桃の子桃太郎(十五)
海行かば水漬く屍は自分じゃなくて、最悪の場合でもお供の犬・猿・雉であってもらいたいものだと思った桃太郎。今、眼前に広がるのは、波浪警報の出ている玄界灘。
山行かば草むす屍は自分たちじゃなくて、むしろ鬼どもであって欲しいと願うお供たちと一緒に、桃太郎は玄界灘の向こうにあるという鬼ヶ島の方をじっと見つめておりました。
さて、桃太郎一行は鬼ヶ島へ渡るために、船をチャーターすることにしました。しかし今の今まで旅の途中でうまいものばかり食ってきたので、袋の金が底を突きかけてしまい、やっとのことで入手したのは小さな手こぎボートです。
桃太郎は、波の高さと舟の小ささに怯える犬・猿・雉を棍棒で脅して舟に乗せ、自らの怪力を頼りに櫂を握ってシコシコ漕ぎ出しました。
そうはいっても玄界灘の荒波は、桃太郎の力をはるかにしのぎ、舟は今にも海の藻屑と消え去りそうでした。
するとそこへ天の助けか悪運が巡ってきたのか、偶然にも中国人を満載した蛇頭の密航船と行き合いました。密航船は耐用年数を過ぎたボロ船だけれど、手こぎボートに較べれば月とすっぽん。
桃太郎は好機とばかりに棍棒を振り上げて、密航船に飛び乗って、手当たり次第に叩き殺しては海に放り込んでいきました。
憐れ密航中国人。日本に夢を見たのが桃太郎に地獄を見せられ、出稼ぎをして一花咲かせるつもりが玄界灘に血花を咲かせ、富裕に肥えるはずだったのが、膨れる腹の中身は海水ばかり。いつか故郷の村に豪邸を建てるつもりが、いつまでも海中に建てる墓もなし。こうして彼らは海の藻屑と消え去り、桃太郎一行は密航船を乗っ取って、再び鬼ヶ島へ向かいました。
(続く)
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