情報委員会ノ職務
昭和11年6月19日 閣議決定
一、国策遂行ノ基礎タル情報ニ関スル連絡調整
外交・内政諸般ノ方面ニ於テ、或ル事案ニ対スル国策ノ遂行ハ、正シキ情報ノ基礎ニ立脚セザルベカラズ。而モ事案ノ各庁ニ関連スル場合ニ於テハ、其ノ入手スル情報自ラ一面的判断ニ陥リ易ク、彼此齟齬スル所無シトセザルガ故ニ、速ニ之ガ正シキ甄別ヲ行ヒ、以テ国策遂行ノ具体的妥当性ヲ得シムルニ資スル所アルヲ要ス。此ノ如キハ各所管庁ノ能クスル所ニアラズ。常置的国家機関ニ於テ、絶エズ各庁情報ニ関スル連絡調整ヲ行ヒ、以テ統一ヲ保持セザルベカラズ。情報委員会ハ此ノ連絡調整統一保持ノ任ニ当ルモノニシテ、日常国策ニ関スル各庁入手ノ情報ニ付連絡ヲ緊密ニシ、絶エズ総合調整ヲ行ヒ、以テ国策ノ遂行ニ遺漏ナカラシメントスルモノナリ。
(実施方法)
一、国策ニ関スル情報ハ之ヲ委員会ニ送付セシメ、委員会ノ常勤職員ニ於テ絶エズ之ガ検討ヲ行ヒ連絡調整ヲ図リ統一保持ニ努ム。
一、之ガ為委員会ヲ招集シテ協議決定スルノ要アル場合ニハ委員会ヲ開催シ、或ハ常勤職員ニ於テ遅滞ナク各庁職員ト連絡シテ委員会ノ開会ニ代ヘ、以テ連絡調整統一保持ノ実ヲ挙グ。
一、内外報道ニ関スル連絡調整
国ノ内外ニ弘布セラルル「ニュース」ハ固ヨリ正確公正ナラザルベカラザルモ、各庁夫々ノ立場ニ於テ之ヲ与へラルル結果、或ハ一庁ノ一面的判断ヲ以テシ、国家全局ヨリ総合セル結論的意見ノ捕捉ニ苦シマシメ、内ハ世論ヲ誤リ、外ハ国論ヲ誤解セシムル虞ナシトセズ。最近ニ於ケル新聞通信ノ発達ハ言ヲ待タザル所ナルガ、殊ニ無線科学ノ進歩ニ伴ヒ、国内ニアリテハ放送施設ニヨリ国民ニ直接「ニュース」ヲ伝達シ、国外ニ対シテハ所謂新聞放送ニ依リ各国ノ新聞紙ヲ通ジテ自国ノ「ニュース」ヲ弘布シ、国内及国際報道界ニ一大境地ヲ展開スルニ至レリ。故ニ今日ニ於テハ、消極的ニ内務省ノ出版警察権或ハ逓信省ノ通信警察権ニ依ル公安保持ニ止マラズ、積極的ニ「ニュース」ノ弘布ニ対シテ国家的批判ヲ加ヘ、国家ノ利益ニ資スル所ナカルベカラズ、而モ其ノ内容タルヤ外交内政諸般ノ方面ニ渉ルヲ以テ、益々各庁情報事務ニ関スル連絡調整ヲ図リ統一保持ヲ期セザルベカラズ。仍テ情報委員会ハ日常各庁情報事務ニ関シテ緊密ナル連絡ヲ図リ統一保持ノ任ニ当リ、以テ国家ノ利益ヲ害スルコトナク反テ国家ノ利益ニ寄与セシムルト共ニ報道ノ使命達成ニ資スル所アラントスルモノナリ。
(実施方法)
一、国策ニ関スル内外「ニュース」ヲ国家的総合的見地ニ於テ検討シ、必要アル場合ニハ所管庁ニ対シテ適当ナル提言ヲ為ス。
一、前項ハ必要アル時ハ委員会ヲ招集シ、又ハ常勤職員ト各庁職員トノ連絡ニ依リ調整ヲ図リ統一保持ヲ期スルモノトス。
一、社団法人同盟通信社設立ノ趣旨ニ顧ミ情報委員会ハ関係各庁ト協力シテ同社ノ国家的見地ニ基ク健全ナル発達ヲ図リ其ノ機能ヲ発揮セシムベキモノトス。
一、啓発宣伝(世論指導)ニ関スル連絡調整
啓発宣伝(世論指導)ニ関シテハ、各庁自己ノ立場ニ於テ夫々諸種ノ方法ニ依リ之ヲ行ヒ居ル処、自庁ノ立場ニ忠実ナル結果、自然一面的判断ニ陥リ或ハ他庁ト矛盾撞著ヲ来シ或ハ国家全局ノ総合的見地ニ背戻シ、為ニ世論ヲ誤リ又ハ国論ノ誤解ヲ来サシムルコトナキヲ保セズ。国策遂行ノ上ニ於テ障害ヲ来スコト尠カラズト謂フベシ。仍テ情報委員会ハ各庁啓発宣伝ノ事務ニ付密接ナル連絡ヲ行ヒ国策ノ大方策ニ則リ其ノ統一保持ヲ期シ、以テカカル障害ヲ除去シ、進ンデ公正ナル知識ノ啓発ト世論ノ指導トニ資スル所アラントスルモノナリ。
(実施方法)
一、世論指導方針ノ立案
世論指導ニ関スル一般的大方針及随時発生スル諸情勢ニ対処スル方針ニ関シ研究立案ス。
一、世論指導ニ関スル事前連絡
啓発宣伝ノ実施ニ当リ出来得ル限リ事前ニ連絡シテ各庁間矛盾撞著ナカラシムル為、常勤職員ニ於テ絶エズ之ガ調整ニ関シ必要ノ手段ヲ講ゼシメ、要スレバ委員会ヲ開催シテ方針ヲ協議ス。
(1) 啓発宣伝ノ為ノ冊子発行ノ場合ニハ、其ノ内容ニ付事前ニ委員会ニ協議セシム。
(2) 啓発宣伝ノ為ノ重要ナル講演、放送、映画、演劇等ニ関シテハ其ノ内容ニ付事前ニ委員会ニ通報セシム。
一、啓発宣伝ニ関スル事後報告
各庁ニ於テ啓発宣伝ノ為実施シタル事項ハ総テ概要ヲ其ノ都度委員会ニ報告セシム。