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つぎのひ王さまと王さまのへいたいが
お姫さまをさがしに、むらへとやってきました
ひとびとはおびえおどろいていました

お姫さまは王さまにおねがいします
王さまはさいしょはくびをたてにはふりませんでした
それでもお姫さまは王さまにおねがいします
それはお姫さまが王さまにした、うまれてはじめてのおねがいでした
王さまは、少年とおかあさんとをこうごにしばらくながめました
それからめをほそめ、むらのひとたちをながめました
そしてしばらくなにかかんがえごとをしたあと
いつもむずかしいかおをした王さまでしたが
お姫さまがぶじだったことをよろこび
むらびとがそれぞれいっしょう
すごしていけるだけの金貨をあたえることを
おかあさんと少年にはありあまるほどの
ごほうびをあたえることをやくそくしました

そのかわり王さまはお姫さまに、このむらにちかづかないこと
にどといえでをしないことをやくそくさせました

お姫さまはおかあさんや少年がよろこんでいるのをみて
おかあさんの手やスープのおんどが
こころのなかによみがえるのをかんじました
少年はいつか王さまのへいたいになり
お姫さまにかならずあいにいくことを約束しました
ひすい色のきれいなひとみをきらきらとさせながら

王さまがむちをうつと、うまはいっきにはしりだしました

お姫さまは、王さまにかかえられたまま
むらのほうこうをみつめていました
お母さんや少年がみえなくなってもずっと



お姫さまはおしろのすべてがたいくつでした

ながいつきひがながれて
お姫さまはうつくしいむすめにそだちました
あいかわらずおしろのなかはたいくつで
お姫さまのこころおどらすものは
まどのそとにひろがるちへいせんのむこうと
そのせかいのちしきのほん
そしてあのむらでのおもいでだけでした
お姫さまはときおりあのむらでのことをおもいだし
少年がへいたいとなってお姫さまにあいにきてくれるのを
こころのそこでひっそりとまちわびていました

しかしどれだけつきひがながれても
少年はお姫さまにあいにきてはくれません

お姫さまをほしがる国があとをたたなくなっても
王さまはけっしてお姫さまをむりやりとつがせることはしませんでしたが
お姫さまは王さまの命がもうながくないことと
おしろのなかではしずかにゆっくりと
おうさまになりたいおうさまのこどもたちの
つめたいあらそいがおこっていることもしっていました

お姫さまはじぶんがすっかりおとなになってしまったこともしっていました
ここがじぶんのいきる世界だということも
だからどんなにまどのそとに想いをはせても どこにもにげばしょがないことも
ここにじぶんのいばしょがないことも お姫さまはすべてりかいしていたつもりでした

こどものころゆめみていた とおいちへいせんのむこうと
とおいちへいせんのむこうにあるであろうせかいへとたびたつときは
お姫さまがいつかべつの国の王さまになるひとの
お后さまになるときだということも

そしてそのばしょも
いつもありあまるほどのほうせきやどれすにかこまれて
ごうかなしょくじとあたたかいべっどがよういされていることも
ドレスや宝石やおいしいしょくじがこころをみたしてくれなかったことも
そしてこれからもこころをみたしてくれないだろうことも
お姫さまはじぶんがすっかりおとなになってしまったことをしっていました

ただひとつだけ どうしてもきがかりなこと
まどのそとにあるちへいせんをながめるとき
いつもこころにうかぶのは
あのむらとおかあさんと少年のことでした

お姫さまはさいごにもういちどだけ
王さまとの約束をやぶって
お城をぬけだすことをけっしんします

うしろをふりかえることなく
長いろーぶをなびかせて
よるのやみにひずめのおとだけが
ひびきました

はしってはしって
ひとつもりをぬけると
もうおしろは
みえなくなっていました

ひずめのリズムとともに
お姫さまのむねはたかなりました
いつかかんじたおかあさんのてと
すーぷのおんどがよみがります
少年のきらきらしたひとみがよみがえります

もりをぬけるそのとき きぎのあいだから
あのときとおなじように
ひかりがこぼれているのをみつけます
お姫さまはそのひかりのこぼれるさきへと
いっきにつきすすみました

そこには、えほんのなかでみたような
きでつくられたちいさなおうちがひしめきあい
おとなもこどもも せわしなくはたらいていて
ひとびとがみにつけるいふくは
泥や汗でひどくよごれているのに
たのしそうにわらっていたはずでした

むらのようすはちがっていました
きでつくられたちいさないえはほとんどすがたをけし
りっぱないしづくりのいえがたちならんでいます
しかしむらのあかりははんぶんもともらず
みちばたでねころんでいるもの こうろんをしているもの
きこえてくるのは げひんなわらいごえ ひわいなかいわ
くらくよどんだめをしてあるく つかれたおんなのすがた

お姫さまは少年のいえをさがしました
おかあさんのてや あのときのすーぷや
少年がゆめをはなしてくれたときのまなざしや
いえのなかにじゅうまんしていたあたたかいにおいを
きおくのなかでひっしにさがしながら

少年のいえはきおくのままのすがたでのこっていました
お姫さまのふあんになっていたこころに
あたたかいきもちがもどってくるのをかんじました
しかしいえにはあかりがともっていませんでした
お姫さまは少年のなまえをよびました
ドアをあけると ほこりと
あるこーるのにおいがはなをつきました
あたりはくらく、まどからこぼれるつきあかりが
かろうじてベッドによこたわるひとのすがたをおしえています

ベッドからはつよいあるこーるのにおいがします
ゆかにはさかびんがころがり
おかあさんのすがたはみえません
しんぞうのたかなりをひっしにおさえて
ベッドによこたわるひとのかおをのぞきこみます
お姫さまは少年のなまえをちからなくよぶと
よこたわる人はゆっくりとまぶたをあけて
お姫さまにしせんをかえしました
彼はあかいいろのかみと
ひすいのようなきれいなひとみをしていました

彼はかつての少年であり
彼女がかつてのお姫さまであることを
ふたりはしせんがぶつかったそのしゅんかんにりかいします
ながれたつきひをとびこえるかのように
しかしお姫さまは彼のまなざしに
こんわくとおどろきをみつけたすぐあとに
彼のひとみにやどった、おびえともにくしみともとれる
かんじょうをみつけていました

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