第五話 巨蟹宮・蟹座の鈴凛
石田 「着きましたね!鈴凛ちゃんの家です!」
兄 「よし!それじゃまず鍵穴に針金を・・・。」
石田 「普通に入れないのかよ!」
ガチャ!
兄 「あれ?鍵が開いてるぞ?」
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兄 「な・・・なんだここは?今までで一番散らかっている家だな。」
石田 「なにか機械油のようなニオイがしますね。」
兄 「入った瞬間にまるでスクラップ工場にでも迷い込んだような気になるとは・・・。」
石田 「ちょ・・・ちょっと待ってください。今何か異様な物を踏んだような・・・。」
兄 「なに?うう・・・こ・・・これは!?顔!?鈴凛の顔だ!?」
石田 「な・・・なにい、鈴凛の顔が床に落ちていると言うのか!?」
兄 「ひとつだけじゃない!床一面に鈴凛の顔が・・・!?
いや、床だけでなく壁にも天井にも無数の顔が・・・鈴凛の顔が置かれている!!
この家全体が鈴凛の顔で埋まってるんだ!!」
ザンッ!
鈴凛 「クックククク、どう?驚いた、アニキ?」
石田 「くっ・・・キミは鈴凛!蟹座(キャンサー)の鈴凛か!?」
鈴凛 「ここにある無数の私の頭は今までに私が作ってきたメカ鈴凛の試作品の数々。
いわばこの無数のメカ鈴凛はアニキの援助の賜物、私とアニキの愛の結晶なのさ。」
兄 「ぼ・・・ボクはこんなに造れるほどの援助をしていたのか?」
石田 「・・・ヘタすりゃフェラーリ1台ぐらい買えるんじゃないですか?」
兄 「よく見ると、幼い頃の鈴凛の顔もあるぞ。」
鈴凛 「フッ、いつ頃から造っていたのかなんて覚えてないよ。
私は物心ついた時からドライバーを握っていたから、幼い頃からメカ鈴凛を造ってたかもしれないけどね。
今まで食べてきたパンの枚数を覚えていないのと同じよ。」
石田 「な・・・鈴凛ちゃんは兄から援助を受けて、資金は大切に使わなきゃと思っていないのか?」
鈴凛 「科学の発展に失敗は必要不可欠。
アニキのために技術力を磨き、役に立つメカを発明しているのよ。」
兄 「ぶっちゃけ失敗作の方が多いけどね・・・。」
鈴凛 「クッククク、でも、今日はその技術力の成果を発揮する時なのかもしれないね。いくよっ!!」
積 尸 気 メ カ E 波!!
兄 「うっ、な、なんだ!?僕の周りを無数の機械の腕が取り巻いていく!?」
ガシッ!!
兄 「うわぁぁ!!締め付けられた!?か・・・体が言う事を聞かない!!」
鈴凛 「クックク、もがいてもダメだよ、アニキ。
そのマニピュレーターは海上保安庁の潜水調査船『しんかい6500』で使われているものと同じなんだ。
簡単に壊せるような代物じゃないよ。」
石田 「そ・・・そんなもの一体どこで手に入れたんだ!?」
ウイーン!
兄 「うっ・・・うわぁぁぁあ!!こ、このままボクをどこに連れて行く気だ!?」
鈴凛 「クックク、悪いけど、アニキにはそのまま私のラボに入ってもらうよ・・・。」
石田 「うう・・・完全に圧倒されている!これも兄に対する萌えの力なのか!?」
♪アニキ、メールチェックして!アニキ、メールチェックして!
鈴凛 「うっ・・・私の携帯が・・・メールの着信だと!?」
石田 「な・・・自分の着ボイスをダウンロードして使っているのか!?」
鈴凛 「く・・・こんな時に・・・これは・・・またアイツか!うっとおしいメールだ!
私に対する攻撃的という物でもないが、何か祈りのような、ひどくうっとおしい・・・。
私自身の手で完全に着信拒否にするしかないのか・・・!?」
石田 (な、なんだ?・・・一体誰からのメールなんだ・・・!?)
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兄 「う・・・うう・・・こ・・・ここは一体!?・・・周りに機械のような物が大量にあるが・・・。」
鈴凛 「クックク、ここは私のラボ。まあ、半分物置みたいな所だけどね。
それよりアニキ、あれを見てよ。」
兄 「あ、あれは一体!?」
鈴凛 「巨大な石膏入りのタンクさ。私は『黄泉比良坂(よもつひらさか)』と呼んでいるけどね。」
兄 「なんという大きさだ・・・!?軽く大人20人ぐらいは入りそうだ・・・!」
鈴凛 「実は今、私はメカアニキの制作に取り組んでるんだけど、デティールがなかなかうまく行かなくて・・・。
それで今回のゲームを利用して、アニキを石膏に押し込んで、直接型を取ろうかと思ったわけ。
ねっ、いいでしょ?」
兄 「な・・・なんだと・・・!?」
鈴凛 「さあ立って!あの黄泉比良坂に落ちるのよ!
・・・フッ、と言っても、さっきの『積尸気メカE波』のダメージで、立ち上がる気力もないみたいね。
OK!私がひきずって言ってあげるわ。」
グイッ!
兄 「・・・だ・・・ダメだ・・・体が言う事を聞かない・・・。」
ズルズルズル
鈴凛 「・・・さあ、着いたよアニキ、ここが黄泉比良坂の穴さ。ちょっとの間、浸かっててね。」
兄 「うう・・・ボクはここでエンディングを迎えてしまうのか!?」
鈴凛 「ウワーッハッハハハ!」
♪アニキ、メールチェックして!アニキ、メールチェックして!
鈴凛 「むっ!?・・・おのれ、またアイツ・・・小森さんからか!!」
兄 「・・・小森さん?・・・あの鈴凛と同じ学校の小森さんか!?」
小森 (お姉さま!ぜひ私のお姉さまになって下さい!私、お姉さまのためなら何でもします!)
鈴凛 「・・・う・・・私に百合の趣味など無いとあれほど言ったのに・・・まだ諦めないのか!?
どこで私のアドレスを知ったかは知らないけど、こう何度もメールをされては迷惑だ!!
失せろ、小娘!!」
♪ピッ!ピポパピピッ!ピプパピッ!ピポピパピッ!ピッ!ピポピパッピッ!ピポピッ!
鈴凛 「フハハハハ!!」
兄 「な・・・何をしたんだ鈴凛!?」
鈴凛 「いやなに、あまりにもうっとおしいから、
小森さんのメルアドを出会い系サイトへ大量に登録してやったのだ!!
これで小森さんの元にバカな男どもから数え切れないほどのナンパメールが届くぞ!!アハハハ!!」
ボッ!!
鈴凛 「うわぁぁーーーっ!!な・・・ア、アニキの小宇宙が急激に燃え上がった!?」
兄 「・・・鈴凛よ・・・いくら妹とはいえ、それは許さないよ!!」
鈴凛 「しまった!・・・アニキは最近迷惑メールが大量に来て頭にきてるんだった!!」
兄 「小森さんに詫びるがいい!!いくぞっ!」
お に い た ま 昇 龍 覇!!
鈴凛 「むむむーっ!」
ガカァッ!!
兄 「む・・・バ、バカな!?・・・止めただと!?」
鈴凛 「クッククク、私も人気下位とは言えシスプリの黄金妹の一人。
萌えの力で負けるわけにいかないよね。」
兄 「な・・・なんだって!?」
鈴凛 「さあ、こんな所で使うのは初めてだけど、もう一度大人しくなってもらうよ、アニキ。
行くよ!積尸気メカE波!!」
兄 「うっ!!や、やめろ〜〜っ!!」
ガシッ!!
兄 「こ、これは!?」
鈴凛 「な・・・なんだこいつらは!?」
兄 「これは、メカ鈴凛!?大量のメカ鈴凛の試作品が、鈴凛の体にしがみついている!?」
鈴凛 「ば、バカな!?なぜメカ鈴凛が暴走を!?」
兄 「はっ、そうかメカ鈴凛は僕の声に反応する機能がついている。僕の声を聞いて助けに来たのか!?」
鈴凛 「は・・・離せ!!うっ・・・このままでは・・・。」
グラッ!
鈴凛 「うわっ・・・お・・・落ちる!!・・・うわぁ〜〜〜〜っっ!!!」
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鈴凛 「うわぁ・・・服が全部真っ白だ・・・これ落とせるかなぁ?」
兄 「ハハハ、まさか自分が落ちちゃうとはねぇ。」
鈴凛 「でも助けてくれてありがとう・・・やっぱりアニキはやさしいんだね。私、アニキにあんな事したのに・・・。」
兄 「何言ってるんだ。妹を助けない兄なんていないさ・・・。」
石田 「・・・いや、あなたも体力が無かったんで、ほとんど私が救い上げたんですが・・・。」
鈴凛 「えっ・・・そうだったの?ハハハ・・・。」
兄 「それより鈴凛、小森さんにちゃんと謝るんだぞ。」
鈴凛 「うん、そうする。ついでに出会い系サイトにハッキングして、サーバーを全部クラッシュさせてみるね!」
石田 「そ、そこまでするのか!?」