remove
powerd by nog twitter

トリックスター(trickster)

 いたずら者、ペテン師、…しかし、硬直化した価値観を壊して人々に笑いと創造をもたらす者。低俗なトリックスターは破壊のみをもたらし、高尚なトリックスターは破壊の後に新しい秩序をもたらす。
 ユングや林道義の話を整理すると、トリックスターは以下の四つの特徴を多かれ少なかれ備えている。
1.反秩序
 トリックスターは無秩序の精神境界を無視する精神を持ち、秩序を壊す者文化的な約束事を破る者として現われ、法や慣習の限界から離れた所で活躍する。
 アポロンの牛を盗んだり、冥界と天界を行き来するヘルメス、神の世界から火を盗んだプロメテウス、権力者や富豪から財宝を盗み出す怪盗、タカマノハラで乱暴狼藉を働いたスサノヲなどがこの特徴をうまく表わしている。
 尚、極端になると、女性になって男と結婚したワクジュンカガや、牝馬になって牡馬に犯されたロキのように、性別を越えてしまったりもする。
2.狡猾なトリックで騙す
 トリックスターは自分が欲しいものを、狡猾なトリックを使って相手を騙して手に入れる。
 子どものヘルメスは、アポロンの牛を盗む時、自分に嫌疑がかからないように、大人のサンダルを履いて盗んだ。スサノヲはヤマタノオロチに酒を飲ませて酔い潰し、その隙に殺してクシナダヒメを妻にした。怪盗は権力者や警察などを、思いもかけないトリックで欺いて財宝を手に入れる。
 尚、この側面が高度に発達すると、神や君主を欺いて得た文化や利益を人間や民衆にもたらす、文化英雄となる。これは神話時代なら、盗んだ火を人間にもたらしたプロメテウス、人代ならば盗んだ金を貧しい者に与える義賊などによって表わされる。
3.愚鈍
 トリックスターの意識は究めて幼児的で初歩的であり、愚かな者たちをトリックで騙す事しか出来ない。また、必要なルール・規範を守ることが出来ない。
 2と矛盾すると思われるかもしれないが、相手を騙すという事は「騙し合う関係」に陥るので、愚かしい事といえる。そもそも相手を騙すという事自体、社会的に見れば愚かなことなのである。
 限度を越えたいたずら(バルドル殺害)をしたロキ、まっとうに生活できる実力を持ちながら詐欺を続ける詐欺師・マーヴィン・ヘウィット(※)、人間でなければ、ゴブリンやコボルトなどがこの特徴をよく表わしている。
4.セックスと飢え
 トリックスターの行動は全て、露骨な性欲と食欲とを動機としており、これはトリックスターが生物的、本能的次元にいる事を示している。また、セックスを【男根的】と表現する事もある。また、これらの欲望の他に、金銭欲や所有欲を加えてもよいかもしれない。
 男根的、といえば、ヘルメス像が男根で表わされる事が良い例かもしれない。

 これらのトリックスターの特徴は、どれが前面に出てくるかによって全く違ったものになってくる。例えば2の特徴が成熟すれば英雄となるだろうし、3が前面に押し出されてくると、ゴブリンやコボルトなどのような低俗なイメージを持つようになる。
 また、見方によっても、トリックスターのイメージは異なってくる。例えば人間に火をもたらしたプロメテウスは、人間にしてみれば大恩のある英雄だが、天上の神々にしてみれば、火を盗むという大罪を犯した反逆者なのである。

※マーヴィン・ヘウィット…高校を中退し、独学で数学や物理に精通。物理学者と偽って大学で教鞭をとった。彼の実力をもってすれば、本物の物理学者になる事も出来たが、彼はそれを拒否し、学歴詐称を続けて大学で教鞭をとりつづけた。
表徴としての例
ロキ(北欧神話)、アルセーヌ・ルパン、ルパン三世、彦市・吉四六・一休さん、ヘルメス(ギリシア神話)、ピエロ、ビートたけし、太郎冠者次郎冠者(狂言)、両津勘吉(こち亀)、竹村健一、マイケル・ムーア、榎木津礼二郎(京極夏彦の小説の登場人物)

文化英雄に発展した例
スサノヲ、ヤマトタケル、ワクジュンカガ(インディアンのウィネバゴ族)、プロメテウス


 ちなみに、樺沢紫苑氏はスターウォーズのジャー・ジャー・ビンクスのトリックスター性を論じている。HOTH PRESS記事はこちら

佐藤優『国家の罠』
 私は、田中眞紀子女史は「天才」であると考えている。田中女史のことばは、人々の感情に訴えるのみでなく、潜在意識を動かすことができる。文化人類学で「トリックスター(騒動師)という概念があるが、これがあてはまる。
「トリックスター」は、神話や昔話の世界にはよく見られるが、既成社会の道徳や秩序を揺さぶるが、同時に文化を活性化する。田中女史の登場によって、日本の政治文化が大きく活性化されたことは間違いない。しかし、問題は活性化された政治がどこに向かっていくかということだ。(P77)
【参考文献】佐藤優『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』新潮社 2005.11.30

【戻る】 【ホーム】
【やれば出来る!だれでも出来る!】【TG−アフィリエイトプログラム】