作:◆I0wh6UNvl6
何をするわけでもなく男が鉄骨に腰を下ろしている。
彼のとりあえずの目的は結局達成せずに終わってしまった。
だが彼は気落ちなどはしていなかった、むしろ気持ちは高まっている。
『決着はつけれなかったがまあそれはしょうがない、だが恐らくやつを殺したやつはまだ生きている筈だ。』
思わず笑みがこぼれる。が、彼の予想は間違っていた、彼を殺したものは既に殺されていた、というより消滅させられていた。
何故この場所を動かないかというと、ここは彼の思い出の場所によく似ていたからであった。
『これで雨でも降ってれば完璧だったんだが、そう都合よくはいかねーか。』
彼に唯一敗北を味合わせた男、彼とその男が初めてあったのはこんな場所だった。
『そういやアイツの名前は名簿になかったな、どういう基準で選んでんだ?』
軽く舌打ちをしたところで彼は人影を見た。
『・・アイツは・・。』
向こうから現れた男の雰囲気は先程まで考えていた男のそれと瓜二つだった。
「すまないが人を探している・・。」
言葉を言いきる前に相手も彼の雰囲気に気付く、腰の木刀を構えた。
「くくっ、そいつがおまえの剣か?・・いいぞ、ますます気に入った。」
『アイツも剣にはこだわってなかったからな。』
鉄骨から降り、相手と向き合う。
ヒースロゥは先程少女とかわした会話を思い浮かべていた。
『体に任せる・・か。』
この敵には全神経を集中させなくてはならない、そう体は訴えかけていた。
動かないでいると相手が言った。
「どうした、こないのか?こないならこちらからいかせてもらうぞ。」
ビュッという音とともにヒースロゥの頬が切れた。
射程距離ギリギリで空間を断ち、それを利用しカマイタチを発生させたのだがそんな事彼がしるはずもない。
『・・風の呪文か?・・これはあくまで牽制、狙いは別と見るべきか。だが・・』
傷は2つ3つと増えていく。
『このままではじり貧となる、ならば・・敵の狙いどおりだとしても!』
決心は固まった。
「ハァアアア!!」
距離は8m程、いったん攻撃から外れるため相手からみて横に飛び・・一気に相手との距離を詰める!
木刀を完全に叩き込めると思ったその瞬間、相手に生じていたスキが・・消えた。
「なっ・・!?」
驚きつつもとっさに剣を引き距離を取る、しかし引くのが遅かったのか、その木刀は根元から断たれていた。
「ほう・・鼻先一つ掠らなかったか、やつはこれで目を潰したんだが・・。」
満足そうにうんうんと頷く、どうやら彼にとっては十分すぎる結果だったらしい。
『どういうことだ?やつの攻撃が見えなかった・・。』
軽く動揺しつつも落ちていた鉄パイプを持ち身構える。
何がおもしろいのか、相手の笑いがさらに大きくなる。
「こいつは傑作だ、ここまでそっくりとはな!おいおまえ、名前は?」
わけが分からない、と思いつつ彼は答えた。
「・・ヒースロゥ=クリストフだ。」
相手の世界ではなかなか聞くことのない名だ。
「聞かない名だな、まあいい。俺はフォルテッシモ、呼びづらいならリィ舞阪とでも呼ぶがいい。」
『フォルテッシモ?・・(とても強い)だったかな?』
彼にとって音楽は趣味ではないが、それくらいは覚えているらしい。
「さて、俺の能力だが、見るやつから見れば空間には無数のひび割れがある、俺はそいつを広げられる、といったところだ、おまえは?」
フォルテッシモは自分の能力について喋りはじめた、ある男に話したのと同じように。
「能力?そんなものは持ち合わせていない。」
ヒースロゥは答えた。
相手のいう能力とは剣術が強いとか知力がたかいとかそういうことではないのだろうと悟って。
「能力なしで俺の攻撃をかわしたのか?」
意外そうな顔をする、それほどまでの相手には彼は出会ったことがなかった。
「そんなもの、感覚を研ぎ澄ませれば自然とわかる。」
だが実際のところ、わかってはいなかった、さっきはただ体が自動的に動いただけだった。
話している間にお互いの距離は縮まってきていた。
「おもしろい・・なら、こいつはどうだ!?」
いい終わった時にはヒースロゥのいた場所が弾け飛んでいる、が、そこに彼の姿はない。相手の意思を読み、とっさに横に跳んでいたのだった。
「せいっ!」
横に持っていたパイプを投げつける、この攻撃の狙いは当然、敵に当てるためではない。
フォルテッシモが目の前で鉄パイプが砕く、鉄パイプが目眩ましとなり一瞬正面が見えなくなる、目眩ましが効果を失った時、正面にヒースロゥの姿はない。
フォルテッシモの背後から鉄パイプが降り下ろされる、完全に決まったはず・・が、途中でその動きは遮られた。
「甘いな。」
空間を遮断し壁を作ったのだった。
そして彼が指を軽く動かすと同時に鉄パイプは砕け、ヒースロゥは吹っ飛ばされ壁に激突する。
「ガハッ!」
たたき付けられた衝撃で声が漏れる。
「お前の負けだ。」
目の前に、最強が立ち塞がった。
ヒースロゥは殺されるだろうと思い、覚悟を決めた・・。
「お前には見込みがある、あの男と同じように、俺の敵になる見込みが。」
唐突に彼がいった。
「おまえはまだあるものにあっていない、その殻を破る前に死んでしまうにはあまりに惜しい。」
見逃された、その行為にヒースロゥは激昂した。
「貴様、俺に生恥をさらせというのか!?」騎士としてそれは屈辱に他ならなかった。
フォルテッシモは無視して続ける。
「おまえはあるものを探せ、そいつは十字架のペンダントの形をしている・・。そして再びあったとき、今度こそ望み通りに息の根を止めてやる。」
そして最強は風に背を向け歩き出す。
その顔にはこれ以上ないほど凶暴な笑みがはりついていた。
『いわばもう一人のイナズマよ、楽しみにしてるぞ。』
それに対し風は怒っていた、情けをかけた敵に対し、何よりも弱い自分に対し。
その心はその昔似たような場所で似たようなことをした男のそれによく似ていた。
【A3/廃工場/6:30】
【フォルテッシモ】
【状態】興奮
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士
【ヒースロゥクリストフ(風の騎士)】
【状態】自分に対し激昂、3か所の切り傷、背中に打撲。
【装備】鉄パイプ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ED探す、風まかせだが彼のいう十字架が気になる。
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