作:◆3LcF9KyPfA
(まずったな……)
一回目の放送が終わって、ヴァーミリオン・CD・ヘイズは嘆息する。
天樹錬なら生き残るだろう……そう考えていたが、甘かったようだ。
「俺の方は元から知ってる名前はなかったが……そっちは、いたか?」
と、考えていたらコミクロンが訊ねてくる。
正直に話すかどうか一瞬迷い――
「……天樹錬が、知り合いだった。もう知り合いはいない」
「……そっか」
だが、落ち込んでばかりもいられない。
或いは、光明が見えてきたかも知れないのだ。ここは割り切らねばならないだろう。
――時間は二時間程前に遡る。
互いに今までの経緯や、元居た世界の話をしている最中にそれは起こった。
「黒魔術……か。ちょっと、それを見せてもらえないか?」
「あぁ、構わんぞ」
彼らの使う魔術に興味を覚え、ヘイズが言う。
そしてコミクロンが答えると、その表情が真剣なものへと変わる。
彼が言うには、どんな些細な魔術であろうと気を緩めるわけにはいかないらしい。
「――っつ!?」
と、突然I−ブレインにノイズが走った。
この世界に来てからの制限とは違う、微弱だが、確実に異質な雑音。
「……コンビネーション1−7−2」
その声が合図だった。
コミクロンの手の上、30センチ程の場所に小さな光球が現れたかと思うと、パッと散ってしまう。
同時、I−ブレインに響いていたノイズが止まる。
「……やはりおかしいな。
効果そのものの制限はともかく、構成が変に歪んで少し編み難い。
さっきまでは普通に編めたんだが……」
コミクロンの独白を聞いて、ヘイズの中で何かが閃いた。
もしかすると――
「なぁ、コミクロン。今度は俺の『破砕の領域』を見てもらえないか?」
「ん? あぁ、そうだな。俺ばかり見せたんじゃ不公平というものだしな」
言うが早いか、I−ブレインの出力を上げた。
<システム起動。動作効率を60%に設定>
I−ブレインが受けた制限の正確な強度が解らないので、少し余分に動作効率を上げる。
別に戦闘状態でもないので、効果範囲は直径10センチ程に絞って演算する。
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
I−ブレインからの報告を受け。
右手を手近な木の幹へ向けると、ヘイズは指を鳴らす。
――パチンッ
音によって揺れた空気分子が、ヘイズの演算通りに動き、配列を変える。
植物が土中へと根を広げるように、音の波が、空気の分子が、動き、広がり、論理回路を空間へと築き上げていく。
「――なにっ!?」
論理回路が完成し、木の幹に拳大の穴が開くのと同時、コミクロンが驚愕の声を上げる。
(やっぱりそうか!)
「おい、ヴァーミリオン……今の、構成……魔術を、声を出さずに……?」
「視えたんだな? 『論理回路』が」
「ろん、り、かいろ?」
「あぁ、いや、なんでもいい。とにかく、『何』が木の幹を破壊したのか、視えたんだな?」
「……視えた。さっきのがヴァーミリオンの世界での『魔術』なのか?」
「あぁ、そうだ――って、ちょっと待て。なんだそのヴァーミリオンって。
普通は面倒がってヘイズって呼ぶ奴が多いのに……珍しいな」
「気にするな。世紀の大天才にして科学者たるコミクロン様には容易いことだ。
……キリランシェロなんていう、舌を噛みそうな名前の知り合いもいるしな」
「……そうか」
それはともかく、これで決まった。
「変な奴」だと思っていたコミクロンだったが、もしかしたら「当たり」かもしれない。
おそらく、魔法士の情報制御理論と魔術士の構成は、根本的な部分で同じ、或いは同等の構造をしているに違いない。
魔法士は論理的に、魔術士は直感的に情報の改竄をする。
ヘイズのI−ブレインのノイズや、彼の構成を編む速度が落ちているのも、その辺の相互干渉である可能性が高い。
ヘイズはそう結論した。
そして、このゲームに天樹錬が参加している。
ヘイズの予測が正しければ、どの種類かは解らないが、最低でも一本。
騎士剣の類が誰かの支給品に入っているに違いない。
そう、“騎士剣”。
数ある魔法士の中でも“騎士”を対象に、騎士を補助する為だけに特化し造られた、デバイス・ソード。
その騎士剣には、複数の論理回路が刻み込まれている。
“情報解体”、“運動系数制御”、そして――“自己領域”。それらを補助し、効率的に作動させる為の論理回路。
そしてコミクロンは、論理回路を知覚することが出来る。
彼が騎士剣を解析し、“構成”を使って仮想的に“論理回路”を再現することができれば、あるいは……
「……っは、馬鹿馬鹿しい。いくら構造が似てるからって、論理回路は論理回路だ。そうそう上手くは――」
上手くは、いかないのだろうか? 本当に、無理だろうか?
ヘイズは顎に手を当てると、更に考える。
確かに、今までの推論が全て間違っているかもしれない。
確かに、確率が高いとは言えないかもしれない。
確かに、全くの無駄に終わるかもしれない。
しかし……もしも、もしも上手く騎士剣を起動させることができれば――
「最悪、錬に会えなくても、剣が手に入ればコミクロンが簡単な情報解体くらいは使えるかもしれん」
――生き残る可能性が、またひとつ上がることになる。
――時は戻って現在。
「それで、これからどうする、ヴァーミリオン?」
「……『騎士剣』と呼ばれる武器を探す」
「探すとどんなメリットがある?」
「タイムラグによる接近戦での不利、という黒魔術の弱点が補強される」
――かもしれない、とは口に出さず、心の中で続けた。
「…………ふむ」
コミクロンが少し考え、告げる。
「いいだろう。だが、その騎士剣とやらが見つかったら、俺の協力も頼みたい」
今度はヘイズが考える。
「……わかった。それで何がしたい?」
「しずく、クレア、いーちゃんを探す」
自分の勘を信じきっている馬鹿が一匹、ここにいた。
【G-6/森の中/一日目/06:15】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:健康
[装備]:尖った石
[道具]:デイバッグ一式、有機コード
[思考]:騎士剣を探す。コミクロンに協力する。
[備考]:呪いの紋章の概要を把握
付近で魔術士が構成を編むと多少影響を受ける
【コミクロン】
[状態]:健康
[装備]:エドゲイン君1号
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:ヴァーミリオンに協力する。勘で選んだ三人を探す。
[備考]:付近でI−ブレインが作動していると多少影響を受ける
【残り94人】
2005/04/03 修正スレ19
2005/05/09 文頭に空白を挿入 改行・描写調整
2005/05/11 魔法関連の名称を変更