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[DQ3プレイ日記]


2005.11.12


前略、お母様。

父の果たせなかった責務を受け継ぐよう王様に命ぜられアリアハンを旅立った日から、早くも半年が過ぎました。月日が経つのは早いもので、こんなゆったりした旅路ではうっかり本来の目的を見失ってしまうかも、と宿のベッドで目を覚ました時に意味も無く慌ててしまう事があります。
 こんな落ち着きの無い様子では勇者失格ですね。ごめんなさい。




ところでボクは今日、アッサラームという大きな町へ辿り着きました。以前に訪れたロマリアも大陸を政治面で統括し娯楽施設を有する巨大な都市でしたが、このアッサラームも負けていません。人の心に宿る欲望の量ならば、こちらに住む者の方が多いかもしれません。煤んでばかりで一向に晴れる気配の無い、濁った心です。


正直なところ、ボクはこの町をあまり好きになれません。


例えば、この町に店を構えているくせにどういう訳か異国人を装い、言語が不明瞭である事を利用し法外な値でこちらに武具を売りつけようとする不届きな商売人を多く目にします。いえ、販売されている商品のうち幾つかは確かに珍しい品もあるのですが、それらは全て実勢価値の何倍もするものばかりで、お金に余裕も無く各地を渡り歩くボク達にはとてもじゃないですが店頭価格では手が出せません。清く正しい勇者である自分が人目を憚って値切り交渉に勤しむのはボクも恥ずかしいのですが、背に腹はかえられません。これも僧侶・そふいあに捧げる理力の杖のためです。


それと、この町にはベリーダンスと呼ばれる踊りの見世物があります。薄着の女性が手足や腰を振って踊るのです。一応、ボクも男ですので、まあ、何というか、女性のそういった……その、艶やかな姿を見るのは決して嫌いではないのですが、しかしやはり、それに野次を飛ばしたり眼に血筋を走らせて凝視する観衆を見ていると、ちょっと気持ち悪くなってしまいます。
 ボクは彼女らを、そこまでモノとして割り切って見る事ができないのです。こんな考え方、変ですかね? 武闘家のせれすとにも叱られたのですが、少し潔癖すぎるのでしょうか。


最後に、ボクはこの町の女性がどうしても好きになれません。町自体も好きになれませんが、女性は特に苦手です。
 別に何があったという訳ではないのですが、どうしても好きになれないのです。本当に何があったという訳ではないのですが、特に夜の女性、それも物欲しげに男性へ向けて話し掛けてくる女性は怖いのです。本当に怖いのです。
 それというのも、その女性の誘いに乗ると、どうしようもなくヒドイ目に遭わされるらしいのです。知らない人からそう聞きました。肉体的に被害は無いけれど精神的に苦しめられる、と知らない人から聞きました。ボクが直接被害に遭ったのではありません。知らない人です。その知らない人とは、酒場で偶然会った初老の男性です。本当です。

上の話とは関係ありませんが、ぱふぱふとやらにはもう金輪際関わりたくありません。




長くなりましたので、この手紙もここで終わりとします。これから寒い日が続きますが、体を冷やさないように気をつけて、元気でいてください。暇な時間を見つけた時、とりわけMPが8以上残っている時にはできるだけ家に帰るよう心がけます。こちらは元気ですので心配しないでください。


それでは、失礼します。 草々






[過去掲載分]

2005.04.18


ゲーム開始。




まずは勇者の名前を入力。
 『ろと』と打ち込み「じぶんの なまえを いれてください」と3度ほど注意されたので、諦めて普段RPGで使用している名前『かなん』と入力しました。ちなみに『かなん』の元ネタはこれ。何故ボーイズラブゲームから名前を引用しているかについては面倒なので説明しません。

続けてアリアハン王からの勅命を受けたのち、ルイーダの酒場へ直行し武闘家(男)・僧侶(女)・魔法使い(女)を登録。本来の理想パーティである戦士・勇者・僧侶・魔法使いから戦士を除名したのは、装備代を浮かせるためです。名前はそれぞれ『せれすと』『そふいあ』『はろっと』。元ネタは順に『王子さまLV1』『LAST EXILE』『マルドゥック・スクランブル』。後ろ二人は現在観てるアニメと読んでる小説から。


各々のキャラへの愛情を深めるために自己暗示の意味も含めて、メンバー名の元ネタとなったキャラクターの性格・容姿その他詳細を書き残しておきます。
 まずは『かなん』。正しくは『カナン・ルーキウス』。PC・PSで発表された『王子さまLV1』シリーズの主人公であり、同作品の舞台となるルーキウス王国の第二王子でもあります。平和を絵に描いたような世界に飽き飽きし、おとぎ話のような英雄譚に憧れるカナン王子は、直属の従者を騙してダンジョン探索へと勤しみます。その過程で悪の幻獣の封印解除を目論む者たちと遭遇し、最終的には従者(♂)との愛情を育む事に。

その従者が『せれすと』。正式名は『セレスト・アーヴィング』。王子の悪巧みに嵌る前は相当な剣術の使い手でしたが、レベルを1に下げる呪われたアンクレット(カナン王子が通販で購入)を装備させられてしまい、仕方なく王子とのダンジョン探窟を手伝います。そんな王子の放漫な性格に激昂しながらも、その感情はいつしか主従関係を超えた愛情へと様変わりし、エンディングでは王子(♂)ともラブラブに。

『そふいあ』は『ソフィア・フォレスター』。『青の六号』などの作品で有名なアニメーション制作ブランド『GONZO』が手がけた、2004年公開のアニメ『LAST EXILE』に登場するメガネっ娘です。産業革命当時のヨーロッパを想起させる世界を舞台に、ヴァンシップと呼ばれる小型飛行艇に乗り続ける子供二人を中心に描いたアニメの中で、彼女は頭脳明晰・勝ち気・平静と、メガネっ娘のメガネっ娘たる所以をまんまトレースしたような女性として登場します。しかしそれは、あくまで表の姿。仕事を終えて自らが乗船する大型戦艦の個室に戻ると、結わえた髪を解きほぐし肩までかかる赤いストレートヘアを鏡越しに見つめ、戦艦のトップに立つ男性アレックスを物憂げに想う乙女なのです。眉一つ動かさず前を見つめる実直な瞳が脆弱な女性のそれに摩り替わる時の表情が堪らなくエロかったりします。ていうかそれ観たくて今ビデオレンタルしてます。

『はろっと』の正式名は『ルーン=バロット』(濁音入力を許さぬ4文字制限)。冲方丁先生が執筆した人気SF小説『マルドゥック・スクランブル』に登場する女の子です。彼女のエピソードについてあんまり書きすぎると豪快なネタバレになりますので詳しくは書けませんが、簡単に言うと(私が大好きな)引っ込み思案で精神欠落系な青白い美少女です。




そんな訳で、バラモス・ゾーマ討伐のため編成された我がパーティの相関関係をまとめますと、
 ・ストーリーが進むごとに互いの愛情を高め合っていく勇者と武闘家。
 ・その勇者を遠くから見つめるも、想いを伝えるには至らない優秀な僧侶。
 ・過去の特異な境遇に怯えつつ今の拠り所を見つけるために戦うメンヘル系魔法使い。




うわー、なんか集英社スーパーダッシュ文庫みたい。



2005.04.21


アリアハン国の長が、バラモス討伐を目標に旅立つ勇者へ向けて餞(はなむけ)の言葉を送ってくれました。




「よくぞ きた! ゆうかんなる オルテガのむすこ かなん  よ!
 そなたの ちち オルテガは たたかいのすえ かざんに おちて なくなったそうじゃな。
 そのちちの あとをつぎ たびに でたいという そなたの ねがい しかと ききとどけた!」




……うん。


父親の跡継ぎ。その言葉には、仇討ちの他意も含まれているように感じます。
 世界を救う傍らで父の仇を探す旅。なるほど、とても良いと思います。セカイ系で浪花節。

でも、はたしてそれは勇者自身の意志に依る決定事項なのでしょうか。

この王様のセリフ、聞きようによっては勇者に大義名分を押し付けて無理やり外へ旅立たせようとしているようにも聞こえます。無論、王様にしたって勇者の素養を信頼した上での発言なのでしょうけれども。でも、16歳という年端も行かぬ男の子である勇者自身にそれを受け止める心の準備は出来ているのだろうか、と。


思えばこの日、親愛なる母から起き抜けにこんな言葉を掛けられました。




「きょうは とても たいせつなひ。
 かなん が はじめて おしろに いくひ だったでしょ。
 このひのために おまえを ゆうかんな おとこのこ として そだてたつもりです。」




……うん。


母は、勇者を勇者として育てるためにどんな事をしてきてくれたのでしょうか。例えば、剣術と基礎魔法の稽古、王様をはじめとする偉い人へのご挨拶、そして父・オルテガの武勇伝や思い出話。
 きっと母は、息子の輪郭をオルテガという基準越しに見てきたのでしょう。だって彼の父は、とても強い戦士ですから。

つまり勇者には決定権なんて無かった、という事でしょうか。オルテガ・ロトの血を引く男としてこの世に生を受けた時点で、彼の行く道は既に一択確定だったのでしょう。まあ当然です。きっと彼にしか、バラモスは倒せないんですから。

母親主導で人生にレールを敷かれ、政治方面で王様がアシスト。彼の知らないところで大人がいろんな事をやってくれたんですね。
 勇者としての素質が己の中に眠っているのは事実であり、それはそれで喜ばしい事だと思います。他人に譲れない、唯一無二の才能なのですから。世界を救えばきっと、この世のほとんどの人がたくさん褒めてくれます。


でも、その日が来るまでボクはここにいていいの?



2005.04.25


盗賊の鍵、という物騒な名前の重要アイテムについて。




「とうぞくバコタの つくった カギは かんたんなドアを すべて あけたそうじゃ。」




まあ、字面だけ見れば当たり前ですけど「盗賊の鍵」は盗賊が作った鍵なんですよね。そして「盗賊の鍵」はご家庭でご使用レベルの鍵を開錠することができる。
 それは逆に言えば、一般家庭や城内で閉められている「簡単なドア」は「盗賊の鍵」で開けるための扉ではなく、それぞれ固有の鍵が存在する、という事。


そう考えたとき、かなり昔に近所の駅で見た、放置自転車をパクっていく中学生を思い出しました。

その子は近くのゴミ捨て場に捨てられたコンビニ傘を分解し、そのうち一部の部品を器用に使って鍵を開けていたんです。ガチャガチャと鍵の差し込み口にそれを抜き差ししてると、呆気なく鍵が外されました。その様子を見て喜びも悲しみもせず、スタンドを上げサドルに腰を下ろす中学生。かくしてママチャリ初期装備の簡単な鍵しか掛けていない自転車は、無残にも人として程度の低いローティーンに乗り回されましたとさ。
 なんでこんなに詳しく覚えているかというと、その中学生が当時の私の同級生であり翌日その目撃談を話すとチャリンコ盗難の手ほどきを子細に教えてくれたからなんですが。その時はとりあえず「後輪に轢かれて死ね」って言っときました。

例えは最悪ですけど、きっと「盗賊の鍵」の在り方はそれに近いんだと思います。


ナジミの塔で、偏屈者の爺さんから「盗賊の鍵」を譲り受けたとき、思いました。そんな違法臭い物、勇者が持ち歩いてていいんだろうか、と。


思えば、勇者たちが起こす行動についてはいろいろ考えさせられるものが多数あります。人ん家に入るときは鍵こじ開けずに、大人しくノックして住人の応答を待ったほうが良いんじゃないだろうかとか、鍵の精度と比較してもそんな大した扉は開けられないんだから、城内に掛けられた「簡単なドア」は多分、いつでも開けられるけど開けたら開けたで面倒だから(城内の掃除とか)見てみぬ振りしてる扉だろうからそっとしておいたほうがいいんじゃないだろうか、とか。
 現実世界で目上の人から見聞きしたはずの常識やマナーが脳裏を過ぎり、そして消えていきます。

もしかして勇者という生き方は、他人の生活を軽度に蹂躙した上で成り立つ横暴な職業なんじゃないかとさえ思えてきます。
 ゲーマーの間でよく言われる、勝手に人ん家の壷とか覗き込んで薬草を強奪する一連の仕草は言うに及ばずなのですが、もっと身近なレベルで勇者は正義という名の社会的権力を行使し、町の住民を無意識に脅かしているのではないのでしょうか。ほら、ウルトラマンが怪獣追っ払うために近隣家屋ぶっ潰す感じ。



2005.04.29


「かつて アリアハンは すべてのせかいを おさめていたのじゃ。
 しかし せんそうが おこって おおくの ひとびとが しんだ。
 そして うみのむこうにつうじる たびのとびらを ふうじこめたのじゃ。」




戦争。

どうにも違和感が拭えない言葉です。モンスターが跳梁跋扈する現在の世界情勢を示す言葉とは思えません。ゾーマの襲来を指すならば「侵略」と呼ぶほうが適切ではないでしょうか。


この「戦争」という言葉からはむしろ、強大な第三者側からの攻撃よりも国家間の衝突や対立を意味するようなニュアンスが感じ取れます。これならば後の「おおくの ひとびとが しんだ」という一見必要なさげな説明にも、「戦争」の陰惨さを伝える意味が込められているように感じますし。
 つまり、この話をしてくれたお爺さんはバラモスの脅威を語っているのではなく、それ以前にあった世界規模の戦争について説明してくれているのです。

そして驚くべきは、かつてのアリアハンが世界を牛耳っていたという事実。もしこの言葉が、発言主であるお爺さんの狂信的愛国思想から出た歪曲バリバリの自国史でなければ、この国は「戦争」以前に世界トップレベルの「何か」を所有していた事になります。


例えば、軍事力。
 今でこそ銅の剣や鎖鎌が最高ランクの武器として流通しているアリアハン国内ですが、過去には分厚い壁を瞬時に粉砕する「魔法の玉」を精製する技術がこの国にはあったはずです。その技術が表立って残されていないのは、きっと「戦争」後に平和を得るため敢えて武力を放棄したからでしょう。現在のアリアハンにも憲法9条が存在するのでしょうか。
 更にオルテガ以前のロト一族の武力が遺憾なく発揮された結果、一時期のアリアハンは武力で世界を支配していた……とは、考えないようにしておきましょうか。ロト一族の血が人間たちに向けられたとあっては、主人公パーティの「正義」が揺らぎかねないので。

そうすると「誘いの洞窟」が閉鎖されていた理由も納得がいきます。つまり「うみのむこうにつうじる たびのとびらを ふうじこめたのじゃ」。他国からの侵攻を物理的に妨害するための障壁ですね。
 そして「誘いの洞窟」がやたらと入り組んだ構造なのも理解できます。あれは他国からの侵攻を妨げるためにわざとああいう構造を人為的に作り上げていたのです。同じくナジミの塔は、侵攻を見張る物見やぐら的役割兼上流階級者の避難先であったと想像できます。アリアハン城内・レーベ村南部・アリアハン島南西部と、3箇所からの出入りが可能である点から考えても、各地への避難経路の確保が目的とされた可能性が高いと思われます。

思えば、この世界では船舶技術がそれほど重要視されておらず(立地条件からして港町であっても不思議でないはずのロマリアに港が無い)、各地への移動は旅の扉が使われているようです。一般レベルで常用されているかどうかはともかく、商取引や高官の外交には使用されているでしょう。
 それを閉鎖する。即ち、鎖国ですね。アリアハンは国家間の断絶・軍事技術の衰退とアリアハン国民の失命を天秤にかけ、前者を選んだのです。その後は他国の攻撃と同時にゾーマの侵攻も防ぎ、結果としてアリアハン近辺に群生するモンスターが微弱なものしか生息しなくなったため、勇者血族の保護へと繋がった事からその判断は正解であったと言えるでしょう。




ここで湧き上がる一つの疑問。完全な鎖国状態であるはずのアリアハンが、なぜ「冒険者の集う町」と呼ばれているのでしょうか。

これはゲーム上のメッセージやドラクエ世界の環境を参考としない完全な私の想像なのですが、「冒険者」と呼ばれる他国から完璧に隔離された環境のため、犯罪者や亡命者のような他国での居住を許可されない立場となった人間達がどうにかしてアリアハンへ移り住んできたのではないのでしょうか。通航の辺鄙さを求めて前科持ちや彫り物系の職業だった方が離れ小島へ多数移住する、なんて話は日本でもよくありますし。
 つまり、勇者の仲間たちはみんな悪い人。いつかどこかで科せられた罰から逃れるために身を潜めていた風来坊なのです。




アリアハン大陸。最弱クラスのモンスターしか生息しない環境のウラには、表立って語られることのない国家間のトラブルが存在しました。



2005.05.19


旅の扉。


諸国間の移動手段として最もポピュラーなそれは、まるで陸同士を橋で繋ぐかのように各大陸の末端に配置されている事が多い。純粋に移動目的で旅の扉が生成されるのならば、各国の中心部に備えられていたほうが都合が良いだろう。そうでないのは、旅の扉が利便性の高い瞬間移動装置であると同時に、外交・商取引・武力行使などの副次的な効果を容易に引き起こすメリットとデメリットが表裏一体となった潤滑油であるためであり、それを鈍らせるための牽制策として旅の扉が辺鄙な場所に作られた可能性は多分にある。ゾーマが起こした一連の侵略行為とはまた別の、国家間のあざとい駆け引きを垣間見る事ができる。

ところで、旅の扉を使用した者達は口々にこう言う。体が解きほぐされるような、奇妙な感触を受けた、と。




青々とした液体と、それに数本の曲線を引く渦。一見すると水流をうねらせる泉のようにも見えるが、その姿形は旅の扉の上澄みでしかない。

旅の扉は、まず上澄みの部分を通過する物質を走査機能で正確に読み取る。それは分子レベルで正確に処理されるほど精密なものだ。その後、上澄みを通過した生命体を構成する物質を分解しデータと共に旅の扉の水流で押し流し、転送。このとき、水流の速度は光速に近い。そして旅の扉のゴール地点でデータを参照し、元の物質を完全に再現する。
 以上で、移動完了。

この技術は等価交換を原則とする錬金術を応用したものであったが、元は意図的に作り出されたものではなかった。ある高名な錬金術師の壮大な失敗により生み出されたミスの残りカスである。その時空の歪みは錬金術師の亡き後も消えることが無いまま、今もとある祠で厳重に保存・隔離されている。その旅の扉の誕生から数十年後、生成者の弟子や後発の錬金術師達によって生成方法が解明され、多くの場所で旅の扉が生み出された。
 未だ『旅の扉』の性質について不明な点も多いため、転送による様々な副作用も懸念されているが、現時点で特に異常は発見されていない。






大体そんな感じのことを考えながら、かなん一行はアリアハン諸島を脱出。ロマリアへ到着です。



2005.05.27


ロマリアへ入国しました。




「これは アリアハンのおかた! よくぞ まいられました!」

「アリアハンから まいられた おかたでは? おお! おまちしていました!」

「ねえ おにいちゃんたち アリアハンから きたんでしょ? すぐに わかったよ!」




……まあ、「戦争」の傷跡は癒えているらしく、アリアハンと敵対していたはずのロマリアの住民から歓迎されるのは何よりなんですけど。

にしても、彼らはなぜ勇者達を一目見ただけでアリアハンの人間と分かったのでしょうか。ロマリア住民の口ぶりから察するに、そうとう珍しい顔してるっぽいですね、かなん一行。東京出身者と沖縄出身者くらいの違いがありそうです。
 もしくはロマリア住民との差が見た目ではない場合、ガンダムで言うところの「ジオン訛り」のような、その世界の住人でないと理解できないような特徴がある可能性もあります。




しかし、地元から飛び出してすぐのヨソ者扱い。何かもう、今からエジンベア行くの嫌になってきたな。



2005.06.05


レベル上げがてら、カザーブまで遠出してまいりました。
 村唯一の道具屋に代々伝わる「どくばり」を夜更けの闇に紛れて掠め取りつつ、そのついでに武闘家せれすと用の「てつのつめ」と「ぶとうぎ」も購入。レベルも10を突破し改心の一撃発動頻度も上昇中の用心棒兼かなん直属の従者は、シャンパーニの塔に控えしカンダタとの戦闘を前に準備万端です。




ところで。

私、カザーブに到着したときから、どうも妙な既視感を覚えてまして。
 既視感、と言いましても他のゲームと似たマップだとかそういう事ではなく、何かこの、カザーブの村が持つ風土や立地条件などか、どこかの「場所」に似てるように感じたのです。

ぼんやりと半日ほど考えて、ようやく思いつきました。
 ああ、自分の住んでるとこと一緒だ、と。











まあ単純に田舎繋がりってだけなんですが、そう言えばカザーブって典型的な「田舎」の要素をいくらか含んでますよね。
 人里離れた山奥なのは勿論、「ここには いだいな ぶとうかが ねむっている。 かれは すでで くまをも たおしたという」みたいな、古めかしいベタな伝承が未練がましく残っていたり。
 ちなみに我が家の近所にも、平家の誰か(確か平重盛辺り)の末裔が落ち延びたと伝えられている場所があります。当時の氏族が住んでいたとされるお堂やら何やらが存在しますが、それの保存に対して町の協力は特に得られぬまま今も野晒し状態が続いています。別にいいですけど。











基本、ロマリアからの帰宅時は坂道なんでしょうね、カザーブ在住者。











まあ農作物はともかくとしても、稲作の技術は『ドラクエ3』の世界に伝わってないかもしれませんね。











四方全て山に囲まれた地域ですから、越冬も大変だと思います。ただでさえロマリア大陸は北に位置してますし。




……うーん。
 こういう身近な環境を通じてゲームの世界を近く感じる事実を素直に喜ぶべきなのか、それとも都会らしい都会に出向くだけで苦労する辺鄙な境遇を素直に嫌がるべきなのか。本来なら前者を選ぶべきなのに、過去にデジカメで撮影した画像から田舎っぽい絵を選び出すたびに、切ない虚無感に苛まれます。



2005.07.22


魔法使い・はろっとがルーラを覚えました。

カザーブからシャンパーニの塔へ向かう直前でのルーラ習得。完璧なタイミングです。カンダタ戦を前にこれ以上頼りがいのある呪文はありません。王冠奪還後はロマリアへ直帰です。
 いや、でも案外ボス戦後にMP8を残しておくのって難しいんですよね。塔の攻略とボス戦を各種攻撃呪文とスカラで切り抜けた結果、残MPがギリギリになっちゃったり。




ところで、ルーラの消費MPがDQ1〜5では最大8だったことに対し、6以降では何故1になってしまったのでしょう。

こういうゲームバランスを軽く調整する変更は「昔の屈強な難易度のゲームに慣れていない現在のユーザーに合わせた措置」と言われがちです(この辺、あのギリギリなバランスが魅力の一つであるDQ2の次世代機リメイクが成功しない理由かもしれません。堀井雄二先生自身もSFC版DQ1・2を指して「オリジナルを知っている人から見れば楽チンで逆につまらないかもしれないけれど」みたいな話をされていましたし)。
 しかし、この消費MPの極端な低下は単純にゲームバランスを調節するのが目的なのでしょうか。

昔は、ボス戦終了時やダンジョン攻略時にMPを8(リレミトを含めると消費MPは16)残しておくこと自体に遊び手の工夫が必要でした。攻略後に意識を置き過ぎるあまり1ターンの間にヒャダルコやメラミを撃つべきか否かの判断を誤ってしまい、それだけで勇者一行の生死が分かれしまう。かと言ってMPを無駄遣いしてしまえばダンジョン脱出に支障が及ぶ。
 つまり、ファミコン時代のドラクエ(特に2以前)はダンジョンと同様にフィールドマップも脅威だったのです。フィールドでのたれ死ぬのが恐怖であり、恐怖すらも楽しみの一つでした。


しかし、現在のRPGにおいてフィールドマップはそういう在り方をしていません。恐らくは町や村や城の所在地を示す記号です。そんな現在のフィールドで、ヒババンゴやバピラスの存在はただ無闇に強く鬱陶しい敵でしかないのかもしれません。全くの私見ですが、SFC以降ほとんどのRPGからフィールドで死ぬようなバランスが見受けられなくなったように思います。次の町へ行くだけの作業にHPガリガリ削って敵の攻撃方法に適切な対処して、まるでダンジョン突破と同じくらいの苦労を背負い込んで。そんな愛すべき徒労感が長い年月に埋もれるかの如くフェードアウトしてしまって。

思えば、ボス戦攻略や重要アイテムの獲得と同列に並ぶほど「次の町へ行く」が重要で楽しいイベントだった昔とは違い、今のゲームはもっと楽しくてプレイヤーに伝えねばならない事がたくさんあるような気がします(美麗なムービーとか重厚なシナリオとか)。大雑把に言ってしまうと、戦闘時のバランスだけで遊ばせ続けるのは「味が薄い」って事なんでしょう。ただ歩くだけで楽しめていたのは、もう過去でしかない、と。
 ラーミアを得るのはゲーム終盤であり且つアレフガルドへの移動は不可能ですが、飛空挺やフラミーはどこまでも飛べます。『テイルズ・オブ・リバース』のシャオルーンが世界中を優雅に飛び回っている様子が、まるでテパの村周辺を船で迂回して迂回して這いずり回る勇者ロトの子孫たちを嘲っているように見えるのは私だけでしょうか。いや私だけでしょうけど。

つまり、ゲームからそういった類の移動の楽しみが無くなってしまった結果、ルーラは移動の苦しみを軽減する補助呪文ではない「ただの移動呪文」となってしまい、消費MPもそれに応じて皆無に等しい数値となってしまったのでは、と思うのです。




……だからって、1にしなくてもいいのに。便利なんだから。ルーラ。






今回の話を要約すると「過去に成立していたRPG上のイベントがRPG自体の変容により遺物と化し、それが一部の設定において顕著に表された」という事なんですが、もし今後似たような理由でホイミのMPが1になったら、私は存在が無価値と判定されたホイミを仏壇の前で供養します。RPGがまた一つ過去となるものを生み出した、と。
 現実となると仮定するならば「パーティプレイの複雑化などに伴う戦闘時の攻撃ダメージの増大を考慮した結果、効果の小さい回復呪文に消費MPを設定する意味が少なくなりました。今後、フィールド上での主人公パーティのHPは全回復状態であることを前提とした上でゲームバランスを組み立てます」みたいな理由からでしょうか。でも個人的には『ドラクエ6』で消費MPが2まで減少したときも少し悲しかったんですけど。


とりあえず今は、現実以前であるホイミとの死別を想う前に、既に無き物となった消費MP8のルーラを大事にしながら接しようと思います。
 ありがとうございました、そしておつかれさま、と。






本日の教訓:
 『キメラのつばさ』を随時ストックする勇者は人生送りバントの負け犬。



2005.08.09


カンダタ撃破。
 2ターン目に親分&子分の集中砲火を浴び、魔法使いのはろっとが死亡。背中と額から嫌な冷や汗が吹き出るも次ターンにカンダタ子分のうち一匹が倒れたため、形勢はこちらへ傾きました。結果、そのまま通常打撃中心で押し切り、攻略に成功。
 が、先に記した通りはろっとが倒れてしまったため、前回挙げた目論見であったところの「ルーラでロマリアへ直帰」は水泡。王冠奪取後はシャンパーニの塔から飛び降り、カザーブまで徒歩で移動しました。




という訳で今回のテーマは「何故カンダタとオルテガはパンツ一枚+マント+覆面なのか」です。






カンダタと、オルテガ。善と悪、正反対の性質を持つ二人がどういった理由であのような格好に身を包んでいるのでしょうか。

まず確実に、機能重視ではないと断言してみます。
 彼らの服装を「そうび」コマンド風に表記してみると、ぶき:てつのオノ、よろい:たびびとのふく(マントのみ)、たて:なし、かぶと:かわのぼうし(目深に被ったと思い込む)。「動きやすい」以外全ての欠点を背負い込んだような風体に生活面の魅力など、一欠片も感じません。


では、何か。
 機能重視でないとしたら、その服装自体に主張があると考えてみましょう。葬儀に参列する方々が喪服で身を包むように、ローソンの店員が青のストライプを身に纏うように、彼らにもあのような風邪と擦り傷ばかりに悩まされそうな格好に何らかの信条を持ち合わせているはずなのです。

まずはパンツと覆面とマントを好む者たちを列挙し、その共通項を探してみましょう。皆さんもご存知のとおり、この世界であの特異な服装を嗜む人間はカンダタとオルテガだけではありません。
 それでは、ドラクエ3の世界に棲息する変態武装嗜好野郎共を一挙にご紹介。




・さつじんき(バハラタ東の洞窟在住)
 ・エリミネーター(アープの塔在住)
 ・デスストーカー(北方大陸地方在住)




で、彼らとオルテガ・カンダタの共通点を考えると以下のようになります。




・豪傑
 ・斧で攻撃
 ・呪文攻撃有効
 ・痛恨の一撃
 ・意外とふくよかな脂肪

などなど。











……すいません。収拾がつかなくなりそうなので、オルテガ・カンダタ以外のキャラクターに触れるのは止めます。上の箇条書きは忘れてください。











さて、オルテガとカンダタです。
 上半身が裸で極めて露出度が高い辺りは「蛮勇」という言葉で括れそうですが、問題は覆面とマントです。

ここで皆さんの意識をドラクエの世界から日本の芸能界に向けて頂きたいのですが、覆面はもとよりマントが似合う人間というのはそうそう居ない点に思い当たります。現在、国内でのベストマンティスト(もちろん造語)は『料理の鉄人』『タイムショック21』での功績を挙げるまでもなく鹿賀文史である事からも分かるように、マントを背負うという行為は強烈なイメージ・主張を伴うものなのです。マントを着るか、はたまたマントに着られるか。ヒロイックであるが故に、マントの英雄性が着衣する者の個性を奪ってしまう事さえもあります。

更に、覆面です。
 「顔面を何かで覆っている」と拡大解釈した上で芸能界の例を挙げれば、パペットマペット・鉄拳・レイザーラモン住谷(但し普段はサングラス非着用)・八代亜紀等々。一筋縄ではいかない人種が群れを形成している一大ジャンルなだけに、そのアイテムに含まれた言霊も相当なものです。キャラクター全てがその秘匿性に集約され、そこから一歩も抜け出せぬまま人物全てが潰される場合もままある畏怖のパーツとなります。




この辺りで、オルテガとカンダタの共通点が少しだけ見えてきましたね。つまり「尊敬の対象」。英雄性と秘匿性に身を覆った二人は、その図式こそ違えど何者かから崇められる者としてあのような服装を選んでいたのです。
 なんでも、今でこそアリアハンの牢屋に閉じ込められているバコタは過去にカンダタの子分として仕え、盗賊の鍵を直々に譲り受けた経験があるそうで(出典:『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ… 知られざる伝説』)。そう、あんな風来坊めいた盗賊でも、複数名の子分を従える立派な親分なんです。






ここまで綺麗に纏まらない考察も珍しいですが、とりあえずこの辺で勘弁してください。



2005.08.20


そういえば、ドラクエの世界って宗教と政治が分離してますね。




ゲームの世界に限った話ではなく、宗教が人を惹きつける力であるが故に権力の道具として使われる光景は日常生活でも時折目にします。タイミングが良いのか悪いのか、あと一ヶ月程度で総選挙の投票日ですし。

ファンタジー小説でよく見かける状況ですと、大聖堂で教皇が神のお告げを受ける傍らで側近と共に謀略を練り、その脇で実行部隊として不本意ながら従う伝説の勇者。彼が修得した如何なる魔法と剣技さえも権力には敵わず、その絶対的な力の下で真実は隠蔽され事実となり、その様子を見てほくそ笑む謎の老人、みたいな。
 別に勇者の見る屈折した社会の図式はどうだっていいんですが、神への信仰心が力の根幹となる魔法文明が主体の世界ならば、権力者と教徒のヒエラルキーが統一管理化されているほうが自然だと思います。ですが、ドラクエ世界ではそのような様子がありません。城と教会は離れた場所に位置し、神殿はダーマ以外に無く、聖堂(ほこら)は寂れた状態のまま放置されているものがほとんどです。聖職者が政治的な力を所持している素振りも見受けられません。

勇者が教会で行える行為といえば、呪いの除去と毒の治療と死者の蘇生。生死を司るという強力な力を所持しながら、なぜ神(やはり精霊神ルビスを崇めているのでしょうか)を信奉する彼らは政治的な権力を持つには至っていないのでしょうか。




と、ここまで考えてみたところで、各地の城主は「死者の蘇生」以上の能力を持っていると気付きます。






「そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」






勇者率いるパーティ全員の、生命の管理。


つまり、全ての国の王様は教会に属する神父の真似事以上の力を所持しているのです。これは城主という職業に就く人間は神への信仰心が高くあるように維持しているからなのか、又はその逆で信仰心の高い司祭が城主へと昇格するのか。
 もしかすると、ドラクエ世界に登場する城は教会の上層組織なのかもしれません。






ロマリアの城主から直々に継承してもらった王位を振りかざしながら城下町をふらついていたら、そんなドラクエ社会の裏側に行き着きました。




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別に読まなくても大丈夫な参考資料:政教分離原則

政教分離原則(Wikipedia)
 憲法第8回 信教の自由(2)〜政治と宗教の難しい関係



2005.09.01


ゲームを遊ぶ行為は、そのまま制作側の意図を読み取る行為とも言えます。RPGならストーリーから世界背景を読み取り、戦闘と各種買い物からゲームバランスを読み取るうち、「プレイヤーに見せる用」の余所行き衣装の裏を覗き込んで開発サイドの思惑に触れられる事も珍しくありません。
 プレイ中、意識的にゲームの各要素を認識・分解しつつその最小単位を自分なりに解釈し、ゲームの構成を批評していくのも確かに楽しいのですが、そんな努力とは全く無縁の観点からただひたすらゲームへの愛情に満ち溢れた周回プレイを重ねるうち、無意識の中でゲームの裏側が偶然、見えてしまったりします。ああ堅苦しい前置き。




例えば制作者が懇切丁寧に作り上げたダンジョンを、プレイヤーがその尽力に感謝しながらいくつもクリアするとしますよね。『ドラクエ』の場合ならば、シリーズ全てのダンジョンを。そうすると、「このダンジョンなら、この分岐路はこっちに行けば階段があるな」「こっちに行けば宝箱があるな」と、直感的にダンジョンの構造を見切ってしまう事ってありませんか?
 私は過去に数度あるんですが、それを経験したのはそんなに難度の高いダンジョンではないです。例えば『ドラクエ3』ならばナジミの塔で。「ああ、きっと堀井雄二ならこの分岐で細い路地の先に宝箱を置いて、太い路地を本線にしてるな」みたいな感じ。




これは別に私の洞察眼が鋭いわけではなく、制作者がプレイヤーの心情をとにかく慮り、むしろそう理解させるようにマップを生成しているからではないでしょうか。



類例を挙げると初代『ドラクエ』のフィールドマップでは、毒の沼地のような特殊地形を除くほとんどの通常地形がラダトーム城を中心とした一画面分、もしくはその周辺数マスに登場します。これは恐らく、マップ制作者が通常地形の性質(森は通れるけど高山と海は通れない)を実地で理解させるために全てのパーツを寄せ集めているのだと思います。平地沿いに先へ進む事こそ前進である、というような応用知識を含めて。
 フィールドマップとは違いますが、同じく初代『ドラクエ』のスタート時でも同じような事が言えます。勇者が謁見の間に閉じ込められていて、同じ部屋の宝箱から得る魔法の鍵を使用することで外へ出られ、次に階段で下の階層へ、という仕様。これは「とる」「とびら」「かいだん」コマンドの存在とその性質を、プレイヤーへ理解させるためにそうされているらしいです。石ノ森章太郎先生の『ドラゴンクエスト物語』にそう描かれてました。

つまりプレイヤーは、ただマップ上を歩いているだけで既に『ドラクエ』を学ばされているのです。先に述べた「ダンジョンの先が読める」現象は直接関係こそ無いものの、プレイヤーがそういったマップの在り方を理解させるための措置を力いっぱい深読みした結果だと思います。「フィールドマップを歩くだけで学ばせるようなゲームならば、細い裏路地よりも通行したくなる大通り沿いに重要な場所へ続く階段が配置されているはずだ」みたいな感じで。




さて、本題です。


ロマリア到着後にアリアハン地方で学んだ知識を応用すると、カザーブではなくアッサラーム方面へ向かってしまうんです。(ほぼ)平地沿いに歩いてしまう上に、高山に挟まれて先細りになっていく地形の先へと足を進めるのが怖いので。
 更に言えば、カザーブ到着→シャンパーニの塔攻略後も山地・森が存在する北方向への進行を敬遠してしまうので、やはり一度ロマリアへ戻りアッサラーム方向へ歩いてしまいます。そしてあばれザルに殴殺されてしまいます。

いや、今回のプレイでそう間違えた訳じゃないんですけど、これって『ドラクエ』マップ史上の数少ない失敗例ではないでしょうか……と思ったのですが、よくよく考えてみれば一番悪いのは「橋を渡ると強い敵が出る」という鉄則を守らない自分のような気がします。



2005.11.12


最後の一匹、幻惑の鱗粉を撒き散らす人喰い蛾を鉄の爪が豪快に叩き落とした。しかしそれでも地面をびちびちと醜く這い回るそれが息絶えるまで全員が一様に警戒し、それから目線を外そうとしない。
 やがて抵抗の術を無くしたと漸く気付いたように動きを止めた人喰い蛾。呼応して、皆が示し合わせたかのように手中に携えた武器を下げる。
 以前と同じく戻る静寂が敵の殲滅を端的に表していた。

仲間のうち男同士が互いに、戦闘の功績を讃えつつ顔を見合わせる。


「今回はさすがに、ちょっとキツかったかな」
 「そうですね。これまでよりも群れの規模が多いように感じられました」
 「まあ全員無事で何よりだ。お前も、身体は大丈夫か?」
 「はい。そう言うかなん様こそ、お怪我が深そうに見えますが」
 「……ああ、治せない程度じゃない」


魔物の一団に止めを刺した武闘家・せれすとを気遣う勇者・かなんは逆に、右腕に負った傷を心配されてしまう。それは先ほどバンパイアから受けた攻撃が作ったものだった。先に思慮深く接したかなんはそれを鸚鵡返しにされて恥ずかしそうに、自分の道具袋へ手を入れる。取り出されたのは、買い置きの薬草。
 そうして自ら治癒処理を施そうとする手を、隣から何者かが遮った。


「そのくらいなら、私に任せてください。余力は残っています」


僧侶・そふいあは感情の上に理性を重ねるような口調でかなんの行動を止め、鉄の槍を小脇に抱えて傷口が見える腕の上に自分の両手を重ね置いた。そのまま手の甲を見つめ、古代語らしき言語で綴られた呪文の詠唱を始める。
 そこからさして間を置かず、声がそのまま熱量へ変換されるように光と温もりが生まれる。かああっと神々しい閃光が掌の奥から漏れ出た。


「――ホイミ」


そふいあが声を止めると、程なくその効果が現れる。醜く抉れた皮膚があるべき姿へ帰るようにして、傷口は瞬く間に消えた。
 治癒の成功を確認して彼女が手を離すと、かなんは温もりを名残惜しむかの如く患部を指でなぞった。負傷は跡ごと消え失せ、痛みも感じられない。


「助かった。ありがとう」


礼に、そふいあは軽い頷きだけで返す。きつく結ばれた唇から、次に来る魔物の襲撃に常時備える彼女の警戒心が読み取れた。











世界の北方に位置する閑静な町、ノアニールの異変に勇者らが気付いたのは数日前。何らかの力が働いた結果から住民のほとんどが眠らされたとすぐに分かる異様な景観。村人達はみな、立ったまま目を閉じ動く気配が無い。原因不明の事態に、村を訪れた当初は一同が言葉を失った。
 それでも原因を追究すべく周囲を散策した末に、その力から逃れた老人から唯一の手掛かりを得ることができた。




「どうか エルフたちに ゆめみるルビーを かえしてやってくだされ!
 でなければ むらにかけられた のろいが とけませぬのじゃ。
 エルフの かくれのさとは にしの もりのなかじゃ。」




老人の言葉通り、エルフの隠れ里はノアニールの西方に存在した。集落として軒を連ねるでもなく、森の切れ間に身を寄せ合う同種族の者達。目の当たりにできるのは数人のエルフとそれを束ねる王女らしき者。仲間内での利用を主とするのであろう、道具屋の姿も見える。かなんがエルフの姿を間近に見るのは初めてだったが、ここで生活する彼らは人間の中で伝わる見聞そのままに誰もが人間を疎み嫌っていた。
 会話すら頑なに拒むエルフ達の中で唯一、突き放すような語気を保ちながらも勇者らと言葉を交わす余地を持つ者がいた。かなんは彼女との話から事の経緯を知る。




「そのむかし むすめのアンは ひとりの にんげんのおとこを あいしてしまったのです。
 そして ゆめみるルビーをもって おとこのところに いったまま かえりません。
 しょせん エルフと にんげん。 アンは だまされたのに きまっています。
 にんげんなど みたくもありません。 たちさりなさい。」




エルフの女性は駆け落ちした男女を許さぬと激高していた。
 エルフと恋に落ちたとされる男の父も、その後の行方が知れないと頭を悩ませている。




「むらが ねむらされたのは わしの むすこの せいじゃ。
 あいつが エルフのおひめさまと かけおちなんかしたから……。
 むすこにかわって あやまりに きておるのに ちっとも ゆるしてもらえぬ。」




確かに、その男女はロマリア地方の如何なる場所にも姿を見せなかった。ノアニールにはもちろん、カザーブで隠居しているのでもなければロマリア城下町の喧騒に紛れて身を潜めるでもない。少なくとも勇者一行が探索を続けた結果、同志らの間ではそう結論づけられた。
 旅の扉を用いてアリアハン諸島へ渡ったのでなければ、可能性のうち多くは隠れ里のすぐ近くにある洞窟へと向けられる。

斯くしてかなん達は、魔物が巣食う洞窟の奥深くへ足を進めていた。











「死んでる」


途端に魔法使い・はろっとは普段と同じように表情を作らず、内壁の脇に身を横たえるバリイトドッグを指す。常に腐乱している肉体から一見しての生死の判別は容易ではないが、ぐしゃぐしゃに潰された脳天が辛うじてそれと示していた。
 かなんとせれすとはその不穏な言葉を発するはろっとを横目に見ながら、一息吐いて洞窟の手前、ここまで歩んだ通路を見返した。


「ずいぶん奥まで来たな」
 「ええ。もうしばらく行くと、そろそろ最深部だと思うのですが」


彼らの目線を追うために、そふいあとはろっとも同じ方向へ顔をやる。


「死んでる」


今度はそちらに向けて指差すはろっと。確かに、これまでの進路を示すように魔物の死骸があちこちに散乱していた。
 隣のそふいあはそんな倫理観に欠けた所作を優しくたしなめる。


「はろっと。あまり、そういう事を言うものじゃありませんよ」
 「死んでる」


しかし、そふいあの制止も聞かずにはろっとは人差し指を向け続ける。まるで何かの間違いを一心不乱に探すように。普段は岩の如く固く口を閉ざし、自ら声を発する際には心の内を隠さず思ったままに伝えるはろっとなりの感情表現なのだが、それが何を示しているのか周りの者達はうまく理解できなかった。それはさして珍しい光景ではない。普段から、ああ不思議だ、そうとだけ各々が思って目を外す。
 今回はせれすとだけが先に、そんな奇妙な様子から背を向けた。


「行きましょう」


はろっとを呆然と見つめていたかなんは、その一言で我に返った。


「……ああ、そうだな。そろそろ目的地も近いんだ。急ごう」


洞窟の奥へ体を向け、足を踏み出す。はろっとを含む他の仲間もそれに倣った。

北方の地、ロマリア大陸でも特に緯度の高いこの洞窟は、寒さを凌ぐためか外に生息する魔物よりも戦闘能力の高い魔獣が多く棲みついている。それらを斬り捨てて奥へと進み入るのはオルテガの血を引く勇者らと言えども容易ではなかった。それにより疲弊した体のうちいくらかは何者かの手により敷かれた聖なる魔法陣の囲む泉に癒されもしたが、バラモスの邪気を帯びた魔物の猛威から、塞がった傷は瞬く間に開かれた。
 建造物に例えるなら地下三階分はあろうかと思われる階層の広大さを体感していたかなんは洞窟の奥へと歩みを進めるうち、果たして戦いの修練も積まぬ若い男女がこのような場所に逃げ込むだろうかと軽い懐疑の念さえも抱くようになっていた。お互いの仲を認めてもらえるまで雲隠れをするため辺鄙な場所へ身を潜めたのに違いない、と推測したのは他ならぬ勇者かなん本人であるのに。

実のところ、そふいあとはろっとも現在は同じような感情を持ち合わせ、更にはかなんへ向けられた猜疑心に似た思いさえ抱き始めていた。特に平素から思考を隠したがるはろっとでさえも、この時ばかりはかなんへの怨念を表情で露骨に示していた。受け手も、その悪しき念動にはとうの昔に気付いている。気付いているからこそ、反論する余地も無い今の状況が心苦しかった。

ただ、せれすとだけが勇者を信じていた。この方に間違いは無い、洞窟の中に必ず男女はいる、と。それが勇者を守る使命の影響下から生まれた心情なのか、他に特別な感情が交じっているのかは本人にも分からなかった。

つまり皆、疲れていたのだ。




だからこそ階段を下りた先、唐突に洞窟の最深部が開けていたときには全員が拍子抜けし、また安堵したものだった。

近海から染み入ったのであろう海水が階層の半分を覆っていた。水没を免れた残りの半分、陸地の一部には石碑らしくも見える何かが円を描くように並べられている。古のエルフが儀式に用いたのだろうか。

石碑が模る円の中心に、かなんが何かを発見した。他者の指示を仰ぐ様子も無く、顔を向けた方向へ目指して足を踏み出す。
 目線の先には、一つの宝箱があった。

そこでかなんの行動に際し直感的に危なっかしさを感じたせれすとは、前方の勇者に向けて声を掛けた。


「大丈夫ですか、かなん様。こんなに目立つ場所に配されているなんて、きっと何か裏があります。万が一、人食い箱だった場合は――」
 「心配するな」


かなんの目的を素早く察知し、慌てて駆け寄るせれすとにかなんが言葉を返す。


「その場合は、ボク一人だけが犠牲になればいいだけだ」


言葉の意味を気に留めたふうでもなくさらりと発するかなん。その様子から思わず発言ごと聞き逃してしまいそうになったせれすとが、今度はかなんの無鉄砲さに気付き再度、慌てる。


「いけません! こんな洞窟の奥深くであなたに死傷を負われるのは、かなん様が考えている以上に大変な事なんです!」
 「お、どうやら鍵は掛けられていないようだな。よしよし」
 「お願いですから聞いてください、かなん様! とりあえず、その宝箱から手を離して!」
 「なんだ。邪魔をするな、せれすと。もしかすると、この中に逃げ出した恋人達の手掛かりが入っているかもしれないのに」
 「ですから、それを確認する以前にあなたに死なれては元も子もありません!」
 「うおっ、何をする! 羽交い絞めは止せ、せれすと!」
 「いいえ止めません! もしかなん様がその宝箱を開けると言うのであれば、代わりに私が開けます!」
 「分かった分かった! もう分かったから、とりあえずその肩に回した腕を放せ!」


かなんとせれすとが奇妙な小競り合いを続け、そふいあはそれを物憂げな視線で眺める。まったく仲の良い男達ね、とでも言いたげに。半ば呆れているようにも見えた。
 そんな三人をよそに、ゆっくりと足音も立てず問題の宝箱へ近づくはろっとの動作に誰も気付けずにいた。はろっとは今までの話を全く聞いていないようにして宝箱の前へ屈み込む。他の仲間が気付いた頃には既に蓋へ手を掛け中身を覗くべく押し上げていた。


『あっ』


そのすぐ脇にいたかなんとせれすと、そして若干遠くにそふいあ。各々が同じ声を上げた。
 目下の所、人食い箱の可能性有りと判断された宝箱を開けた非力な魔法使い。しかし特に異常が起きた気配は無い。発端が突飛だったため、それだけの事を理解するのにさえ皆が多少の時間を必要とした。

しばらくして、かなんがせれすとの腕をすり抜け、開け放した箱の中をはろっとの後ろから覗き込む。遠目ではあったが、そこからでも中身はしっかりと確認できた。


「……これは、何かの飾り物、と……、手紙か?」


はろっとはその声に応えてか、宝箱の中へ手を入れて納められていた物を無造作に掴み取り、そのままかなんへ向けて差し出した。かなんはいかにも勇者らしく無意識の傲慢さで黙ってそれを受け取り、遠くから飾り物と判断した何かしげしげと見つめる。


「これがエルフの言っていた、『ゆめみるルビー』という物か」


せれすとは近くまで寄り、その物を眺めてかなんの発言に同意するように静かに頷いた。その目は、ようやく目的の物を入手した安堵の感情を帯びていた。
 かなんはその手でもう一つの物体、四つ折に畳まれた紙切れを開く。
 中には、記名入りで何者かに宛てた文が認められていた。




「おかあさま さきだつふこうを おゆるしください。
 わたしたちは エルフと にんげん このよで ゆるされぬあいなら
 せめて てんごくで いっしょに なります……。 アン」




現世に別れを告げる、女性の言葉だった。

先に目を通したかなんに続き、横から顔を覗き入れたせれすと、少し離れてそふいあも遺書に目を通す。文面を一見して、例の恋人同士のうちエルフが書いたものと解釈できた。
 その文章が指し示す結果を全員が脳裏に描き、そして肩を落とした。

報われぬ恋を愁いだ男女は自らの死によりそれを解消した。しかし残された者達にとって、それは最悪の結末に余計な障害を上乗せした事象でしかなかった。
 例えば我々がこの案件にあと三日早く出会っていたとしても、正義を観念的に背負う勇者として彼らを助ける事は不可能だったろうか。かなんは、そのまま発展すれば自身の存在を自己否定しかねない思考に囚われ離れなくなっていた。


「この、可能性を考えていなかった訳ではありません。ですが……」


そふいあは抑揚無く言いながら、眼鏡の奥でうっすらと涙を浮かべる。その心中を二人も察した。

そこへ、宝箱の前に座り込んでいたはろっとが手紙に興味を示し、かなんの前に立つ。成人男子の胸あたりまでしか背丈がない彼女にとって、かなんが持った手紙の中へ目をやるのは大変そうだった。我慢できず、つい手紙をかなんの手首ごと自分のほうへ引っ張り寄せる。
 かなんはようやくはろっとの動作に気付き、素直に手紙を目元まで下ろした。彼女はそれに感謝する様子も見せず、じっと手紙を読み耽る。

何度も目で追い、しっかりと内容を確認したのであろうはろっとが一言、呟いた。


「この女の人、死んじゃったのね」


洞窟内で続いた魔物たちの死亡確認と同様の、不謹慎な発言。言葉を聞いた者達は皆、ぎくっと驚かされた。
 既に表情を崩しているそふいあに代わり、今度はせれすとがそれを制する。


「はろっと。確かにそうだけど、あまり声を出して言うものじゃ――」
 「違うの」
 「違うって、いったい何が」
 「死体が無い」


はろっとが他の仲間へ伝えようとする発言の真意に気付けたのは、かなんだけだった。

我々が倒した魔物は目の前で息絶えたが、恐らく海水の中へ身を投げたのであろう二人の恋人は水死体すら見つからない。その違和感こそ、はろっとの純粋な疑問へ繋がっていた。

しかし、その違和感の出自が具体的にどのようなものなのか、かなんには上手く納得できなかった。ただ、それを理解できずに頭の中で沈殿していく気味悪さだけが残った。


解釈を保留された断片だけが、もやもやと脳裏を掠めていく。

遺体すら残せやしない人の死。
 亡骸ばかりが自己主張を重ねる魔獣の死。
 そこにどんな意味がある? どんな価値を持たせればいい?
 そんなもの、見る者の自由だ。ボクが気にかける事なんかじゃない。それはもう、決して。
 しかし、何なのだこの違和感は。本当に、これは一体、何なのだろうな。


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