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第318話:黒魔術同盟

作:◆/91wkRNFvY

「さて、茉衣子くん。いつまでもノンビリしているわけにもいくまいな」
 小休憩のあと宮野は、立ち上がり服に付いた埃を払いながら言った。
「それはそうなのですが、これからは何処へ向かうおつもりですか?
 まさかその佐山様というお方へお礼をしに行くなどとは言いませんわよね?」
「当たり前だ。先程も言ったと思うが、何故私が悪人と仲良うせにゃならんのだ」
 言いながら2枚のメモのうち、茉衣子に渡していない方をポケットにしまい込む。
「そちらには何と?」
「佐山御言なる人物についての自己紹介だ」
 当然そうではない。そのメモにあった「物語」は――。

『けけっ、コイツはとんだ喰わせモンだな!?』
 宮野にあわせエンブリオが騒ぎ立てるが、それは無視して、
「とりあえずだな、ここを出て適当に歩いてみようではないか。先の方法はえらく不評だったのでな」
「適当なのは変わっていませんわ」
 とは言うものの、特に進むべき指針があるでもなし、大人しく宮野に従う。
(その時になったら、いつものように班長がパパっと解決してしまうのですわ)

『いーんじゃねぇの?その方が多くのヤツらと会えそうだぜ』
「うむ、その通りだ。もし相手が敵意丸出しの乱暴者でも、私が茉衣子くんを護ると保障しよう」
「そのような保障はいりませんわ、自分の身くらい自分で護れます」
 言いながらも出立の準備を始める茉衣子。
(結局班長に頼ってしまうのですわ、いつからこうなってしまったのでしょうか)
「うむ、では行こうか」
(あの時からですわ、吸血鬼事件の後のわたくしは全くもってどうにかしていました、ですが…)
 茉衣子は荷物を背負い、佐山からの水や食料はそのままに宮野と共に小屋を出る。
(これで良いのかもしれませんわね)

 小道を道なりに歩き、
「茉衣子くんは、どうして我々がこの空間に連行されたと思うかね?」
 唐突に問いかける。
「珍しいですわね、班長が人の意見を求めるなんて」
「心外である、高性能の論理演算ユニットを積んでいる私とて、全ての事象に通じているわけではない。
 それに、愛弟子の意見も聞かずして何が師か」
「愛弟子というのはおやめください。わたくしは第3EMPの生徒自治会保安部退魔班の班員で、
 班長はその退魔班の班長なのです、年齢も一つしか違いません。ただそれだけですわ」
「むぅ、そういう風に教育した覚えは無いが、そもそもキミは私とコンビを組んで仕事をしているではないか」
「会・長・命・令、ですわ。でなければ誰がトリ頭の班長などと好き好んで行動を共にしますか。
 それに、そうでない風に教育された覚えもございませんわ」

 茉衣子は諦めたように、はぁ、と溜息をつく。
「わたくしたちがこの空間に連行された理由、こんな場所で殺し合いをさせられる理由。
 そうですわね、わたくしたちの様な能力者を集めて頂点を決めようというのは如何でしょう?」
「あり得ない話ではないが、私は否定する」
「何故でしょう?」
「私は他学園の能力者について多少は知ってはいるが、名簿を見たところ私の知っている者は君しかいなかった、
 EMP能力での頂上決戦というわけでも無さそうだ」
 
「でしたら、以前班長が仰っていた平行世界云々という話がございますが、その世界から集められた方々ではありませんの?」
「この100名強についてはおそらくそうだろう。兵長氏の世界は我々の知っているそれではない」

『確かにな、俺のいたところじゃ魔術なんて存在しなかったしな、
 お前たちのいた日本という地名も、聞いたことの無い所だ』
 茉衣子が首から下げている、ラジオに憑り付いた兵長。彼は母星から移民した人々の末裔だ。
 頷くような動作のあと、
「また、何かしらの異能力を競争させる場合だとしても、ここに呼び出されるのは我々である必要は無い、
 それこそ性悪テレパス娘と妖撃部の女部長か遊撃部の連中を呼べば良いのだ、
 支給品にしろ、それぞれが得意とするものでなければ効率的とは言えん」
「確かにそうですが」
 数時間前、先ほどの小屋にいた2人が似たような話をしていたが、それはこの2人の知るところではない。
 今度は少し考え込み、
「それでは、こうしてわたくしたちが出会うことによって何かを得ようとしている、というのは如何でしょうか」
「ふむ、我々が「出会う」事により何かを「得る」か、中々的を射た表現ではあるなあ」
「私もその意見に概ね賛成だ、細かい所まではまだ判らんがな」
「とりあえず、だ」
 急に立ち止まり、間をおく。
「そこのキミ!よければこの私、宮野秀策が擁する黒夢団に加入する気は無いかね!?」
 見かけは木々しか見えない空間に向かって声をかける。

「ほんと俺、ツイてないよな……」
 深い溜息と共に返ってきた声は、何故かやけに疲れた若い男のものだった。

【キーフェンを出よう!-from the aspect of ENJOU-】
【残り85人/E6/森の中/1日目/09:30】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。

[備考]
廃屋内にあったペットボトル(詠子の血入り)は破棄、「物語」は宮野とエンブリオが読みました。
廃屋内にあったペットボトルの中に、毒物に類するものが混入されていたと考えています。
ペットボトルに毒物を混入した犯人として、佐山御言が挙げられています。
ただし同時に佐山御言の名を利用した行為であるとも考えています。

【オーフェン】
[状態]:精神的に疲労気味、いろんな意味で。行動には支障なし。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※第一回放送を冒頭しか聞いていません。

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