作:◆J0mAROIq3E
「ふぉーーーっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ!!」
爽やかな朝の草原に、くぐもった哄笑がこだまする。
殺人ゲームの会場に配置された鳥たちが、死んだような無垢顔で背の高い木から落ちていく。
挫けることを知らない心身を包むのは、ボンタ君量産型。
隙は見せないように、しかし威圧感を損なわないように、ゆっくりと歩くのが彼女のたしなみ。
もちろん、彼女を止めようなどといった、命知らずな人間など存在していようはずもない。
小早川奈津子。
鎌倉の御前プレゼンツのこの女傑は、剛き日本をつくろうという、伝統ある極右お嬢様である。
E−6の草原。ゲーム開始時の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、
管理者に見守られ、脱ぎ捨てられたボン太君量産型が落ちている普通の園。
時間は移り、時計の単身が六を指した放送時刻でさえ、三十×年育ち続けた黒社会育ちの純粋培養お嬢様が
着ぐるみ入りで哄笑する、という現象が実際起こっている貴重な場所である。
……ともかく、早朝に拾い、伸縮性が高いので着てみた着ぐるみが脱げなくなって怒り狂っていた奈津子は、哄笑している。
理由は簡単。
六時の放送は、彼女の仇敵の黒幕たる竜堂始が没したことを告げていた。
(以下は着ぐるみ内の生の声をお届けします)
「をーーーーっほほほほ!! やはり! やはり悪は滅びましたわお父様!!
どこかにおわした正義の戦士よ、見つけたらばワタクシが全身を以て愛してさしあげますわーーっ!!」
ボン太君を通してさえその声は大気を鳴動させる。
喜びのあまり踏みならした足が地面を陥没させる。
もはやアラストールは話し掛けるのをやめ、着ぐるみの内側にぶつかるままに黙っている。
(……どうやら、敵が死んだようだな)
奈津子の事情など知らないため、その人物が誰かも分からず、何の感慨もない。
「ああっ、後は後はあの小生意気な小娘と大生意気な三男坊を滅せばここに留まる理由もありませんわね!
邪魔な軟弱非国民どもを滅殺し、帰還の後に次男坊と末っ子の首を刎ねる!
さすればアタクシは何の憂いもなく愛のマホロバの創設に乗り出せるという寸法よ!」
感極まり、怪獣さながらの咆吼が背後の森を震わす。
奇しくもそれは近くのエリアで残りの宿敵、竜堂終が上げた竜咆と重なり、二人はお互いの存在に気付かなかった。
一通り猛った後、電池が切れたように奈津子は沈黙した。
こうしている場合ではない。
早く日本へ帰り、軟弱な国家を矯正しつつ美少年牧場を作らなければならないのだ。
「ああ忙しい忙しい! 正義の天使に休む暇なし!
お父様、奈津子は頑張ります! どうかお空で見届けてくださいまし!」
うるうると空を見上げ(何故かボン太君の目が潤み)、亡き父の祝福を祈った。
奈津子は勘を頼りに西南西へと走り出す。
中の人でこうも違うのかと思うほど禍々しい雰囲気のボン太君は、過密地帯へと向かう。
その胸中に灯る思いは一つ。
この二つの拳でもって帰りの切符を。
アラストールの制止の声も聞かず、歓喜に打ち震える自称愛の戦士は疾走する。
【E-6/平原のど真ん中/1日目・6:03】
【小早川奈津子】
[状態]:絶好調
[装備]:コキュートス(アラストール入り。アラストールは奈津子の詳細を知らず)
ボン太君量産型(脱衣不可能)
[道具]:デイバッグ
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅。2.正義のための尊い犠牲をこの手で