作:◆lmrmar5YFk
城に向かって、クレアは一直線に走っていた。常人では考えられないようなスピードだ。
この島では、誰しも能力に制限がかかるはずなのだが、天性の才能とそれを凌駕する努力の日々とで獲た彼の肉体は、それくらいの抑制に負けはしない。
風を切り、むしろ彼自身が吹きすさぶ風のようになって、ひたすら走り続ける。
ん…?
その彼が不意にぴたりと足を止めた。周囲から微かに感じる何らかの違和感。人の気配と、それ以上の何か―。
ぎょろぎょろと眼球を動かして、己の周りを詳細に確認する。その瞳が、彼の数メートル先に仕掛けられた罠を捉えた。
彼の超人的な視覚でなければ気づかなかっただろう。足元に張り巡らされた細い糸は、草に綺麗に紛らせてあって一見しただけでは全く分からない。
普通の人間が歩いていれば、まず確実にうっかり足を引っ掛けてしまうことだろう。
シャーネか…? クレアは愛しい婚約者の顔を思い浮かべた。テロリスト集団にいたこともある彼女なら、これくらいの罠を仕掛けるのは容易いことだろう。
自分の勘では彼女は城の中にいるはずだし、この辺りから感じる気配は彼女のそれとは違っているのだが、まあ万が一ということもある。
…それに、そもそも相手はこんな罠を作る人間なのだ。おそらく掛かった者は問答無用で殺すつもりなのだろう。
こいつをこのままにしておけば、シャーネに何らかの危害を及ぼすかもしれない。
…まあ、シャーネが、俺の選んだ女が、このくらいの罠を見抜けないこともないだろうけどな。
そう思うものの、やはり心配な気持ちは募る。
いくら彼女が強いとはいえ、たとえば相手が複数だったら、あるいは先日戦ったクリストファー・シャルドレードのような変人で奇人で狂人で強靭な奴だったら、無事でいられるかどうか分からない。
シャーネの顔に傷一本でも付けた奴ぁ、俺の手で皆殺しだ。
シャーネの顔に傷一本でも付ける可能性がある奴も、俺の手で皆殺しだ。
クレアは、手にしていたハンティングナイフを用い、手近な糸を一本ぷつりと切った。
すぐさまその場を離れ、ろくに手も使わず常識はずれな跳躍力だけで近場にあった樹上へと登る。
生い茂った木の葉がちょうどよい目くらましになり、下から自分の姿は見えないだろう。
かさりと手で葉を掻き分け、眼下を見下ろす。
その視線の先に現れたのは、刃や柄にべったりと鮮血の纏わりついた出刃包丁を持った一人の青年だった。
【F-4/森の中/一日目6:50】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:城に行く 姫(シャーネ)を助け出す シャーネに害をなすものは殺す
【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 罠に掛かった奴を探す