住宅対策要綱
昭和15年11月19日 閣議決定
最近頓ニ深刻ノ度ヲ加ヘ来リタル住宅難ハ労務者其ノ他庶民ノ生活ヲ脅威シ各種産業要員ノ充足ヲ困難ナラシメ延テハ高度国防国家建設ノ遂行ヲ阻碍セントス而モ建築用資材及労力ノ払底並ニ建築費ノ昂騰ニ依リ住宅ノ供給ハ著シク減少シ急激ニ増加スル住宅ノ需要ヲ到底充足スル能ハザル実情ニ在リ仍テ茲ニ政府ハ左記ニ依リ住宅対策ヲ樹立シ急速ニ実施セントス
第一 方針
住宅対策ハ産業立地、人口分布並ニ土地配分ノ総合的調整ヲ根幹トシテ計画的ニ住宅ヲ建設シ、住宅ノ賃貸条件ノ統制其ノ他利用ノ適正ヲ図リ以テ庶民生活ノ安定ヲ期スルト共ニ軍需、生拡等重要産業要員ノ充足ヲ確保スルヲ目途トス
第二 要領
一、 民間貸家事業ノ改良発達ヲ図リ貸家ノ供給増加ヲ期スル為貸家組合ヲ設立シ資材取得ノ斡旋、資金ノ貸付、家賃ノ統制等ヲ行ハシムルコト
二、 労務者其ノ他庶民ノ所要住宅ヲ計画的ニ供給シ時局ノ要請ニ適応スル為住宅営団ヲ設立シ庶民住宅ノ建築並ニ経営、民間ニ於ケル庶民住宅ノ建築並ニ経営ノ受託、資材取得ノ斡旋、資金ノ融通其ノ他住宅ニ関スル指導斡旋等ヲ行ハシムルコト
三、 政府ハ必要ニ応ジ一定数以上ノ労務者等ヲ使用スル事業主ニ対シ作業員ニ必要ナル住宅ノ建築ヲ命令スルコト
四、 作業庁其ノ他多数労務者ヲ使用スル政府施設ノ従業員ニ必要ナル住宅ハ政府ニ於テ之ヲ建設スルコト
五、 政府ハ必要ニ応ジ地方公共団体、住宅営団等ニ対シ住宅ノ建築ヲ命令スルコト此ノ場合生ズベキ損失ハ適当ナル方法ニ依リ之ヲ補償スルコト
六、 住宅建設ニ必要ナル敷地ノ取得並ニ交通ノ整備ニ付特別ノ保護援助ヲ与フルコト
七、 建築用配給機構ヲ整備刷新スルト共ニ資材ノ取得ニ付特別ノ保護援助ヲ与フルコト
八、 住宅建設ニ必要ナル資金ノ融通ニ付特別ノ保護援助ヲ与フルコト
九、 既存ノ住宅ニ付テハ住宅ノ取毀、改造又ハ住居外共用ヲ制限禁止スル等其ノ利用ヲ有効ナラシムル為適当ナル方途ヲ講ズルコト
一〇、 建築用資材ノ価格ノ統制、火災保険料ノ軽減等ニ依リ家賃ノ低減ヲ図リ庶民生活ノ安定ヲ期スルト共ニ家賃其ノ他賃貸条件ヲ統制シ住宅ノ利用ヲ適正化スルコト
一一、 保健、衛生並ニ防空、防火ノ観点ヨリ住宅ノ様式並ニ質ノ改善ヲ図ル為適当ナル方途ヲ講ズルコト
一二、 住宅建築技能者ノ養成充足ニ付特別ノ措置ヲ講ズルコト
一三、 住宅対策達成ノ基礎ヲ確立スル為住宅並ニ其ノ賃貸事情ノ調