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第177話:己が使命、生きる意味

作:◆1UKGMaw/Nc

 脳裏に響いていた、死亡者の名前と禁止エリアの発表が終わった。
「よかったぁ……みんな無事みたい」
 大きく安堵の溜息をつく。
 海岸に座礁している大きな難破船の一室に、その少女はいた。
 ゆったりとしたローブを着た、幼い少女。
 出雲・覚が見たら、アリュセと同じ服装、同じ顔立ちであることに驚いたことだろう。
 違いといえば、アリュセがしっとりとした黒髪であるのに対し、この少女は鮮やかな金色の髪をしていることか。
 少女の名は、リリア。
 フェルハーン大神殿の誇る、ウルト・ヒケウと呼ばれる長命な大魔導師三人娘の一人である。

「うん、アリュセも王子もイルダーナフも、そう簡単にやられたりしないもんね」
 今まで休んでいたベッドの上からぴょいと飛び降り、立てかけてあった長い金属製の槍に手を伸ばす。
 その杖にはコンソールがあった。
 リリアが手に取ると同時に、そのコンソール部に文字が表示される。
『オハヨウ』
「うん、おはよう。え〜とぉ……、G−sp2(ガスプツー)!」
『アタリ』
「えへへ、やっと覚えられた」
 リリアの支給品として配られた、意思を持つ概念兵器。
 対話のできるこの槍と一緒だったことで、皆と離れ離れになった今でも、不安に押しつぶされることはなかった。
 自分の身長よりも長いG−sp2に魔術を掛け、重さを軽減する。
 肩に担いで何とかバランスを取ると、ドアを開けて廊下に出た。
 色んなところにG−sp2を引っかけながらも、外を目指す。
『カナシイノ』
「ごめんなさい、ちょっと我慢してね。そういえば、G−sp2のご主人様?……何だっけ?」
『チサト』
「そうそう、その人も無事みたい。一緒に探しに行きましょうね」
『ウレシイノ』


 そうこうしているうちに、甲板に出た。
 日は昇りかけているようだが、この甲板からではまだ太陽は見えない。
 小さな入り江になっているこの海岸は、周りを低い崖で覆われており、周辺からは死角になっているのだ。
 普段なら、日常的に使用している飛行魔術で崖の上までひとっ飛びなのだが、今は自前の足で坂道を歩くしかない。
「む〜、王子がいれば抱っこしてもらえるのに……」
『メンドイ? メンドイ?』

 崖の上に出ると、そこはかなり広い草原だった。
 一気に視界が広がったが、見える範囲に人の姿はない。
 朝露に濡れた草の匂いが心地よい。
 海風が草を揺らし、さわさわと音を立てていた。
(殺し合いが行われてるなんて、まるでウソみたい……)
 そう思えてしまうほどに、その風景は平和そのものだった。
 だが、先ほどの放送で読み上げられた二十人以上もの名前は、確かにこの数時間足らずで失われた命があるという証なのだ。

 胸いっぱいに朝の空気を吸い込み、気を落ち着けるように一度大きく深呼吸。
 ウルト・ヒケウであることの意味。
 来るべき災厄から人々を守る、そのために自分たちは生きてきたのだ。
 そして、それはこの世界でも変わるまい。
 心は決まった。
 
「さ、行こう。G−sp2!」
『ガンバルノ』


【残り94人】
【B-8/海岸沿い/1日目・06:20】

【リリア】
[状態]:健康
[装備]:G−sp2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:できるだけ多くの人々と共にこの世界から脱出/アリュセ・カイルロッド・イルダーナフ・風見千里を探す


出典:
G−sp2@終わりのクロニクル

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