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176:竜意の顕現

作:◆J0mAROIq3E

――101竜堂始、115マジク・リン

……以上、23名。

「冗談……だろ? 始兄貴が……?」
 竜堂終はあまりのショックに手にしていたペットボトルを取り落とす。
 茉理の無事だけ確認しようと気楽に聞いていた放送は、有り得ない名前を告げていた。
 竜堂始。
 竜堂家の長兄にして家長。
 失職中の元講師にして、終にとっての小遣い管理人。
 殺しても死なないはずの、終が絶対に勝てないと思う三人のうちの一人。
 聞き間違いと思うには彼の聴力は優れすぎていたし、聞いたときの心も平常だった。
 自分が化け物と交戦していなければ一笑に付していただろう。

 ドクン。

 心臓が熱い。湧き出す感情は悲しみよりむしろ怒りが大きい。
 説教ばかりしてすぐ小突く兄。自分のB級映画好きを遥かに超える古書マニアの兄。
 兄弟には強いくせに茉理には頭の上がらない兄。
 そんな始の姿を一つ思い出すたびに、吐き気がするほど大きく心臓が震える。

「っく…落ち着けっておれ……」
 胸を押さえても感情は荒ぶるばかりで少しも鎮められない。
 そして最悪なことにその状態に終は心当たりがあった。
「竜に…なっちまう……」
 健康的に焼けた肌が、波打つように光る。
 余分な思考が削ぎ落とされ、自分が何故怒っているのかすら忘れそうになる。
 まずい。
 初めて竜身を現したとき、その竜はただの猛獣として荒れ狂った。
 始の精神と繋がっていて初めて制御できた竜への変化。
 加えて力を制限するこの島。抑える意志さえ制限されたように歯止めが効かない。
 どうなるのか想像などできなかった。
「家訓曰く怨みは十倍返しとはいえ……うっかり人殺しちゃったら……始兄貴、怒るだろうな……」
 その寂しげな言葉と裏腹に、瞳は凶暴さを増し、全身が光に包まれる。
 次男に堪え性がないと評価された精神は、簡単に竜としての本能に浸食される。
 東京都中野区在住・竜堂終としての思考が途切れる直前、終の脳裏にはまだ無事な従姉妹の姿が浮かんだ。
「茉理ちゃんだけは……助けないと……」
 閃光。

 最強の獣の気配に、近くの森から全ての鳥や虫が慌てて逃げ出す。
 終の皮膚を、最高級の真珠を思わせる美しい白鱗が覆い尽くす。
 精悍な瞳が爬虫類のそれへと変貌する。
 しかし、何かに阻まれるようにその変化は急停止した。
 閃光の後に残ったのは人身のまま竜の鱗と凶貌を持ち合わせる、異形の生き物だった。
 不完全な竜への変化。
 “それ”は自らの無様な姿を見、怒り狂うように咆吼した。
 ヒトの声帯からは不可能なその咆吼は広域に広がり、海面さえ震える。
 靴を突き破った爪が砂浜を噛むと同時、彼は獲物を求めるように駆け出す。
 ――マツリチャンヲ、マモル。
 その意志だけを残し、猛竜は北へと疾駆した。

現在位置 【E-7/海岸/一日目、06:02】

【竜堂終】
[状態]:竜への不完全な変化(精神的にはかなり竜寄り)
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:1.茉理を守る 2.それ以外の一切は動物的本能(攻撃する者は殲滅)

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