桃の子桃太郎(五)
そこで両親は次善の策として、桃太郎を塚戸ヨットスクールに入れることにしました。ここなら桃太郎のような少年でも入校できるからです。
こうして桃太郎は塚戸ヨットスクールで厳しいしごきを受けました。一日中、海を泳がされるのです。桃太郎にしてみれば、海を思いっきり泳げるのは気持ち良くて結構なのですが、ヨットに乗った校長が上から罵声を浴びせたり竹刀でポカポカ叩いてくるのが癪にさわってたまりません。
両親は桃太郎の根性が叩き直されてくるのを期待していましたが、叩かれるのは頭ばかりなので、かえって逆に根性がどんどんねじ曲がってきました。コソヴォの民族浄化もパレスチナの自爆テロも気にしない、9.11テロで何千人が死んでも「どうでもいい」の一言で片付ける始末です。
又、桃太郎はヨットスクールでのしごきの中で筋肉をモリモリつけると共に、ねじ曲がった根性によって悪知恵もつけました。
ある日のこと、いつものように桃太郎は他の生徒たちと一緒に海を泳ぎました。そのそばには校長を乗せたヨットがいつも通り並走しています。桃太郎は沈むふりをしてヨットの下に潜り込み、ヨットの舟底を思いきり蹴って穴をあけました。すると見る見るうちにヨットは沈み、校長もろとも沈没して浮かんできませんでした。
桃太郎はそ知らぬ顔をして他の生徒たちと一緒に陸へ上がり、したり顔で
「ヨットが座礁して沈没した。」
と言いふらしました。
警察がやってきて、沈没したヨットと校長を引き上げて調べてみました。でも、まさか桃太郎のような子供が舟底を蹴破ったなどとは露にも思わず、しかも近年の凶悪犯罪増加で忙殺されていたこともあってこれ以上調査するのが面倒くさくなり、ついには単なる事故死として処理しました。
校長を失ったヨットスクールはブッ潰れ、桃太郎は両親のもとへ帰って行きました。
(続く)
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