作:◆cCdWxdhReU
「もしかしたらボケちまった子爵のたわ言かもしれないんだ。
やめといたほうがいいんじゃねーか?」
後ろでそう言う潤さんの言葉を無視して、
私はその平地を子爵に教えられた位置に向かって歩き続ける。
そして目印と言われたクレーターを発見しその周りを歩き回り、
ついに子爵の言っていたものを発見した。
「あった」
よかった。子爵の言うとおり灰にはまだなってないようだ。
そこにあったのは吸血鬼、いや子爵の言葉を借りれば
成長する吸血鬼――半鬼半人、ダムピール。
ヴォッド・スタルフの死体だった。
「食鬼人(イーター)?」
私、福沢祐巳は突然子爵が言い出したことに驚きを隠せなかった。
【左様、さっきも言ったとおり私はこんな形をしているが、
君の先輩を襲った人物と同じ吸血鬼だ。
そして私たち吸血鬼を狩る者、そう『ヴァンパイアハンター』の中でも、
最も恐れられるものが食鬼人というわけだ】
「それ、強いんですか?」
【強いな。私の知り合いに一人食鬼人がいたが、
この私を一時は封じれたかもしれない力をもち、息子を誘惑までしたよ】
息子さんのことはあまり関係ないなどとのツッコミも言わない程、私は真剣に子爵の話に聞き入っていた。
【無論私があったときにはその食鬼人はすでに
数え切れない量の吸血鬼を屠ってきたのだがね】
「それで、その食鬼人にはどうやってなれるんですか?
厳しい訓練なんて受けてる暇はないんですよ」
【簡単だよ。しかしある種普通の人間には究極的に難しく、どうしようもなく不可能なんだがね】
私は子爵の言葉の意味がわからず混乱する。それでは矛盾ではないか。
【ふむ、その顔は疑問だといった顔だね。無理も無い。
私自身こんな状況だからこそ、この手段を思いついたのだからね】
「講釈はいいですから、早く教えてくださいっ」
私は我慢しきれなくなりつい声を荒げる。
【わかった。完結に言おう。
それは吸血鬼を食べることだ】
「――ぇ?」
瞬間私の頭は思考停止を余儀なくされる。
食べる? もしかして今食べるって言ったの?
【古来吸血鬼を狩っていたもの達が創めたことらしい。
私は今食べると言ったが、血を飲むのが一番有効な方法だ】
「でもそんな……」
私は動揺を隠せない。子爵の言うことは全て私の予想の斜め上をいく答えばかりだ。
【これは迷信や噂などではなく、本当のことなのだよ。
なぜ食鬼人がヴァンパイアハンターとして最強かわかるかい?
それは食べた吸血鬼の力だけを己が内に取り込んでしまうからだよ。
しかもその吸血鬼の力を持ちながら吸血鬼特有の弱点は無いのだからね。】
吸血鬼を食べる。そうすれば私が望んだ力が手に入る……。
「じゃあ私が子爵を食べればいいんですか?」
【おいおい、勝手に食べないでもらおうか。
流石に光の蓄えが無い今、君に一部分でも血を分け与えると命に関わるのでそれは無理だよ】
「じゃあ無理じゃないですか、
まさか聖様を吸血鬼にしたやつから奪えって言うんですか? 無理ですよ、そんなの」
私は子爵に抗議の声をあげる。結局話がしたいだけだったんじゃないか。
【誰も自分の血とは言ってないよ。さて話を戻そう。
さっき言った私を狙った食鬼人、実は彼女は今現在は人間ではないんだよ。
ある吸血鬼に血を吸われてね。吸血鬼になったんだ。
つまり数十の吸血鬼の力を取り込んだんだね、その食鬼人から。その吸血鬼の名だがね】
子爵は私のまん前でその名に変化する。
【ヴォッド・スタルフ――先刻の放送で死亡が発表された男だよ】
「……………………」
【ヴォッドは半吸血鬼で光に対しても耐性があるから遺体が灰にはなっていない。
そして吸血鬼の体は腐敗のスピードが人間より異常に遅い。
今からその血を飲んでも十二分に効果は発揮される。
そして私はヴォッドの遺体の場所を知っている】
「………………」
声が出ない。子爵の言葉が全て本当であれば私は食鬼人になれる。
【なんだ、今更怖気づいたのかね。人をやめて鬼となることに恐怖するのかね?
吸血鬼の血肉を口に運ぶことに嫌悪するのかい?
私は聞いたはずだ。覚悟はあるか? と、あれは嘘だったのか?】
私はお姉さまの顔を思い浮かべる。いつも私のために笑顔を向け続けてくれる憧れの人を。
聖様の悲痛な涙を。由乃さんの声を。
「その遺体はどこにあるんですか?」
なぜかそのとき、私は顔が無いはずの子爵の笑顔が見えた気がした。
サングラスを掛けたその怖そうな顔の外人の青年は苦悶のままの表情で事切れていた。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
胸を境に真っ二つになったヴォッドの遺体に手を合わせる。
ヴォッドの胸、心臓の周辺を見ると真っ二つにされてからも修復を行ったのか、治癒の後が見られる。
というか心臓自体は回復していた。
しかしその治癒の甲斐なく、ヴォッドはダメージの高さに治癒が追いつかず死んだようだ。
しかしとその切断面を見る。
よく見ると治癒し、出血が続くのを抑えるところでその体の生命を終えているのがわかる。
そしてその肌だけを見れば、生きているといっても問題ないかもしれない。
――これなら血が吸える。
私は手の震えを抑えつつ、メディカルセットに入っていたメスを握り締める。
震えが止まらない。
どうしたんだ福沢祐巳? おまえは力が欲しかったんだろう?
お姉さまを守るんだろう? 聖様を守るんだろう? 由乃さんの分も生きるんだろう?
……そうだ。私は力を得るんだ。みんなを守れる力を!
「……いただきます」
両手で無理やり持ったメスを持ち、スっと塞がった心臓に通す。
途端まだ固まっていない血が溢れだす。
慌てて祐巳は直接口を心臓に近づける。
錆びた鉄の味が口いっぱいに広がる。
「――っ!?」
その口内を刺激する感覚に私の体が拒否反応を起こしそうになる。
飲め、飲み込むんだ。私。
ゴクリ、喉の中を濃厚なカクテルが流れていく。
その刺激でさらに嘔吐感を覚えるがもう祐巳はそんな感覚を全て無視することにした。
ゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリ
ゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリゴクリ
『ごちそうさま』
10分後、祐巳の『力』を得るための儀式は終了した。
「ほらよ、ハンカチ。顔を拭え。今のおまえ、まるで吐血したみたいだぞ」
「ありがとうございます」
ヴォッドの埋葬を終えた私はハンカチを受け取り
私が儀式をしている間、周りを見張っていてくれた潤さんに礼を言い、顔を拭った。
「気分悪くなったりしてねーよな?」
「最初はそうでしたけど、今はもう治まりました。早く子爵の所に戻りましょう潤さん」
そう言って私は子爵の待つ石段まで先頭を切って歩いていく。
『力』を手に入れた実感はまだない。
だが世界は少しだけ違って見えた。
【残り94人】
【E-4/草原/7:30】
【福沢祐巳(060) 】
[状態]:看護婦 食鬼人化
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)、
[思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密
【哀川潤(084)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:小笠原祥子の捜索 祐巳の力はまだ半信半疑 祐巳の食鬼人のことは忘れたことにする
【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン子爵】
[状態]:体力が回復し健康状態に 今はアメリアの看病をしている
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
[思考]:こんな状況でもどこまでも真っ直ぐな祐巳に対し、好感を持つ 食鬼人の秘密を教えたのは祐巳だけであり、他者には絶対に教えない
【ヴォッド】
血がほとんど無くなった状態で埋葬される
※食鬼人(イーター)
吸血鬼の血液を摂取したものがなれるヴァンパイアハンター。普通吸血鬼は死亡後灰になる、
そのため血液をとることは不可能のため人間がなることは難しい。
別に吸血鬼だけに特化したわけではなく、吸血鬼のリスク(吸血衝動、光に弱いなどなど)を全てなしで取り込んだ吸血鬼の力を持つもの
ヴォッドを取り込んだ祐巳はヴォッドの能力を持ち、怪力と瞬発力は吸血鬼クラスを超える。(木島閑音をヴォッドが取り込んでいるため)
2005/04/03 修正スレ15