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第522話:夜の道を往く者との対面

作:◆ozOtJW9BFA

 今夜のミラノは雷雨の様だ。
ここミラノにある剣の館の窓にも激しい雨が叩きつけられている。
その館の執務室で二人の女性による密談は一時間を過ぎようとしていた。

「つまり私達に救援を求めると、そういうことですか、バベル議長?」

執務室の椅子に持たれかかりながら紅い法衣を纏った“世界でもっとも美しい枢機卿”━━━━カテリーナ・スフォルツァは向かいに座る山羊の角が生えた天使に情報の確認をする。

「その通りじゃ、ミラノ公」

あの忌まわしき主催者を打倒するにはルルティエでは荷が重すぎる。他の打倒者達も同じ考えであった。主催者を倒し、参加者を助けるには生半可な戦力では不可能。しかも、あちらの状況も戦力も一切不明。参加者の生死すらもわからずじまい。
会議は止まり誰もが絶望する中、眼帯をした一人の天使が一つの希望を口にした。

「主催者を打倒するためには主催者に詳しい方をここに連れて来たほうがいいのではないでしょうか」

その提案はすぐさま賛成され、ルルティエ議長は主催者と闘っているという機関のトップとコンタクトを取ることに成功したのだった。


「わかりましたバベル議長。『ガンスリンガー』、『クルースニク』彼をこの部屋に」

「肯定(ポジティブ)」

それまで二人の会話を部屋の隅で聞いていた小柄な神父は主の言葉を聞き、部屋から音も無く出ていってしまった。


「ミラノ公!話を聞いておられなかったようじゃな!わらわは『戦力』と言ったはずじゃ!一人の力で何が出来るのじゃ!?」

ドクロやその他の参加者を助けるというのに一人だけじゃと!
この麗人は何を言っているのか……

今ここに『ガンスリンガー』がいたならばバベルに銃を向けていたであろう。だが、天使の責めを止めたのは麗人の一言だった。

「はい、聞きましたよ。議長」

「では何故…」

「手元にいて、なおかつこの任務に合っているのは彼しかいません。そして今ココにくるのはAx最高の派遣執行官です。それと同時に私が一番信頼している人物。お茶でもどうです?彼がくる時間までには、一杯の紅茶を飲む時間くらいはあるでしょう。」

……それではいただくとするかの……」


麗人が『クルースニク』とやらを話す時の顔を見ていたら、何故か怒れる気持ちも治まってしまった。話しをしている時の目が全てを語っているのを聡いバベルは悟った。

ホログラム姿のおっとりとしたシスターの出した紅茶(とても美味しい)を飲んで一息ついた頃、彼は現れた。
廊下をドタドタと走りながら入って来たのは、泥だらけの格好をした長身の神父。
王冠の様な銀髪には泥がつき、冬の湖色の瞳を隠すようにかけている牛乳瓶の蓋にも見える分厚いメガネにも泥がついていた。

「す、すいませ〜んカテリーナさん。雨のせいで道がぬかるんでいたせいかコケてしまいましてね、」
「ナイトロード神父、議長に自己紹介を……。」

ノッポの神父のアホ話を切ったのは頭に青筋を浮かべた麗人だ。今にも噴火寸前の気配を感じるとナイトロード神父は、ずれたメガネを直し、軽い会釈をする。

「これは、これは。トレス君から話は聞いています。Ax派遣執行官アベル・ナイトロードです。どうぞよろしくバベル議長(ハート)」

この時の感情をなんと表現すればよいのじゃろう?
不安?裏切り?落胆?失望?
否!
無気力であった……倒れそうになった…………
このままルルティエに帰るとはどうじゃろう?
一瞬そんな考えが頭によぎったが背に腹は変えられない。こう見えてこの男は何かとんでもない能力でもあるのではないじゃろうか?………そうであってくれ!

珍しく泣きそうになるのを堪えながら、差し出された手に笑顔で握手をする。握り潰したくなるのを我慢しながら。

こうして、天使は“02”に出会った


【現地時間22:05】

【ロア内時間19:05】

バベルちゃん/アベル・ナイトロードは参加者ではありません

バベルちゃんは主催者を薔薇十字騎士団だけとしか知りません

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