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第452話:指し手の備え

作:◆Sf10UnKI5A

「ふうん、俺の以外にもこういうのが支給されてたのか……」
 公民館、死体が三つ転がる部屋の中で、折原臨也は呟いた。
 生き残った者の当然の権利として、ガユスとベリアル――不幸な二人の荷物を漁った結果、
自分の禁止エリア解除機に似た参加者探知機を見つけたのだった。
 デイパックの奥からクシャクシャになった説明書を見つけ出し、説明を読む。
(半径五十メートル以内の参加者を探知可能か)
 つまり、来訪者に怯える事無く荷物の整理が出来る。
 臨也は息を一つ吐いて、デイパックから取り出した荷物を並べ始めた。

 最終的に、臨也が持って行くと決めた荷物は以下の通りになった。
 解除機に探知機、ライターといった小物。それに救急箱。
 救急箱は、先ほどの死闘で負った怪我を治すのに使わせてもらった。
 更に、ガユス達のデイパックの奥に隠されていた青酸カリも回収している。
 武器は、手斧や長剣は一見頼り強そうだが、相手に警戒心を抱かせやすい。
 青酸カリと共に隠されていた血染めの短剣――よく見ると、奇妙な紋様が入っている――は、
サイズ的にナイフと同じ役割しか果たせそうに無い。
(やっぱり本命はこっちだな)
 臨也は柄だけの剣を軽く握り、構えて言った。
「……光よ」
 すると、低い音と共に光が刃の形となって現れた。
 と言っても、長さはせいぜい二十センチほど。ナイフと同じ程度にしかならないが、
相手の不意を打つのにこれほど便利なものは無い。
 多少邪魔になるが、短剣と一緒にコートの内側に仕舞い込めそうだ。
 子荻の使っていたライフルは、残弾が三十発。随分と与えられていたらしい。
 手斧以上に相手に警戒されそうな代物だが、探知機と組み合わせれば狙撃も不可能ではない。
 もっとも、達人級の腕前であった子荻と違い、臨也は完全に素人なのだが。
 そして、水と食料は一食分をここで消費し、持って行く分は最初から入っていた分だけにすることにした。
 このゲームの最終局面で、万が一水や食糧不足に陥ったとしても、
(禁止エリアを解除すれば、ここまで取りに戻れるからね)
 臨也は探知機で誰もいないことを確認すると、パンを持って立ち上がり部屋を出た。
 理由は二つ。一つは、置いていく荷物の隠し場所を探すため。
 そしてもう一つは、――自称殺し屋の言葉の真偽を確かめるため。

 鼻に付く血の臭いは、一歩歩くたびに強くなる。
 さほど時間が経たない内に、臨也はその現場を見つけることが出来た。
 公民館の奥まった所に位置するトイレの前に、二つの死体があった。どちらも女性だ。
 床に転がっている方、セーラー服を着ている彼女は、長い黒髪や顔立ちから日本人らしいことが見て取れた。
 一方、壁に寄りかかったまま事切れている方は、血とは異なる美しい赤の髪を持つ女性だった。
髪や顔立ちからして、こちらは日本人では無いらしい。腹に血の流れ出た跡がある。
「随分派手にやったもんだねえ……」
 知らず、臨也はそう呟いていた。
 池袋の裏側に精通している臨也でも、これほどの状況を生で見た記憶はそうそう無い。
「……ん?」
 ふと女子トイレを覗いてみると、そこにも別の死体と血溜まりがあった。
 若い――恐らく十代の、中性的な顔立ちの少女。
 血まみれにこそなってはいるが、他の二人と違って争った形跡が見られない。
(あの二人のどちらかがこっちを殺って、仇を討とうとして相打ち……ってところか)
 修羅場というのはどこにでも――こんな島なら尚更――存在しているものだが、
それにしても自分達が殺し合ったすぐそばで、また別に殺し合っていたグループがいたとは。
 感心していたのもつかの間、臨也はすぐに動き出した。
 名前の判る物や役に立つ道具は無いかと、血に注意しつつ死体のボディーチェックを行う。
 しかし収穫は無く、臨也はトイレで手や短剣の血を洗い流し、その場から離れた。

「さて、大分雨も酷くなったわけだけど……」
 死闘が終わった頃から窓を叩き始めた雨粒は、今では窓の外が見えないほどに増えていた。
 デイパックの一つに入っていた缶詰を食べつつ、臨也は広げた地図を眺めている。
(篭城が一番の愚策だな。もうちょっと探知機の範囲が広ければそれも有りなんだけどね。
ここから一番近い建物は学校だけど、こう大きく目立つ建物は単独行動の者が潜むとは考えにくい。
誰もいないか、何人かのチームが居座っているか、裏をかいて誰か隠れているか。
それとも、もうここみたいに殺戮の現場になっているかもね。
とすると、少人数、一人か二人の人間が隠れていそうで一番近いのは――)
「C-3、商店街か」
 隣のD-3がもうすぐ禁止エリアになることを考えれば、移動中の人間がいる可能性もある。
(禁止エリアに引っ掛からないようにするには、草原を抜けるしかない。
と言っても、地図を見る限り道は無いから……)
 臨也は少し悩んだが、置いていくつもりだった長剣――蟲の紋章の剣も荷物に加えることにした。
(少し短いけど、草避けの杖程度には使えるかな。邪魔になったら捨てればいいし)
 剣の真の力には全く気付く事無く、臨也はそう判断した。

 臨也は食事を終えると、いらない荷物を別の場所――物置の中に隠した。
 その後、カーテンの一つを外し、即席の雨具にする。
 カーテンを被り、選り分けた荷物を持って、臨也は公民館を出た。

「さあて、まだ俺の力になってくれる、優秀な駒は残ってるのかな……?」

【D-1/公民館の外/1日目・14:55】
【折原臨也】
[状態]:上機嫌。やや疲労。
    脇腹打撲。肩口・顔に軽い火傷。右腕に浅い切り傷。(全て処理済み)
[装備]:ナイフ、光の剣(柄のみ)、ライフル(残弾30発)、銀の短剣
    蟲の紋章の剣、カーテン(雨具)
[道具]:探知機、ジッポーライター、禁止エリア解除機、救急箱、青酸カリ
    デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:商店街へ移動。
    セルティを捜す。同盟を組める参加者を探す。人間観察(あくまで保身優先)。
    ゲームからの脱出(利用できるものは利用、邪魔なものは排除)。残り人数が少なくなったら勝ち残りを目指す
[備考]:ジャケット下の服に血が付着+肩口の部分が少し焦げている。
    ベリアルの本名を知りません。

※公民館の物置に、
・子荻のデイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
・ガユスのデイパック1(支給品一式(食料・水除く)、アイテム名と場所がマーキングされた詳細地図)
・ガユスのデイパック2(パン9食分、水2000ml、咒式用弾頭、手斧、缶詰(少し)、ミズーを撃った弾丸)
・ベリアルのデイパック(支給品一式(食料・水除く) 、風邪薬の小瓶)
及び、リボルバー(弾数ゼロ)が隠してあります。

2006/01/31 修正スレ207-9

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