中華航空株式会社設立要綱
昭和13年12月16日 閣議決定
第一 方針
支那ニ於ケル航空事業ノ我方実権下ニ於ケル一元的経営ヲ策シ政治、経済及国防上ノ要求充足ヲ図ルト共ニ東亜航空政策ノ実現ニ資スル為日支合弁ノ本格的航空会社ヲ設立スルコトヲ目標トシ差当リ現下ノ急需ニ応ゼシムル為暫定的ニ速ニ中華航空株式会社(仮称)ヲ設立ス
恵通航空股□有限公司ハ之ヲ本会社ニ統合セシム
第二 要領
一、名称
中華航空株式会社
二、事業目的
1.旅客及郵便物又ハ其他ノ貨物ノ航空機ニヨル運送
2.航空機ノ賃貸事業
3.其ノ他航空機ヲ以テスル一切ノ事業
4.航空事業ノ発展ニ資スベキ事業
5.前各号ニ附帯スル事業
6.前各号ニ掲グル事業ニ対スル投資
三、資本
1.資本総額六百万円
2. 資本割当(予定)
中華民国臨時政府 百八十万円
維新政府 二百万円
蒙彊政府 二十万円
恵通航空股□有限公司 百万円(現物出資)
大日本航空株式会社 百万円(現物出資)
註一、恵通ノ出資百万円ハ本会社成立後臨時政府ニ五十万円、大日本航空ニ五十万円名義変更サルルモノトス
註二、現金出資ハ当初二分ノ一払込トシ残額ハ会社設立後六ヶ月後ニ於テ払込ムモノト予定ス
註三、現在満航ヨリ恵通ヘ融通シアル金額ハ一応其ノ侭本会社ニ融通シ貸与シアル器材ハ満航ヨリ本会社ニ売渡スモノトシ本会社ハ註一ノ名義変更ノ際大日本航空ヨリ所要資金ノ貸付ヲ受ケ右融通金及器材代金ヲ満航ニ対シ支払フモノトス
四、法人格及本社所在地
臨時、維新及蒙彊政府ノ特殊法人トシ三政府ニ設立登記ヲナス本社ハ差当リ北京ニ置クモノトス
五、役員
社長一、副社長一、理事若干名、監事若干名
六、特典
1.支那ニ於ケル航空事業(航空機製造事業ヲ含ム)独占権ノ享有
但シ既ニ国民政府ノ許可ヲ受ケタル航空輸送事業ニ付テハ将来ノ整理ニ待ツモノトシ現ニ大日本航空及満航ノ行フ支那国内航空事業ニ付テハ別ニ之ヲ定ム
2.国有飛行場使用ニ関シ独占ノ特権ノ享有
3.必需品ニ対スル輸出入税ノ免除並ニ租税其ノ他一切ノ公課免除
4.土地収用其ノ他官営事業ニ与ヘラル可キ特典ノ賦与
5.事業上必要ナル通信、標識及放送ノ専用運営権ノ賦与
6.三政府其ノ他ヨリ経営上必要トスル補助金ノ交付
7.本会社ハ株式全額払込前ト雖其ノ資本ヲ増加スルコトヲ得
七、特殊義務
本会社ハ公益上必要ナル命令ニ服スルモノトス
八、本会社ノ監督ニ付テハ別ニ之ヲ定ム
備考
一、本会社ハ急速ニ設立セシムル為差当リ株式公募ノ方法ニ依ラズ発起設立ニ依リ成立セシムルモ将来適当ナル時期ニ於テ一般国民ガ本会社ノ株主タリ得ルノ途ヲ拓クモノトス其ノ際出征者及其ノ家族、在支邦人ニ対シ特別ノ考慮ヲ払フモノトス
二、本会社ノ人員採用ニ付テハ出征者及其ノ家族、在支邦人等ニ対シ事情ノ許ス限リ特別ノ考慮ヲ払フモノトス
三、支那ニ於ケル第三国ノ航空権益ニ付テハ本会社ヲシテ第三国ノ既得権益線ヲ運航セシメ既成事実ノ作成ニ努メ以テ第三国トノ商議ニ際シ有利ノ地歩ヲ占ムル如ク準備スルモノトス
閣議了解事項(其ノ一)
東亜ニ於ケル航空事業(航空機製造事業ヲ含ム、以下同ジ)ノ整正確実ナル発展ヲ期スル為支那ニ於ケル航空事業ニ付テハ日本政府ニ於テ実質上一元的統制ヲ保持シ得ル如ク措置スルモノトス
閣議了解事項(其ノ二)
一、関税其ノ他公課ノ免除ニ関シテハ政府補助金ト関連シテ別ニ定ム
二、本会社ニ対スル民間関係機関ヨリノ補助金ハ原則トシテ大日本航空株式会社ヨリ之ヲ支出セシムル様措置スルモノトス
三、本会社ニハ適当数ノ支那人役員ヲ置クモノトス
四、人員資材ノ供(貸)与、飛行場ノ使用其ノ他運営上陸海軍ニ於テ所要ノ援助ヲ与フルモノトス
五、恵通航空股□有限公司ノ人員ハ原則トシテ本会社ニ引継ギ其ノ主体トシテ之ニ吸収スルモノトス
六、第一方針中ニ掲グル本格的航空会社ハ速ニ之ヲ設立スルモノトシ右設立ニ当リテハ資本ノ構成、人的関係、本社ノ所在地等本暫定会社ニ拘束セラレザル見地ニ於テ行ハルベキモノトス
本格的会社設立ノ際ハ其ノ設立ノ趣旨ニ反セザル範囲内ニ於テ友好国ノ資本及技術ヲ参加セシムル如ク考慮スルモノトス
閣議了解事項(其ノ三)
本要綱ノ実施ニ当リテハ資金物資ノ関係ニ付左記ニ依ルモノトス
記
一、本事業遂行ニ要スル諸物資ハ能フ限リ之ヲ本邦ニ於テ調達スルモノトス
二、本邦ヨリ既ニ積出済ノ貨物ノ決済モ之ヲ本邦ニ於テ調達スルモノトス
三、外国資本(支那資本ヲ含ム)ノ買収ハ極力之ヲ避ケ現物出資ノ方法ニ依ルコト 已ムヲ得ズ買収ノ要アルトキハ契約締結前ニ日本政府ト協議スルモノトス
四、企業費、運転資金ノ送金及設備用機械類ノ無為替輸出ニ関シ今後ノ為替状勢及物資需給関係等ニヨリテハ当初ノ資金物資計画ヲ変更スルノ要アルベシ