たせていい理由にはならないし、なってはいけない。
「……あいつは生き残っても救われないだろうに」
 “オーフェン”になったばかりの頃の自分と似ている、絶望にとらわれた少年。
 師の遺志に縋りながら、多くの参加者の命をあの武器で奪っていくのだろう。
「純粋な殺人者よりも、ああいう奴の方が多いんだろうな、この──“ゲーム”には」
 内にたぎる主催者に向けての怒りを抑えながら、オーフェンは今後の行動について考えた。
「……こんな状況だ、身内以外には頼らない方がいいのかもしれない」
 こちらが信じようとしても、相手が疑心暗鬼に陥ってしまう可能性はある。
 最終的に脱出を目指すなら赤の他人との協力は必須になってしまうだろうが……今は知り合いから頼った方がよいだろう。
 デイパックから名簿を取り出し、改めて眺める。
 知り合いは4人。意外と多い。
「ボルカンのやつはほっといても死なんだろ。あいつの死体が出てきたらそれこそこの世の終わりだ」
 それに、もうややこしい奴には会いたくなかった。
「クリーオウは早く保護しないとまずいな。あいつには戦える力がない」
 一人旅に出た後、彼女がどうなったかは知らないが……どちらにしろレキがいなければ彼女はただの少女だ。
「マジクは強い味方になってくれる。クリーオウを見つけるまでうまく無事でいて欲しいんだが」
 マジクには魔術がある。彼は自分の弟子となり、旅の途中で一人前になり、自分から離れた。
 クリーオウと同じくしばらく会っていないが、きっとより強くなっていることだろう。

 ……そして。
「……ほんとになんでもありか、ここは」
 改めて溜め息をついた。
 コミクロン。
 チャイルドマン教室の一員。
 医療技術に優れた魔術士。
 ──チャイルドマンに殺された、魔術士。
「…………」
 捜すべきかどうか、迷う。
 単純に同名の別人かもしれないし、あるいは前の『キリランシェロ』のように誰かがそう名付けて命じた殺人人形かもしれない。
「本当に本人だったらどうする? 死ぬ前に戻っているのなら、俺にいい感情は持っていないかもしれない。
……いっそのこと“キリランシェロ”の時の奴ならいいんだが」
 そもそも前者は外見も知らない。
 あちらからコンタクトがあるまで積極的に動かない方がいいようだ。 生き残って欲しいとは思うのだが

 一通り考えがまとまると、オーフェンはデイパックからペットボトルを取り出し、半分ほど水を飲み干した。パンにもかじりつく。
「……」
 パンを腹の中に流すように咀嚼し、エネルギーを無理矢理補給する。
 そしてふと、考えた。
「……ここまで生き残って──しかもゲームに乗らないことを選んでいる奴は何人くらいだろうな」
 自分は放送をほとんど聞いていない。死人の名を告げる放送も二人分のみしか耳に入っていない。
 できればその二人だけで終わっていることを願うが、まず間違いなくそれ以上の犠牲者が出ているだろう。
 そして身内が死んだことで殺す側に回る者もまた多くなる。
 ……あの少年のように、絶望に食われてしまう者が大勢出てくるだろう。
「くそ」
 一体何人が、正気を保ったままここで生きていけるだろう?
 一体何人が、誰も殺さずにここで生きていけるだろう?
 一体何人が、絶望せずにここで生きていけるだろう?
「……俺は、」
 ──正気は保っていられる。……だが、もしマジクやクリーオウが死んでしまったら怒りを抑えられないかもしれない。
 ──ここで殺さずに生き残るのは多分不可能だ。その手段を選ばなければいけないときが必ず来るだろう。
 ──神はいない。人は自立しない。それでも生きていかなければいけないことが絶望。

『なにかあるんだ! 奇跡はないかもしれないが、それと同じものが。じゃなけりゃ、誰も生きてなんていけるものか!』
 以前、自分がクリーオウに言った言葉を思い出す。
 一体何人が、奇跡と同じなにかを見つけることができるだろう?
「……俺は、できる」
 誰かに宣言するように、声を出した。
「俺は、絶望しない。マジクやクリーオウは俺が取り戻す。他の奴らだって、絶望していない者はいるはずだ。
……好きで殺し合ってる奴ら。好きでもないのに殺し合っている奴ら。そいつらよりも俺たちの方が多くなれば、俺たちの勝ちだ」
 二人を捜し、同志を探し、ここから脱出する。できないことではない。……絶望しなければ。
 ──神はいない。人は自立しない。それでも生きていかなければいけないことが絶望。
 だが、自分は絶望しない。
「それが俺だ」
「自我の確立というものは健全な青少年にとって一番重要なものだが、お前さんの年ではちと遅すぎやしないか?」





「いきなり黙るのは身体に悪いぞ」
「………………」
 ゆっくりと、深呼吸をする。
「……いいか、よく聞け」
 目の前のそれを見つめる。できるだけ小声で話しかける。
「うむ」
「この期に及んで見るからにややこしそうな奴がでてくるなあああああ!」
 青い虫のようなものに向けて、言ってやった。

【残り91人】
【C-4/高架下の森/1日目・06:40】
【オーフェン】
[状態]:身体の疲労は回復。精神はお察し下さい。
[装備]:スィリー(気絶から復活、真下のオーフェンのところへ)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1と1/2、パンが少し減っている)
[思考]:マジクとクリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※放送を冒頭しか聞いていません。
※周囲のどこかにアメリアの支給品(支給品一式+獅子のマント留め)があります

2005/05/09  改行調整、一マス開け追加、本文微修正

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