作:◆lmrmar5YFk
城内三階の一室で、クレアは一人悩んでいた。
「おいおい、魔王は一体どこにいるんだ?」
愛しき婚約者を探してここまで来たものの、捜索の相手は一向に見つからない。
そもそも姫を攫った憎き敵役すら発見できない。
物語に出てくるような豪奢な部屋は確かにあったにはあったのだが、うち捨てられたそこには鼠一匹潜んではいなかった。
埃を吸った赤絨毯と朽ちた家具の多くが、時の経過の残酷さを物語るのみだ。
壁に身体をだらりともたれ掛けて、クレアはひとりごちる。
……俺の勘が間違ってたのか? いや、そんなはずはない。何せ世界は全て俺の都合がいいように出来ているんだからな。
だが……それならなぜシャーネはいないんだ? こんなにも俺が探しているってのに。
脳裏に浮かぶ恋人の姿はこの世の誰よりも美しい。それこそ、主催者に囚われても仕方のないほどに。
彼女の影を求め、さらに奥の部屋へと足を伸ばそうかと廊下へ出たそのとき、階下から数発の銃声が聞こえた。
パイフウが連射した銃弾の音は、三階のクレアの元にまで届いていたのだ。
ダンダンと鳴り響くそれに、踏み出していたクレアの足がぴたりと止まる。
「何だ、俺以外にも勇者気取りがいるってのか?」
興味を駆られ、一気に階段を一階まで駈け下りる。
ホールの柱に身を寄せて辺りを見渡せば、当の狙撃手は既にその場を離れた後らしくどこにも見当たらない。
代わりにそこに居たのは、こじ開けた城門から今にも外へ出ようとする二人の男であった。
全身に生々しい傷跡を持つ巨漢と、背の低い青年の二人組。そのどうにも奇妙な二人の後姿に、クレアは躊躇いなく声をかけた。
それは、自身の考えたことが絶対であるクレアにとっては当然の行為であった。
「おいおい、魔王と御付きが揃ってどこに行く気だ? まさか、正義の騎士に怯えて逃げようとしてる訳じゃないだろう?」
挑発的な口調でそう言うと、巨漢――ハックルボーン神父はぎろっと顔を上げて振り返った。
その顔面にも、巨大な惨たらしい傷が縦横に爪痕を残している。
いつの間にやら背後に直立していた赤毛の青年に不審そうに視線を向けると、彼は重々しく口を開いた。
「私が魔王」
「ああ、そうだろ。違うのか? まあ、違うって言われると少しばかり俺が困るんだが」
「私は神の使い。それを魔と呼ぶとは愚の骨頂」
「神……まさかそのなりで神父か? ははっ、そいつはちょっと冗談が過ぎるんじゃないか」
天を仰いで笑うクレアに、神父の目つきが変わる。己と己の信仰する聖なる神とを愚弄されたことに、怒りを覚えているのだ。
「我が神を穢すな」
喉太い声で言うが早いか、血管が浮き出そうなまでに両の拳を握り締める。
腕こそまだ振り上げていないが、覚悟さえ決めればすぐにでも相手を撲殺できる距離だ。
一方のクレアも顔は笑っているものの、両手に持ったナイフをぎらりときらめかせる姿には微塵の油断も感じさせない。
「この程度の言葉で穢れる神か? そりゃ随分と安っぽいんだな」
「不届き者よ。神は全ての行いを見ているというのに」
目の前の男に対する深い憤怒と悲しみを込めてそう言うと、顔を厳しくしてクレアの瞳を見つめた。
先ほどの少女達といい、この男といい、この世界には神を信じぬ者のなんと多いことか。
ただ素直に信仰しさえすれば、神は全ての者に平等な平和と安息をもたらしてくれるというのに。
だから、神を疑い、嘲り、罵倒する者達については、この私が神のゆるぎなき存在を教えせしめなければならない。
まずは尊き御言葉を伝え、説くことで。それでも不可能なら、この手で直接神の居られる天上へと連れゆくことで。
――神よ、この青年をどうすべきでしょうか。
握り締めた拳、その皮手袋の内側から血がたらりと垂れ落ちる。
この『聖痕』からの出血は、神と同調し神の御意思を伝え聞いたときのみに訪れる。
――そうでしたね。『施すべき相手に善行を拒んではならない』いつも、神が言われていることです。
脳の内側で神託を聞いた神父が、ずいと一歩、クレアに向けて歩を進め、両腕を肩の上まで振り上げる。
その姿に、クレアもハンティングナイフを目の高さに構え直す。窓から差し込む陽光に反射して、砥がれた刃の部分が禍々しく光る。
まさに戦闘開始か、と思われた刹那、走る誰かの足音が徐々に近づき、――ふと止まった。
開け放たれたままだった扉から現れたのは、額に青筋を浮かべた金髪の青年――平和島静雄だ。
静雄は睨み合う二人の間に流れる殺気だった空気を気にもせず、てくてくとクレアの脇まで歩いていく。
目で殺すとはこういう状態のことだろうかと言わんばかりの目つきでじろっとねめ上げると、大音量で苛つき加減最大の声を上げた。
「人にぶつかっといてあの態度はねぇよなぁ? ってわけで殺す」
ちなみに睨み合う男共三人の横では、完全に忘れ去られたボルカンが小声で嘆息していた。
「俺、あいつの御付きかよ……」
【G-4/城の中/1日目・09:10】
【ハックルボーン神父】
[状態]:健康
[装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:この青年に神の御意思を 神に仇なすオーフェンを討つ
【ボルカン】
[状態]:健康
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:打倒、オーフェン/神父から一刻も早く逃げたい
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:目の前の男たちをどうにかする 姫(シャーネ)を助け出す
【平和島静雄】
[状態]:怒り爆発
[装備]:山百合会のロザリオ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:こいつを殺す!
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