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桃の子桃太郎(十一)

 これら一連の出来事を、2ちゃんねるを通して知った桃太郎、
「男と生まれたからには、名を上げ武勲を立てねば。」
 と一念発起。ヒキコモリを卒業して鬼退治に出かけることにしました。

 しかしそのためには色々と準備を整えなければなりません。
 まず第一に、鬼と戦う武器がなかったので、桃太郎は武器を作ることにしました。
 本来はボールを打つために使われるはずだった金属バットに穴を開け、その中に、公共事業の削減ですっかり干上がった工事会社からタダ同然で手に入れたセメントを詰め込んで頑丈にし、更に郊外のホームセンターで買ってきた産地不明の鉄釘を無理矢理打ち込んで殺傷能力を高め、これで桃太郎特製の棍棒ができ上がり。

 次に、軍資金です。地獄の沙汰も金次第なら、地獄の鬼も金次第。地獄の鬼も金次第なら、地上の鬼も金次第。
 そこで父親が桃太郎にせがまれて、銀行に行って、貸し金庫から札束を取り出しました。
 それを見ていた銀行員、風のように忍び寄り、にこやかな笑顔を作って、
「ウチに預金しませんか?」
 と持ちかけました。ここでその札束がこの銀行に預金されると、この銀行員は成績が上がり、公的資金の注入で求められているリストラの候補から遠ざかることができるからです。
 しかしそんなことは気にも留めない父親は、はるか昔に銀行でローンを組んだ時の苦労を思い出し、ここで腹いせにとばかり、
「担保はあるのかね?」
 さしたる権限を与えられていない下っ端銀行員、返す言葉もなく大金と親爺を送り出しました。

 それから桃太郎は、松茸採りに用いた丈夫な麻袋に、松茸を闇ルートに流して得たので通し番号の揃っていない福沢諭吉の札束を入れました。
 又、ドン・キホーテの片隅で投げ売りされていた中国産のズボンを穿き、かわり映えのしないデザインですっかり飽きられてしまったユニクロのTシャツを着て、ブームの終焉と独占禁止法違反騒動とインドネシア工場での児童労働問題で売れ残ったナイキのエアマックスを履いて、これで準備完了。
 桃太郎は意気揚々と、その行動力に呆気に取られる両親を残して鬼退治の旅に出発しました。
 なあに、食べ物や旅道具など必要な物があっても、袋の中の金の力にモノを言わせればどうにかなっちゃうものなのです。
(続く)

(C)IZUMI_Kawauso
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