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145:Refrein&Limited Heart

作:◆l8jfhXC/BA

 たとえば、まだあいつが研究会に入って間もなかったとき。
 依頼人をナンパするわ尾行の邪魔をするわで最悪だった。
 それでいて、いつも自分よりも真実に近づいていて。
 歯痒い思いが胸に詰まっていた。

 たとえば、みんなが景のことを忘れてしまったとき。
 あのときの水原の言葉は本当に痛かった。
 本当に自分しか覚えていないのだと、想っていないのだと、立ち向かえないのだと痛感されて、打ちのめされた。
 久々に味わった孤独は、とてもつらかった。

 たとえば、DDの連中と協力して『王国』側の悪魔と戦ったとき。
 あのとき水原が来てくれて、本当に嬉しかった。
 でもまず怒ってやった。その方が自分らしい。
 そしてすべてが終わって──風邪と恥ずかしさでぼろぼろになりながら、二人で物部くんと梓さんを探しに行った。

 死にたいなんて、一度も思ったはない。
 『王国』に関わったことで出会った人たち。
 今度は彼らと一緒に日常をつくっていこうと、そう決意していた。

 ──死にたいなんて、一度も思ったことはなかったのに。


「ぅあああ……ああぁ……あ」
 千絵は慟哭していた。
 なぜこんなときに走馬燈のように思い出してしまうのだろう。
 必死に戦っていたあのとき。すべてが終わり、明日に向けて歩いていたあのとき。
 梓と、景と、そして水原と一緒にいたあのとき。
 ──死にたくなかったあのときのことを。
(殺して……お願い……)
 ぼろぼろと涙を流しながら、剃刀の血の跡を舐めている今このとき。
 優しく笑っている少女を睨み付けながら──それでもまだ血を求めている今このとき。
 ──ただひたすら死を求めているこのときに、なぜ思い出してしまうのだろう。
「そんなに睨まなくてもいいのに……。一度受け入れてしまえば、楽になるのよ?」
「うう……ぅ……」
 死にたい。
「うーん……しょうがないわね」
 死にたい。
「じゃあ、これでどう?」
 死に───────────────────────────────

 ぶつんと、何かが切れた気がした。


 たとえば、まだあいつが研究会に入って間もなかったとき。
 依頼人をナンパするわ尾行の邪魔をするわで最悪だった。
 それでいて、いつも自分よりも真実に近づいていて。
 歯痒い思いが胸に詰まっていた。

 たとえば、みんなが景のことを忘れてしまったとき。
 あのときの水原の言葉は本当に痛かった。
 本当に自分しか覚えていないのだと、想っていないのだと、立ち向かえないのだと痛感されて、打ちのめされた。
 久々に味わった孤独は、とてもつらかった。

 たとえば、DDの連中と協力して『王国』側の悪魔と戦ったとき。
 あのとき水原が来てくれて、本当に嬉しかった。
 でもまず怒ってやった。その方が自分らしい。
 そしてすべてが終わって──風邪と恥ずかしさでぼろぼろになりながら、二人で物部くんと梓さんを探しに行った。

 あのころはつらかったけど、楽しかった。
 でも今の方がずっといい。
 脳に駆け抜ける鋭い快楽と、身体全体を包み込むような甘さ。
 カプセルを服用したときもこんな感じなのだろうか。まぁ、もうそんなことはどうでもいいのだけれども。
 ただ──────水原の血が飲みたいな、と思った。


 自分の手首から溢れる血を啄むように舌を這わせる千絵を見て、聖は微笑した。
「やっぱり素直になるのが一番いいわ」
 そうつぶやき、千絵の頭をそっと撫でてやる。
「でも……そろそろ夜が明けるわね。やっぱり吸血鬼に太陽はだめよね? あの倉庫の中で夜を待ちましょうか」
 こくりとうなづく千絵がかわいくて、そっと頬にキスをした。

【残り95人】
【D−4/森林近く路上/1日目・05:30】
『No Life Sisters(佐藤聖/海野千絵)』

【佐藤聖】
 [状態]:吸血鬼化/身体能力等パワーアップ、左手首に切り傷(徐々に回復中)
 [装備]:剃刀
 [道具]:支給品一式
 [思考]:倉庫に行って夜まで休む
 吸血、己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化/身体能力等パワーアップ
[装備]: なし
[道具]: なし
[思考]: 聖についていく
※スィリーは同じ場所で気絶?中

2005/05/09  改行調整、一マス開け追加

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