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桃の子桃太郎(十六)

 夜になって霧が出てきました。桃太郎は犬・猿・雉に向かって言いました。
「見ろ、霧が出てきたぞ。霧に隠れて鬼どもに発見されにくくなった。これは天が我らの味方について助けてくれたのだ。
 さあ、唱和しろ。天が我らの味方についている!」
「天が我らの味方についている!」
「天が我らの味方についている!」
「天が我らの味方についている!」
 犬・猿・雉は最初、桃太郎の言っていることが実に胡散臭いものに思えました。しかし自分たちが繰り返しそのことを唱和していると、そのうち段々そんな気になって、気分が高揚してきました。
 ところで桃太郎がやったことは、新興宗教団体が自己啓発セミナーや道場の修行などでよく行なっているマインドコントロールの初歩的手口です。
 玄界灘の荒波に囲まれていて、しかも先ほどは大量殺戮があり、乗っているボロ船は血まみれという極限の状況が、マインドコントロールの効果をパワーアップさせたようです。
 しかし、夜霧もマインドコントロールもそんなに必要なものではなかったかもしれません。というのも、鬼ヶ島の鬼どもは食糧不足で士気が上がらず、その上、鬼の大将である将軍様への「忠誠の贈り物」とやらで亀や蛇を獲るのに駆り出されてヘトヘトになっていたのです。
 そんなわけで、桃太郎一行はあっさりと鬼ヶ島に上陸できました。
(続く)

(C)IZUMI_Kawauso
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