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第169話:Pursuer

作:◆l8jfhXC/BA

 煙草も吸えずにいらいらしたまま、甲斐は神経を尖らせていた。
 そしてそのまま数時間が経った後、突然甲斐の頭に直接嫌な声が響き渡った。──定時放送。
『……090朝比奈みくる、101竜堂始、115マジク・リン───』
「……いねぇみてぇだな」
 そこにウィザードや海野千絵、ベリアルの名前はなかった。
 ゲームに乗ることを決めた甲斐にとっては、敵──参加者は少ない方がよかったのだが。
『……次に禁止エリアを発表する。一度しか言わないから──』
「……やっべ」
 地図も紙も鉛筆もあの家に置いてきてしまった。頭で覚えるしかない。
 それでも現実に境界線が書いてあるわけではないので、大まかに避けるしかない。
 とりあえず南西と南東の方には行かない方がいいだろう。

 6時になりだいぶ明るくなったところで、甲斐は巨木から降りて東に向かった。
 北の方に建物と畑らしきものが見えたが、誰かが待ち伏せているかもしれないのでやめておいた。
 そしてしばらく行ったところで、まっぷたつに切り裂かれた死体と放り出されたデイパック──そして奇妙なものを見つけた。
「おいおい、これは……」
 やばすぎるんじゃねえのか──言葉を飲み込み、甲斐は戦慄した。
 焦げ跡を残した、大人数人がすっぽりと入れそうなクレーターがそこにあった。
 ……異常すぎる。
 誰かの武器に、これほどの威力をもつ爆弾があったのか。
「それとも“悪魔”か……? いや、これはいくらなんでも強すぎる」
 何であろうと、自分の敵になることは確かなのだが。
「くそ」
 こんなことで怖じ気づいている場合ではない。生きて帰るには、これを使った人物とも戦わないといけないのだ。
「……地図だけでももらっておくか」
 焦る気持ちを抑えつけ、デイパックを漁る。武器はもう持ち去られているだろう。
 中には地図や日用品がそのまま入っており、そして────
「……クッ…ククククク……」
 甲斐は思わず笑いを押し殺した。本当は大声を出して笑いたいところだったが、それはかろうじてこらえた。
「……やっと俺にもツキが回ってきたみてえだな」
 デイパックには、見慣れたカプセルが大量に詰め込まれていた。
 しばしの間、興奮に身を任せた。あのクレーターの恐怖などどこかに吹っ飛んでしまっていた。
 そして落ち着いた後、カプセルを五錠ほどポケットに忍ばせて──はっきりとした声で、言ってやった。

「ウィザード、俺はやるぜ」

 どこかにいる好敵手に宣戦布告をして、甲斐は住宅街の方へと歩き始めた。

【残り94人】
【E-4/平地/一日目 06:30】

 【甲斐氷太】
[状態]:平常
[装備]:カプセル(ポケットに五錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式(ヴォッドのもの)
[思考]:元いた住宅街(D-3)へ、ゲームに乗る、ウィザードと戦いたい

2005/04/22 修正スレ57
2005/05/09  改行調整、一マス開け追加

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