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203:サッシー捜索隊

作:◆MvRbe/bNEg

刃物男とのコンタクトから40分ほど経過し、佐山と詠子は小さな小屋の中にいた。
 あれからさらに北上を続けると、次第に森が開け背丈の低い草や薮が広がる草原に出た。
 草原を北へ進むと東西に走る道があり、二人はその道を渡った先にある森の中にいた。
「詠子君、この辺りで一つ休憩にしないかね?」
 という佐山の提案に対し、
「……うーん、この奥に小屋があるみたいだねえ」
「ほう、それは確かかね?」
 問われた詠子は、右手にある木の根元を軽く指差して
「この子が言ってる… じゃだめかな?」
 もちろん佐山には何も見えない。が、不思議少女には不思議少女なりの能力か何かがあるのだろうと納得し
「ではそこで休むとしよう」
 という塩梅で二人はこの小屋の中にいる。
 小屋は約4m四方の正方形で、高さは約2m半、ドアは南側で、東側の壁には備え付けの棚らしきものがあるが、
 壁や床一面、ボロという言葉では片付けられないくらいに腐敗が進んでおり辛うじて小屋の形を留めているという感じだった。
 外壁にはびっしりと苔がついており、遠目には小屋かどうか判別するのは難しい。
 室内には工具らしきものが無数に散乱していたが、みな錆びていてとても使えそうもなかった。

 それらを一通り見回した佐山は、部屋の真ん中にある辛うじて使用できるロッキングチェアに座り、しばらく虚空を捏ねたのち
「……ふむ」
「それは体操か何か?」
「いや、さすがに恋しくなってくるものだね」
「ふーん」
 よく分からない行為に没頭する“裏返しの法典”を視界から外し、詠子は部屋を見渡した。
 朽ち果てた工具一つ一つの傍らにはずんぐりむっくりがおり、みな一様に酸素に汚染された金属を見ている。
 それらの中でとりわけひょろひょろしたのが何かをじっと見つめていた。
 何だろうと思い傍へ行くと、ひょろひょろの視線の先にはブリキの箱があった。拾い上げ箱を開くと中には数枚の紙片が乱雑に入れられていた。
 その大半は変色し、何が書いてあったのか判別できなかったが、その中で比較的変質の進んでいない二枚の紙を手に取り
「これ……地図、かなあ?」
 一枚目にはゲーム開始時に支給された地図と似たような図が描かれていたが、地図の右上にある湖のまわりに書き込みらしきものが多数あり、
 湖からは細い線がいくつかの枝分かれをしながら、左の方にある市街へと延びていた。
 市街の中心には湖のような描写がされており、そのまわりにも書き込みらしきものがいくつかあった。
 もう一枚には地面を輪切りにしたような図が描かれており、右上から左下に掛けて線が延び、左下には空洞のようなものが描かれていた。

「ねえ、悪役さん」
「何かね? 今私はトレーニング中で忙しいのだが」
「んーとりあえずこれ、見てもらえるかな」
 世話しなく手を開いたり閉じたりしている佐山を無視して詠子は地図を渡した。佐山はそれをしばし眺めたのち、ふむと小さく呟き
「地図だね。だが、上半分に不可解な点と線と文字がある。想像力を掻き立てられるね?」
「でしょう? あなたの想像、聞きたいなあ」
「ふふふ、詠子君は大胆だね。では特別に披露しよう。
 これは地図だ。だが地上の地図では無い。地下の、恐らく地下水脈の類だろう、その地図だ。
 そしてこれを見る限り市街地の下には大きな空間がある。何かは分からないが探ってみるのも一興だろう」
 よし、と佐山は一息つき、
「食事を取ったら市街地に向けて進もうか。新庄君の事は当然のように気掛かりだが、あの空間も気になる。
 行って調べて怪獣の一つでも見つけてやろうでは無いか。ははは、私の名前をとってサッシーとでも名付けてやろうか」
 そう言ってデイパックを漁り始めた。
「そうね、面白そうね。ふふふ」
 ……地下空間、閉鎖的な闇と静寂。素敵な『物語』が書けそうね。

【残り94名】
【E-5/北東の森の中の小さな小屋の中/1日目・07:10】

【佐山御言】
[状態]:健康
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個、メス
[道具]:デイパック(支給品一式)、地下水脈の地図
[思考]:1.仲間の捜索。2.珍獣サッシーを捕まえて新庄君の賞賛を!

【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.元の世界に戻るため佐山に同行。2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に

※B-7から消えた水は市街地の下に流れ込んだと思いねえ。

2005/04/10 修正スレ32-33

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