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210:初めての電話

作:◆lmrmar5YFk

静雄を探したい。セルティのその願いに、保胤は快く了解した。
セルティの話を聞いた限りでは、静雄は彼女の無二の親友らしい。その上、とにかく物凄く強く、味方についてくれれば何よりも心強いそうだ。
この島に保胤自身の知人が一人もいない事を考えれば、同盟を組んだ彼女の友人を探すのは重要事項と言って良い。
夜を明かした海岸近辺から南東の方向へと進んでいた二人は、視線の先に何かが落ちているのを発見した。
「誰かの支給品のようですね」
『一時的に置いてある、とは考えにくいな』
その荷物は木陰や建物の中などではなく、草の間に無造作に放置してあったので、セルティがそう思うのは尤もと言えた。
ちなみに、それはシロちゃんことトレイトン・サブラァニア・ファンデュが中も見ずに置いて来たデイパックであったのだが、彼らがそんなことを知る由もない。
周囲を見渡し、特に罠などでなさそうなことだけ確認すると、袋へとおもむろに手を伸ばした。
『中身を見たほうがいいな。武器や食料が残っているかもしれない』
セルティの提案により、デイパックを空けた二人が最初に目にしたのは全く手付かずの食料だった。
『これだけでも十分幸運だな。…持ち主はどうしているのか知らないが』
言外に、本来の所有者が死んでいるかもしれないとの思いを含ませて、セルティが書き連ねる。
パンとペットボトルを自分たちの荷物に詰め替えるセルティの横で、保胤がデイパックの底に手を入れた。
「まだ何かあるようですが…?」
硬く冷たい板のようなものの感触が手に当たったのに気づきそう呟くと、探り当てた『何か』を指の間に挟み込んで袋の中から摘み出す。
「!」「?」
目を見開くセルティと首をかしげる保胤。二人の反応の差異が、彼らの間に本来流れている筈の年月を如実にあらわしていた。
『静雄の携帯だ』

手元の紙に手早くそう書くセルティ。その書体は先ほどまでと比べると所々荒く、彼女が混乱しているらしいことがよく分かった。
しかし、一方の保胤は平安時代の人間である。いくら彼が聡明とはいえ、1900年代に発明された機械を知っているわけはない。
彼は、不思議そうな顔でセルティに尋ねた。
「この板が一体どうしたのですか?」
『ん…? ああそうか。知らないに決まっているな』
そこから数分、セルティが講師を務める「誰にでも分かる・初めての携帯電話使い方教室」が開かれた。

「…つまり、これを用いれば離れた場所にいる相手とも会話ができる、と?」
『まあ、そう言うことだ』
「信じられません」
こんな板が、とでも言いたげな保胤に、セルティは応える。
『私も信じられないよ…』
セルティは、保胤から渡された携帯電話を震える手で操作した。
その手の中にあるのは、見慣れた平和島静雄のものに間違いなかった。前面の特徴的な塗装の剥げには、確かに見覚えがある。
電話はなぜか圏外ではなく、利用可能地域を示すアンテナが表示されていた。
だが彼の電話帳に登録された番号に手当たりしだい電話をかけてみても、ざぁざぁという雑音が聞こえるばかりで、一向に繋がる気配はない。
しかし、とここでセルティは思った。この携帯電話は単なる外れアイテムなのだろうか?
いや、それはない。このゲームの『主催者』たちがそんな意味を成さないことをするとは考えがたい。
つまり、私の推測が正しければ―。
『聞いてくれるか。この携帯には私の番号が登録されている』
「はい?」
セルティが何を言いたいのか分からない(と、いうかそもそも何を言っているのかもよく分からない)保胤が微かに困り声で返事をする。
『簡単に言うとだな、この島のどこかに恐らく私の携帯がある。その一機とだけ、この携帯は繋がるはずだ。
誰が持っているかは分からないが、相手が話を聞く人間なら、私たちの仲間になるかもしれない』

「私がですか? しかし…」
『仕方ないだろう。私は声が出せないのだから』
そう言うと、セルティは頭部の欠けた自身の首の上を、立てた指で示した。
セルティ本人は普段メールにしか携帯を使わない。しかし、こんなときにメールを打っても誰かに見られる可能性は低い。
その上、たとえ誰かが見てくれたとしても、まともに返信が返ってくるかどうか保証はないし、好きなことを書いて送れるメールでは、偽証も容易い。
それよりは、直接相手の声を聴いて交渉することのできる電話のほうが、同盟を組む相手を探すには都合がよいだろう。
そう思っての決定だったのだが、喋れない自分に電話がかけられるわけもなく、仕方なく保胤に頼むことになったのだ。
『頼む。静雄か、味方になってくれる誰かを見つけたいんだ』
「…分かりました」
セルティのその言葉に、保胤はとうとう首を縦に振った。
未知なる物への好奇心は確かに人と比べて強い方だろうが、千年以上も先の文明の機械など正直奇怪でしかない。
それでも、彼女の頼みが切実であることは分かっていたから、断ることなど不可能だった。
『ありがとう。感謝する』
保胤に優しげな字でそう礼をすると、セルティは、画面を見ながら自分の登録番号を呼び出した。
―鬼が出るか、蛇がでるか、はたまた救いの神が出てくれるか?―
ピ、ピポパポ、ピ。
セルティが指で突起を押すたびに流れる機械音。それらは不意に「プルルルル…」という音の連続に変わった。
『これで、繋がるだろう』
セルティは一言だけそう書くと、持っていた電話を重々しく保胤に手渡した。

【B-2//1日目・07:45】
チーム名『紙の利用は計画的に』(慶滋保胤/セルティ)
【慶滋保胤(070)】
 [状態]:正常
 [装備]:着物、急ごしらえの符(10枚)
 [道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」・綿毛のタンポポ・携帯電話
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている

【セルティ(036)】
 [状態]:正常
 [装備]:黒いライダースーツ
 [道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索

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