作:◆E1UswHhuQc
「我は放つ――」
構成を絞る。なぜだか分からないが、この場では魔術が弱められている。
ならば威力は求めない。必要なのは精緻の究極。
オーフェンは叫ぶ。群青色の炎を右腕に纏わせた、眼前の女に向かって。
「――光の白刃!」
迸った光熱波は、細いものだった――細く、しかし強力な。
「こ、のぉ!」
それを女――マージョリー・ドーと名乗った――は、炎で包まれ丸太のようになった右腕で防ぐ。
光が炎を削り、打ち払われた。打ち払った勢いで、マージョリーがこちらへと突進してくる。
名前を教えようとしない女のパチンコによる投石をうるさげに炎で払いながら、彼女は拳を振りかぶった。
直線の拳打を身を低く沈めることでかわし――そのまま足を滑らせる。オーフェンは彼女から見て右側に回りこんだ。
刃物でもあれば突き立てていただろう。必殺の、暗殺の瞬間。
オーフェンの拳が、マージョリーの脇腹を打った。
「ぅあ……!」
マージョリーが膝を突きかける、その瞬間。
群青色の炎が炸裂した。
「――!」
両腕を前に出しながら飛び退り、腕を軽くあぶられて距離を取る。
「やって……くれるじゃない」
マージョリーが煮えたぎった瞳でこちらを睨む。今の打撃で肋骨の一本か二本は折れているはずだ。
(手強いな)
魔術が弱められている事もあるが、それ以上にこの――マージョリー・ドーは強い。
できれば殺したくはないが、殺すつもりでかからねばならない。構成を編み、オーフェンは呟く。
「我は癒す斜陽の傷痕」
軽く火傷を負った両腕を治す。完全には治らず、軽い引き攣れが残ったが。
背後――どう呼べばいいか分からない女が、再びパチンコのゴムを引き絞るのを感じつつ、牽制の為の構成を編む。
正面――マージョリー・ドーも、再び群青色の炎を吹き上がらせる。
その時、足音が聞こえた。
「――?」
注意は正面の相手に向けたまま、聴覚だけを足音の方に向けて聞く。
かなりの駆け足だ――近い。
と――
ぱしっ。
音は、石と石がぶつかった音だった。投石。
すぐに、足音の主が投げてきた石を背後の女がパチンコで迎撃したのだと気付く。そちらの方へ視線を向け、
「新手か……!」
「私がやります。あなたはそちらを」
小石を握る彼女に言葉に、マージョリーへと視線を戻す。と、
「……はははっ」
マージョリー・ドーは笑っていた。群青色の火の粉を散らせ、笑っていた。
直後。
「ヒャーッハッハッハー! 生きてるかあ? 我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドー!!」
「何してたのよ、マルコシアス! ――って誰よそれ!?」
「耳に響くから黙りなさい……!」
赤髪の女が、大きな本に乗って飛んできた。文字通り。
「なんだぁ!?」
疑問の声をあげる間に、パチンコによる投石が赤髪の女を狙う。
が、それは当たる前に叩き落された――彼女の持つ、板切れによって。
「降りるわよ」
「了ー解!」
板切れを投げ捨て、本を包む革紐を手に赤髪の女が飛び降りる。即座にそれを振って次の投石を打ち払った。
当然だが、本というのは戦闘に使うものではない。だが、彼女の持つような巨大なものであれば、鈍器としては充分使えるだろう。
赤髪の女が、声を張り上げて叫ぶ。
「三人とも動かないで。――私は殺し合いをする気はないわ」
戦わないという意思表示か、彼女は本を地に落として両手を広げた。何も持っていない。
「……分かった」
オーフェンは編んでいた魔術の構成を解いた。彼女と同じ様に両手を広げた。同じ様に、何も持っていない。
「話し合おう。最初はそのつもりだったんだから……どっかの誰かのせいでこじれたが」
「夜空が綺麗ですね、オーフェン」
オーフェンは溜息をついて、素直に夜空を見上げる。
月が綺麗だった。
【B-5/長い石段/1日目・1:40】
【キノの師匠 (若いころver)(020)】
[状態]:正常(多少の疲労?)
[装備]:パチンコ
[道具]:デイバッグ(支給品入り) ダイヤの指輪
[思考]:誤魔化す
【オーフェン(111)】
[状態]:かなりの疲労
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:話し合う。
【ミズー・ビアンカ(014)】
[状態]:ちょっと疲労
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:話し合う。
【マージョリー・ドー(096)】
[状態]:肋骨を一、二本骨折
[装備]:支給品未定
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:話し合う。
【残り98人】
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