作:◆cCdWxdhReU
子爵のいる石段に向かい歩き始めたが、すぐに祐巳は足を止めてしまった。
「どうしたんだい祐巳、やっぱり気分でも悪くなったのか?」
未だ心配な目で哀川潤は祐巳を見つめる。
祐巳の先ほどまでの行為と、その決意を知っているのだ。無理も無いだろう。
「いえ、忘れ物をしました」
「忘れ物?」
祐巳は振り向き、ヴォッドを埋葬した跡に向かう。
さっき埋めたばかりなので、まだ土が湿ったままのそこには一着のコートが置いてある。
漆黒のレザーコート、ヴォッドの着ていたそのコートは、今は亡き主を待つかの如くぽつんとそこに残されていた。
血を飲むときに邪魔になるので脱がせたのだけど、
このままここに放置していくのは祐巳にはやっぱり抵抗が感じられた。
私の一方的な我侭のために彼の骸を汚してしまった。
祐巳はコートを手に取る。
裾が少し破けただけで、内側に少し血の跡が残っている。
これならば十分着れる。
バサリ、
その漆黒のコートを天に向かい掲げ、翻し、コートを身に着ける。
「あなたの形見、私が引き継がせてもらいます」
今は土の中に眠るヴォッドに告げ、私は振り返る。
「そいつを着るのかい?」
「ええ、男性モノで私には大きいかもしれませんが。これが彼への供養になると思うんです」
そう、どういった経緯で彼、ヴォッドさんがその一生を終えたのかはわからない。
だが彼にとってその死は決して納得のいくものではなかっただろう。
だから、せめて形見の品だけでも私が使い、ヴォッドがくれた力を共に見せてあげよう。
それが祐巳にできる彼へのお礼だ。
「いいんじゃねーの? 無駄に短いスカートのナース服よりもちょいとチラリズムって感じで、
おじさん大興奮だ。それにそのコート、……いやまぁこれはいいか」
そう途中で言葉を切り
「それじゃあ今度こそ行くぜ」
今度はさっきと逆、哀川潤が先頭になり子爵の待つD-4へと二人は向かったのだった。
【残り94人】
【E-4/草原/7:35】
【福沢祐巳(060) 】
[状態]:看護婦 食鬼人化
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)、
[思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密 D-4に向かう
【哀川潤(084)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:小笠原祥子の捜索 祐巳の力はまだ半信半疑 祐巳の食鬼人のことは忘れたことにする
D-4に向かう