労務緊急対策要綱
昭和16年8月29日 閣議決定
第一 趣旨
現下ノ緊迫セル時局ニ対処スル労務動員ハ其ノ規模並ニ程度ニ於テ画期的ノモノナルヲ以テ真ニ全国民ノ一致団結セル動員態勢ヲ整備シ以テ人的資源ノ最高度ノ活用ヲ図ラザルベカラズ仍テ左ノ要領ニ依リ労務緊急対策ヲ樹立実施セントス
第二 要領
一、勤労報国精神ヲ確立昂揚ス
(1) 勤労ハ国民ノ義務ニシテ国家ノ要求ニ従ヒ行ハルベキモノタルノ精神ヲ徹底セシムルコト
(2) 勤労ノ栄誉ヲ顕彰スル国家的表彰制度ヲ確立スルコト
二、労務配置ノ調整ヲ強化スル為従業者移動防止令及青少年雇入制限令ヲ廃止シ新ニ勅令ヲ制定ス
(1) 重要工場事業場ニ於ケル労務者ノ解雇及退職ヲ極力抑制スルコト
(2) 重要産業要員ノ充足ヲ円滑ナラシムル為一般産業ニ於ケル従業者ノ新規雇入及使用ノ制限ヲ強化スルコト
三、労務給源確保ノ為速ニ職業転換ヲ促進ス
(1) 整理ヲ必要トスル産業ノ業種並ニ整理割合ヲ概定シ労務ノ再配置計画ヲ樹立実施スルコト
(2) 企業免許制ヲ確立実施スルコト
(3) 国家ノ要請ニ依ル職業転換者ニ付テハ其ノ転換ヲ容易ナラシムル為適当ナル措置ヲ講ズルコト
四、重要産業要員ノ充足ニ備フル為国民登録制度ヲ拡充ス
(1) 男子ノミナラズ女子ヲモ加ヘ其ノ範囲ヲ拡大ス(男子満十六年以上四十年未満、女子満十六年以上二十五年未満)
(2) 一定年齢ヲ超ユル者ニハ志願登録ヲ認ムルコト
五、重要産業要員充足ノ為国民徴用制度ヲ改正ス
(1) 徴用ヲ実施スベキ総動員業務ノ範囲ヲ拡大スルコト
(2) 被徴用者並ニ家族ニ対スル扶助援護ニ付措置スルコト
六、勤労能率ヲ増進シ生産ノ向上ヲ図ル為職場秩序ノ確立ヲ目標トシテ勤労組織ヲ整備スルトトモニ重要工場事業場ニ於ケル労務管理ヲ刷新強化スル為特別ノ措置ヲ講ズ
七、勤労奉仕ヲ制度化シ学生生徒及一般青壮年ヲ動員シテ国家総動員業務ニ協力セシム
八、総動員業務従業者ノ住宅充足ヲ図ル為必要ナル措置ヲ講ズ
九、技術者並ニ労務者充足ノ為学校修業期間ヲ短縮ス
第三 実施措置
一、中央地方ニ於ケル労務行政機構ヲ整備ス
二、国民職業指導機構ヲ拡充整備ス
三、関係各庁ノ連絡ヲ緊密ニスルタメノ措置ヲ講ズ
四、大政翼賛会、大日本産業報国会等ノ協力活動ヲ促進ス
五、必要ナル予算的措置ヲ講ズ