昭和15年度交通動員実施計画綱領ニ関スル件
昭和15年7月18日 閣議決定
第一章 総則
第一 本綱領ハ昭和十五年度以降国家総動員計画設定方針(昭和十四年六月十六日閣議決定)ニ基キ昭和十五年度ニ於ケル交通動員実施ノ基準トナルベキ事項ヲ定ムルモノトス
第二 本綱領ノ目的ハ他ノ総動員実施計画ト相俟ツテ軍需ノ充足、生産力ノ拡充、貿易ノ振興、国民生活必需ノ確保ニ努ムルト共ニ日満支間ニ於ケル運輸通信ノ緊密ナル連絡調整ヲ図ルニ在ルモノトス
第三 昭和十五年度ニ於ケル鉄道輸送量及船腹ノ需給計画ハ別紙ノ如シ
第四 交通動員実施ニ関連シ考慮スベキ一般的事項左ノ如シ
一 内外地並ニ日満支ノ交通ヲ有機的ニ綜合調整スル為必要ナル機関ヲ整備スルコト
二 輸送ノ適正円滑ヲ図ル為計画的出貨ヲ行フニ必要ナル統制機関ノ整備ニ努ムルコト
三 自動車行政及港湾行政ノ統合ニ努ムルコト
第五 交通要員ノ充実ヲ期スル為之ガ確保及養成ニ関シ適切ナル措置ヲ講ズルモノトス
第六 満洲及支那ニ関シテハ関係諸機関ニ於テ本綱領ニ準ジ適宜措置スルモノトス
第七 各庁ハ本綱領ニ基キ具体的計画ヲ設定シ企画院トノ緊密ナル連絡ノ下ニ之ヲ実施スルモノトス、尚各庁関連事項ニ付テハ交通動員委員会ニ於テ之ガ調整ヲ図ルモノトス
第二章 鉄道及陸上運送
第八 旅客□□ノ現状ニ鑑ミ旅客輸送ヲ調整スル為左ノ措置ヲ講ズルモノトス
一 遊覧旅行ノ抑制、団体旅行ノ統制及各種大会又ハ総会ノ開催並ニ参加人員ノ制限等ノ措置ヲ講ズルコト
二 大都市並ニ各地工場地帯等ニ於ケル通勤時ノ□□□□ニ関シ休日制度、出勤退出時ノ変更等ノ方策ヲ講ズルコト
三 大陸来往旅客ノ統制ヲ為スコト
第九 物資輸送ノ円滑適正ヲ期スル為、大量貨物ノ計画輸送ノ強化、輸送ノ交錯重複及不自然ナル遠距離行輸送ノ抑制並ニ貨物引取ノ促進等ノ措置ヲ講ズルト共ニ小運送能力ノ拡充特ニ小運送労務者ノ充実ヲ図ルモノトス
第十 貨物自動車業、乗合自動車業並ニタクシー業ニ付企業ノ合同又ハ組合ノ結成等ヲ促進シ自動車運送ノ改善合理化ノ徹底ヲ期スルト共ニ運賃料金ニ付之ガ適正化ヲ図ルモノトス
第十一 「ガソリン」消費規正ノ強化ニ鑑ミ代用燃料対策其ノ他適切ナル方策ヲ講ジ自動車保有量ノ確保ニ努ムルモノトス尚遊覧自動車ノ抑制並ニ自家用乗用自動車及び貸切旅客自動車ノ使用制限ヲ為シ併セテ之ガ適切ナル対策ヲ講ズルモノトス
第十二 自動車以外ノ陸上運送ニ付輸送力ノ充実並ニ運賃ノ適正ヲ図ルヤウ之ガ監督指導ノ万全ヲ期スルモノトス
第三章 船舶及港湾
第十三 船舶ノ計画的運航及運航能率増進ヲ図ル為、強力ナル方策ヲ実施スルモノトス
第十四 重要物資ニ対スル船舶ノ期別配当計画ヲ樹立シ輸送ノ規正ヲ行フコトトシ之ガ実施ノ確保ヲ図ル為海運業者ニ対スル輸送数量ノ強制割当又ハ配船命令ノ活用等ノ措置ヲ講ズルモノトス
第十五 船腹ノ積極的増加ヲ図ル為外国船ノ購入及傭入並ニ国内造船ノ促進ニ必要ナル資材ノ輸入ヲ行フコトトシ、之ガ為替許可等ニ関シテハ関係庁ノ連絡協議ニ依リ迅速機宜ノ処理ヲ為スモノトス
第十六 造船工事ニ関シテハ特ニ貨物船ノ建造ヲ優先スルト共ニ標準船型ニ依ル船舶ノ計画的建造ヲ行フモノトス
第十七 機附帆船、帆船、被曳船ノ運航能率ヲ最高度ニ増進スル為、焚料油其ノ他運航用物資ノ供給確保ニ努ムルモノトス
第十八 海上運賃ノ公定ニ努ムルコトトシ必要ニ応ジ運賃平衡資金ノ設定等ノ方法ヲ講ズルト共ニ第三国輸入貨物ノ運賃ニ対シテモ必要ナルモノニ付其ノ公定ニ努ムルモノトス
第十九 内外地船舶運営ノ一元的統制ヲ行フコトトシ、之ガ為必要ナル機構ヲ整備スルモノトス
第二十 船員ニ関シテハ其ノ確保及養成ニ遺憾ナキヲ期スルノ外、労務統制ノ強化ヲ図ルモノトス
第二十一 主要港湾ニ於ケル荷役業務ニ付強力ナル統制運営機構ヲ確立シ業務運営ノ合理化、荷役料金ノ適正化ヲ図ルト共ニ艀、荷役労務者ノ充実ヲ期スルモノトス
第二十二 港湾諸事業ノ総合的統制運営ノ実現ニ努ムルモノトス
第四章 航空、通信及気象
第二十三 日満支間航空輸送連絡ノ充実ヲ図ル為、日満支航空機ノ効果的運用ヲ図ルモノトス
第二十四 物資需給及通信□□ノ現状ニ鑑ミ通信施設ノ建設及運用ニ当リ適切ナル技術的方策ヲ講ズルモノトス
第二十五 通信網ノ有機的形成並ニ其ノ総合的活用ヲ図ルト共ニ施設ノ経済化ヲ期スル為各種通信施設ノ統合調整ニ努ムルモノトス
第二十六 電話需給ノ調整ヲ図ル為電話ノ統制ヲ強化スルモノトス
第二十七 気象管制ニ関シ日満支ヲ通ジテ之ヲ円滑ニ実施スル為、適切ナル措置ヲ講ズルモノトス
第五章 施設ニ関スル事項
第二十八 交通ニ関スル諸施設ガ交通需要ノ増加ニ伴ハザル現状ニ鑑ミ、之ニ関スル生産力拡充計画ノ遂行ニ万全ヲ期スルト共ニ物資動員計画ノ実施ニ当リテハ運輸通信施設ノ整備並ニ運用ニ必要ナル資材ノ供給確保ニ努ムルモノトス
第二十九 運輸通信施設ノ整備方針左ノ如シ
一 鉄道ノ建設改良ニ関シテハ特ニ主要線ノ増強、荷役施設ノ整備及所要輪転材料ノ充実ニ重点ヲ置キ新線ノ建設ハ軍事上又ハ生産力拡充上真ニ已ムヲ得ザルモノニ止ムルコト
二 道路ノ改良ニ関シテハ軍事上又ハ生産力拡充上真ニ必要ナル幹線道路ノ改良ニ重点ヲ置クト共ニ、陸運能力ヲ昂揚スル為、既改良幹線道路ノ舗装ニ努ムルコト
三 港湾ノ改良ニ関シテハ軍事上、生産力拡充上、貿易振興上又ハ対満支連絡上真ニ必要ナル港湾ノ改良ニ重点ヲ置クト共ニ港湾附帯設備ノ整備ヲ図ルコト
四 通信施設ノ整備ニ関シテハ左ノ事項ニ重点ヲ置クコト
イ、東亜電気通信網ノ整備ヲ図ル為必要ナル内外地間及日満支間ノ主要連絡通信施設ヲ整備スルコト
ロ、主要地間ノ連絡通信施設ヲ整備スルコト
ハ、京浜、阪神、北九州等ニ於ケル大都市内並ニ大都市ト其ノ近郊重要産業地間ノ通信施設ヲ整備スルコト
ニ、重要ナル国際通信施設ノ整備拡充ヲ図ルコト
ホ、加入電話ノ増設ハ時局上真ニ緊要ナルモノニ限ルコト
ヘ、有無線放送施設ノ充実殊ニ海外放送施設ノ拡充ヲ図ルト共ニ標準型受信機ノ一般化ニ努ムルコト
五 気象機関整備拡充計画ニ関シテハ航空気象機関ノ整備計画ト共ニ之ヲ総合的ニ再検討スルモノトス、尚気象要具ノ整備ヲ図ル為之ガ製作機関ノ設置ニ努ムルモノトス
(別紙省略)