作:◆D8W1AT6yro
「申し訳ありません、師匠。確実に眉間を狙えと仰っていたのに」
立ち上がり服の草を払うと、キノは師匠に詫びた。
――殺すつもりでいたのに、また腹部や足を狙うとは……。
師匠の呆れ顔が目に浮かび、キノは小さく首を振った。
(きっと彼らが武器を構えていなかったせいだ)
どうやら相手に殺意がない限り、殺さない方針でいた普段の習慣が体に残っていたらしい。
だが、これからは違う。これからは確実に殺す。
今回は真正面から戦ったが、今回だけだ。
一度は一緒に行動しようとしようとした二人と、師匠と共にいてくれた一人に、敬意を表しただけにすぎない。
(次からはどんな手を使ってでも――)
決意を新たに固めたキノは、ふと自分の得物に目を落とした。
カノンは、あと一発しか撃てない。
(そういえば、あの二人も銃を持っていたな)
キノは階段に近づいていった。
そっけなかった階段は、二人の人間と夥しい血により様相を変えていた。
まずキノは、足を打たれただけならまだ救いがあったであろうが、バランスを崩し転んだせいで頭が陥没し、
もはや顔の確認すら出来ない不運な少年の、銃とデイパックを奪い取る。
そしてこつこつと数段のぼり、腹部の銃創からどくどくと血を流す男のそばへ歩み寄った。
男の傷は誰が見ても瀕死の重傷で、放っておいても死ぬだろう。
しかしキノは構わずカノンを男の眉間に向けた。
無粋な行為ともいえたが、キノの頭には師匠と一緒にいた男がいたのだ。
交戦した後見失ってしまったが、あの不思議な力が気にかかった。
よくわからない力を持つ者がいる。
もしかしたらそのせいで、この先自分の常識が及ばないことが起こるかもしれない。
例えば、瀕死の人間が回復するとか。
一度腹部を狙っておいて言えたことではないが、確実に止めを指しておきたかった。
「……う……」
「!」
しかしいざ引き金を引こうとした時、男が覚醒した。
キノは驚いて思わず手を止めてしまう。
カノンを構え警戒をしていたが、男はやけにうつろな瞳で、自分の現状に気付いていなかった。
どうやら、死を目前に幻覚でも見ているらしい。
男は色を失っていく目を這わせ、やがてキノの姿を認めると、呟いた。
ごぼごぼと口の端から血が泡となって溢れ出て、声は全く聞き取れなかったが
か・い・る・ろ・ど
血染めの唇は、確かにそう動いた。
(……ああ、そうか)
冷めた目でキノは思い出す。酷く大昔に思えることを。
(そういえばボクは、この人の知り合いを探してたんだっけ)
――でももう、どうでもいいことだ。
カノン最後の銃声が、響いた。
【C-5/階段付近/1日目・06:20】
【イルダーナフ(103)死亡】
【残り91人】
【キノ (018)】
[状態]:通常。
[装備]:『カノン(残弾無し)』 師匠の形見のパチンコ
ベネリM3(残り6発)
ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り20発)
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。