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第232話:ムンクと二人

作:◆Sf10UnKI5A

「きゃっ!」
 ずるっ

「あっ!?」
 どてっ

「いやぁっ!!」
 ずべしっ


「……テレサ・テスタロッサ。一つ聞くが、君は普段から転びやすい体質なのか?」
「い、いいえそんなことは。でも森の中は不慣れで、どうにも足元が……」
 ――たかだか一マイル足らずの移動に、何故一時間近くかかるんだ?
 支給された時計の示す時刻は、既に七時を大きく過ぎている。
 城の方から銃声が複数聞こえてきたこともあって、ベルガーはこの周辺一帯から早く離脱したいと考えていた。
 しかし、テッサの歩みは予想を遥かに超えて遅かったのである。
 立ち上がり土を払うテッサを横目に、ベルガーは地図と方位磁石で現在地を確認。
「……城との位置関係からして、H-4の北東辺りだな。
もう少し歩いて、森の切れ目が見えてきたら休憩にしよう。いいな?」
「はい、それで結構です」
 歯切れの良い返事。テッサの服は大分汚れていたが、その呼吸に乱れは無い。
「さ、どんどん行きましょ――きゃあっ!」
 言った傍から木の根に足を引っ掛けたテッサを見て、ベルガーは軽く溜め息をついた。

 そろそろ森が切れるだろうという所で、二人は異形の建造物を発見した。
 遠目に見れば木の集まりに見えるのだが、にしては不自然。
 ベルガーは「絶対に転ぶなよ」とテッサに釘を刺し、出来るだけ気配を殺して謎の小屋、
――別の角度から見れば、『歪んだムンク』に見えないことも無いそれに接近した。
「……何なんでしょう、アレ」
「自然に出来た物でないことは確かだな。……もう少し近づいてみる。君はここにいろ」
 そう言うと、ベルガーは贄殿遮那に手を掛けつつ、ゆっくりとムンクとの距離を詰める。
 近づくにつれ、複数の声がはっきりと聞こえるようになってきた。
 残り十数メートルほどの位置でベルガーは足を止め、声に耳を傾ける。
 しばらくして、音も立てずにテッサのそばへと戻った
「あの中に少なくとも四人は隠れている。声の調子からして、男一人に女三人。
話の中身までは聞き取れなかったが……」
「その中に、その……乱暴そうな女性はいましたか?」
「ん? ああ、怒鳴り声を上げてるのが一人いたが……」
 その返答に、テッサはどうするべきかと悩む。
 千鳥かなめ。彼女ならば、見ず知らずの人間相手に
 普段と変わらぬ口調で話していたとしても違和感は無い。
 ならば、
「……ベルガーさん。一分でいいので、時間を貰えませんか?」
 その言葉に眉根を寄せるベルガー。しかし、
「……アレに動きがあったらすぐに逃げるぞ」
 ムンクを指し示しつつ、ベルガーはそう答えた。
「ありがとうございます」
 礼を言うと、テッサは近くの木に背を預け、目を閉じる。


 (……かなめさん、聞こえてますか? ……かなめさん……)
 共振。それは、『ウィスパード(囁かれし者)』として熟達したテッサから、
 同じくウィスパードであるかなめへ送ることが出来る一方通行の思念。
 (……かなめさん、もし聞こえていたなら、外に出てきて……)
 島にテレポートしてきた時には、かなめの所在が解らず使用出来なかったこの能力。
 ――でも、もしあそこにかなめさんがいるのなら……。

 目を閉じて集中するテッサ。ベルガーは、周囲を警戒しつつ彼女を見守っている。


【残り90人】
【G-5/ムンクから数十メートルの茂み/07:45】

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン
[道具]:デイバッグ×2(支給品一式)
[思考]:ムンクと接触するか考え中。テレサ・テスタロッサを護衛する。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:ムンクに向けて『共振』中。宗介とかなめを探す。

[備考] ムンク内の魔法使い二人が、『共振』に反応出来るのかは不明。
     ダナティアが二人の接近に気付かなかったのは、携帯電話騒動のせいと思われる。

2005/06/13 改行調整

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