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第359話:彼女の哲学

作:◆MXjjRBLcoQ

 竜人により崩壊した遊園地の一角で、人知れず回り続けるメリーゴーランドがある。
「ハハ、アッハハハ!」
 破砕音を伴奏に、悲鳴と笑い声を織り交ぜながら、歌い踊るメリーゴーランド。
 その名をマージョリー・ドーと言う。
「ねずみよ回せ、ハッハッハアァ、♪」
 伸ばした両手の先には画板ほどの本、グリモア。マルコシアスの意思を表す神器。
 今はただの鈍器となって、回転のたび、何がしかと衝突し、それらをことごとく破壊する。
 そのつどマルコシアスは、相方の所業に悲鳴を上げた。
「長身、短針、時計の針、♪ ……っとぉ」
 相方は足元をふらつかせ、スピードを落とす。片手がこちらから離れグラスへ。
「逆さに順に、回しておくれ、♪」
 コインの代わりに、琥珀色の液体の飲み干して、またもメリーゴーランドは回りだす。
 元はバーであろう店内は、ほぼ全ての椅子が薙ぎ倒され、机や壁は傷だらけ。まさしく戦闘の後のような様相を呈
している。
 飲んでは回り、回っては飲む、それを幾度となく繰り返すマージョリー。
 その様はどこか遠心分離機を髣髴とさせた。
 押さえの効かない切迫感、その身を焦がす殺戮衝動。それらを搾り出すかの様に、彼女は踊り、回り続けている。
 マルコシアスは黙ってそれに付き合っていた。
 この島での彼女は少しばかり異常だった。“炎髪灼眼の討ち手”に負かされる前の様に、誰彼かまわず喧嘩を売る。
かと思えば、最後までその態度が続かない。相手が断ればあっさり退く。逃げる敵は追わない。
 だからマルコシアスも、そんな彼女をからかいはしたものの、酒を飲みたいという意向には逆らわなかった。今も
為すがままになっている。

(回せ回せ、全部吐き出しちまえば楽にならぁ。我が苦悩する迷い子、マージョドブゥ!)
 グリモアがまた一つ、机の脚をへし折った。
「ハハッ、もろ〜い、足一本で倒れるよ〜じゃ、フレイムヘイズは務まらないわよ〜」
 倒れる机に向いケタケタ笑いながら、マージョリーは三つ目のビンを空ける。
「せめてこ〜れぐらいは、丈夫でなきゃ〜、アッハハ!」
 そのまま加速をつけ、大きく一回転し、
「!」
グリモアをつかむ手を離した。
「んギャァ!」
 回転から開放されたマルコシアスは、しかし勢いだけはそのままに、ドアへと叩きつけられる。
「おいおい、いくらなんでもこれはあんまりだろうよ、我が呑んだくれの暴君、マージョリー・ドー」
 思わず不平が漏れた。
「……」
 しかし返ってきたのは静かな寝息。それを聞いて、“蹂躙の爪牙”は群青色のため息をつく。
(次の放送は十二時か。それまでは静かに寝かせてやるさ)
 相棒が、在るが儘にいられるよう、今は静かに眠らせる。“蹂躙の爪牙”と言う名からは、およそ想像もつかない
気使いである。
 群青の炎が、本の隙間からかすかにけぶる。
「安き眠りを、我が愛しの眠り姫、マージョリー・ドー」
 彼の最後のつぶやきは、相方に届くことなく虚空に散じた。

【E-1/海洋遊園地/1日目・09:30】
【マージョリー・ドー(096)】
[状態]:熟睡中、酔っ払い、二日酔いは確実、怪我は完治
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:胸の内にたまったものを吐き出してから、これからのこと考える。

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