作:◆l8jfhXC/BA
「酒で酔わせてその隙に毒を盛り、刺殺……ひどいわね」
「真正面から殺すよりも、信頼させてから隙をついて殺す方が確実だ。生き残る方法としてはいい手段なんだろうな」
「……こちらを睨みながらで言われると、まるで私に対して言ってるように思えてしまうんだけど」
「どうだろうな」
言って、ゼルガディスは居酒屋の中を調べ始めた。……こちらへの警戒を忘れずに。
学校の周囲を調べ終った後。
クエロとゼルガディスは、地図には書いていなかった南の商店街を見つけ、居酒屋の中でこの少年の死体を発見していた。
彼の不信感は、学校にいたときよりも露骨になっていた。
(仕掛けてくるとしたらこの辺りね。さすがにいきなり斬る、なんて馬鹿な真似はしないでしょうけど)
剣と魔法。
彼はこちらに対して圧倒的な力の差がある。別行動した途端に、自分が死体になるのは怪しすぎる。
(にしても……クリーオウといい、ここにはきちんと参加者へのカモも用意されてるのね)
死体に再び目を移す。こんなところで酒を飲む奴だ。ただの馬鹿か“一般人”なのだろう。
つまり、人を疑う事を知らない平和主義者。こんな遊戯に巻き込まれることなど想像もしない、ごく普通の日常に生きている者達。
単純な殺し合いの他にも、参加者同士の血生臭い葛藤も主催者は望んでいるようだ。
(その嗜好には虫酸が走るけど、駒じゃ指し手は倒せない。……例外が起こらなければ、ね)
学校で結成された、反乱軍とも言える七人の同盟。
こんな短期間に、これだけの有能な人物が集まることができたのは本当に僥倖だった。
彼らといれば脱出できる可能性も十分にある。あるいは主催者を殺すことも。
もちろん、その可能性が薄くなれば、あっさり“乗る”側に回るのだが。
(このまま脱出側になる場合、心残りなのはあの二人)
ガユスとギギナ。脱出を考える場合、彼らには同盟の誰とも会わずに死体になってくれるのが一番いい。……だが。
(やっぱり、そう簡単には死んで欲しくないわね。できれば、私の手で苦しめて……潰す)
彼らが苦しむことなく殺されてしまうことなど許されない。放送で名前が呼ばれるだけの死などいらない。
──学校に集合したときに、彼らのことは話すべきだろう。強大な敵として。
(もし会ってしまった場合、ギギナは有無を言わずに戦いを求めるだろうからいいのだけど……問題はガユスね)
あいつのことだ。こちらと同じように、誰かと協力して脱出を企図しているだろう。
彼と出会ってしまえば瞬時に自分の思惑が露見される。そうなるとかなりややこしいことになる。
(どちらにしろ……こいつは邪魔ね)
脱出するにしろ殺す側に回るにしろ、ゼルガディスは障害でしかない。ここまで疑われていては信頼を取り戻すことは不可能だ。
他の五人からはきちんと信頼を得て、保持していかなければならない。
そして、最終的には隙をついて彼を殺す。
──と、ゼルガディスが調査を終えてこちらを向いた。
「特に何もない」
「そう。この人の支給品も持って行かれてしまったみたいね。まだ時間に余裕があるから、北東の方の商店街に行きましょう」
「──待て」
刹那、ゼルガディスが剣を抜き、白の切っ先をこちらの首に向ける。
予想していたことなので特に抗わず、クエロはそのまま彼を不快感と不安の混じらせた目で見つめた。
「……何のつもり?」
「聞きたいことがある」
「尋問ってわけね。……受けてあげるわ」
「では聞こう。何故弾丸のことを隠す?」
「隠してなんかいないけど? 私は本当にこの弾丸のことを知らない」
「どうだろうな。……無作為に渡される武器は、他の参加者の持ち物から選び出されている可能性がある。
この光の剣。せつらのせんべい。サラの“知り合い”。七人中三人という確率で決めるのは早計だが──
わざわざ百人以上の武器をどこかから調達してくるよりは、参加者から奪ったものを渡した方が効率がよいと考えれば理由がつく。
そして、何らかの条件で選び出された参加者達。彼らの所持品は、他人に取っては不可解で特殊なものの可能性が高い。
普通の剣や銃器が支給される確率の方が低いのではないか?
せつらの拳銃と、今お前が持っているナイフも、何らかの効果があるのかもしれない。
──その弾丸の本来の持ち主がお前である可能性も十分にある」
やはり彼は賢しい。これで信頼さえあれば、脱出の駒として申し分ないほどの人材なのだが。
「推論と結論が飛躍しすぎじゃない? 推理自体には私も同意できるけど。
何度も言うけど私は何も知らない。……仮説はあるけれど」
「言ってみろ」
もちろん、素直に話す気はまったくない。──余計ややこしくしてやろう。
「まず、この弾丸が私達の知らない特殊な銃器に対応するものの場合。これはあまり考えられないと思うの。
弾丸がここにあるってことは、その特殊な銃器は使えないわけでしょう?
弾丸のない銃器という、“はずれ”として支給する場合もあるだろうけど……それなら、もっと普通の銃器を選ぶはず。
主催者ならば、そんな特殊な武器があるならそれを使って存分に殺し合ってもらいたいだろうし。
弾丸だけもらった側としても、まったく使えないし意味がないから、捨てられてしまう可能性も高い。
そもそも、ここには銃器を知らない人もいるもの」
「……」
「ここからが本題。私はこの弾丸を、何らかの──たとえば脱出の手段としての“鍵”だと考えるわ。
……ええ、もちろん普通は鍵なんてこんな形はしていない。でも、だからこそ。
不要な者としてすぐ捨てられそうなものを“鍵”──つまり、一種の希望として支給品の中に放り込んでおく。
いかにもあの趣味の悪い主催者のやりそうなことじゃない?」
「飛躍しすぎている」
「わかっているわ。“鍵”は確かに極論だけど──私は、この弾丸を単体で効果を持つ特殊な道具と考えているの。
それこそ何らかの魔法で動く武器かもしれない。どちらにしろ、かなり特殊なものだと思うわ」
「それをなぜ、あのときに言わなかった?」
「長い仮説を唱えても、議論は進まないでしょう?」
(確かにその可能性はあるが……やはり信用できん)
こちらを牽制するように微笑するクエロを見て、ゼルガディスは胸中で舌打ちした。
──この状況なら、殺そうと思えばいつでも殺せる。だが、二人きりになった途端に彼女が死体になるのは露骨すぎる。
(この死体を殺した奴のように、こいつが手のひらを返して裏切る可能性は十分にある)
そんな怪しい輩を、脱出という目標を掲げる同盟に入れておく訳にはいかない。
もちろんクエロ以外の全員のことも完全に信じたわけではないが、彼女よりはましだ。
(こいつは冷静すぎる。この状況の中で──なぜそんなにも“主催者”視点で物事を考えられる?)
まるで──自らも駒であるくせに、他の駒を操る“指し手”として考えているような。
やはり底が知れない。完璧すぎる。
(ボロが出るまで待つのは長すぎる。……ならば)
……“いるにはいる”という彼女の知り合い。言い方からして、どうやら味方ではないらしい。
(そいつらとできれば接触して、情報を得たい。こいつ以上にタチたちが悪い相手かもしれんが……会う価値はある)
彼らと協力して、クエロを追い出すこともできるかもしれない。
(おそらく次の放送で集合したとき、そいつらのことを話すだろう。何割かは本当のことが混じっているかもしれないが……信用できるわけがない)
──クエロの言動と挙動を見極め、そしてクエロよりも早く彼らと接触する。
それが今考えられる一番の対策だった。
(リナとアメリアを探すことも重要だが……不安要素は早めになくした方がいい)
そう結論づけて、剣を納める。この場は引くしかない。
クエロは一息ついて、
「二人で疑い合っていても先に進まないわ。とにかく今は、周辺の探索を進めましょう」
そう言った。────確かに、今は一挙一動を監視していくしかない。
「わかった」
(次の放送が分岐点ね。さて、どうでるかしら?)
(次の放送がポイントだ。さあ、どうでる?)
綱渡りはまだ、終らない。
【E-1(遊園地前商店街)/1日目・10:00】
【七人の反抗者・周辺捜索組】
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾
[思考]: C-3商店街へ。集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
+自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
ゼルガディスを殺したい
[備考]: 高位咒式弾のことを隠す
【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]: 健康、クエロをかなり疑っている
[装備]: 光の剣
[道具]: 支給品一式
[思考]: C-3商店街へ。リナ、アメリア、クエロの知り合いを探す
クエロを排除したい。
2005/05/09 光の剣の矛盾修正
2005/07/16 改行調整、三点リーダー・ダッシュ一部削除
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