南方経済施策要綱
昭和15年8月16日 閣議決定
第一、基本方針
一、南方経済施策ノ目標ハ支那事変処理上並ニ現下世界ニ生成発展ヲ見ツツアルブロツク態勢ニ対応スル国防国家建設ノタメ皇国ヲ中心トスル経済的大東亜件ノ完成ニアリ。
二、南方各地帯、地域ノ経済施策ノ軽重緩急ハ左記ニヨル。
イ、仏領印度支那、泰国、緬甸、仏領印度、比律賓、英領馬来、英領ボルネオ、葡領チモール等ノ内圏地帯ノ施策ニ重心ヲ置キ、英領印度、豪州、新西蘭等ノ外圏地帯ハ第二段トス。
ロ、各地域ノ施策ハ皇国ノ軍事的資源的要求ヲ基礎トシ内外ノ情勢ヲ顧慮シテ緩急ソノ序ニヨリ適宜之ヲ行フ。
三、南方経済施策ニ当リテハ之等地域ニ皇国政治勢力ノ扶植ニ努ム。
四、南方経済施策ノタメ華僑ノ動向極メテ重大ナルニ鑑ミ大局的見地ニ立チ之ヲ指導ス。
第二、要領
一、南方諸地域ニ於ケル邦人ノ経済的活動ヲ阻害スル諸種ノ制限ヲ撤廃シ更ニ積極的発展ヲ図ルタメ左記各項ノ実現ニ努ム。
イ、重要物資ヲ確保スルタメノ輸出補償獲得
ロ、通商障害ノ除去
為シ得レバ紡績ニ対スル日本ノ指導的地位ノ獲得ニ努ム
ハ、求償貿易制度又ハクレヂツトノ設定並ニ為替協定ノ締結
ニ、企業制限ノ撤廃並ニ鉱業権其ノ他企業権益ノ獲得
ホ、入国居住及営業制限ノ撤廃
ヘ、交通通信特殊権益ノ獲得
ト、資源調査ノ自由獲得
チ、経済顧問ノ採用
二、南方諸地域ニ対スル諸事業ハ東亜全体ニ亘ル総合的見地ニ立チテ統制的ニ実施ス。
イ、重要物資(石油、ニツケル、錫、ボーキサイト、ゴム、キナ、石炭、鉄等)ノ獲得ニ就テハ企業経営ニ重点ヲ置キソノ経営ニ当リテハ出来得ル限リ現地資本資材ノ利用ニ努ム。
ロ、航空、海運、通信等ノ諸事業ニ就テハ南方ニ於ケル交通通信ノ実権ヲ掌握シ東亜全局ノ指導的地位ヲ確保スル如ク指導助成ス。
ハ、水産業ニ就テハ南方各地域ニ確固タル地歩ヲ建設スル如ク指導助成ス。
三、軍事外交ノ強行措置ヲ採ル場合ニハ一層広汎且重大ナル経済権益ノ獲得ヲ図ル。
四、南方関係諸会社ノ整理統合拡充ヲ実施シ南方ノ新情勢ニ応ジテ経済活動ノ円滑強化ヲ図ル。