だいたいせがれがホモだとか、春樹はヤク中だとか文句つけてるけど、男色もコカインも本当は由緒正しいんだぞ。角川書店の創業者で春樹さんの親父の角川源義は、折口信夫っていう学者の弟子だった。 この折口ってのは、角川さん以上の大天才でね、それまでの国文学の歴史をみんなひっくり返したとんでもない奴で、今どきの学者は折口の仕事の残り滓をあさって辛うじて偉そうな顔をしてるってほどの大学者なんだ。コカインとホモもすごかった。まぁ戦前はコカインは非合法じゃなかったから薬局いけば買えたんだ。それでも折口先生は吸いすぎて鼻の粘膜がボロボロになって血を噴いたっていうからね。実際鼻血だらけの原稿用紙が残ってるんだ。角川さんの口の回りがただれてたなんて、可愛いもんだよ。 それに少年愛でね、弟子はみんな丸刈りにしてメガネをかけさせていた。それが先生のお好みだったんだな。目星をつけたのには、しつこくしつこく迫って、学問は頭からだけ入るもんじゃないとかいって襲ったり。与太じゃないよ、命からがら逃げた弟子がちゃんと書いているんだから。 福田和也『人でなし稼業』新潮社 H11.8/1 P21 |