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2001年 夜汽車の旅
ブルートレインは21世紀に何を思う?


 ここしばらく 更新をサボっていた管理人です。
 というのも、学会発表なんていう行事を抱えて 地元を離れておりました。

 学会は3日間の予定なのですが、不運なことに、自分の発表が初日の9時からになってしまいました。
 東京を6時に出発する「のぞみ」に乗っても 新大阪が8時20分ですから、会場までの移動やスライドの受付を考えると 絶対に間に合いません。

 仕事を早めに切り上げて 前日夜の新幹線で大阪入りするのが一番確実なのでしょうが、なにぶん旅費の一切を自費で賄わなければいけないので ホテルの余計な一泊は負担感があります。

 ということで、今回選んだのが・・・、 東京発 大阪行の 寝台急行「銀河」です。

 今回は 双眼鏡を離れて 寝台列車の旅を取り上げてみましょう。
 「鉄ちゃん」でなければ「寝台特急」なんて 随分縁遠い物ではないでしょうか。

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    仕事帰りに異郷の地へ

 寝台急行「銀河」は 東京駅を23:00に出発、途中あちこらに停車しながら 大阪駅に7:18到着となります。
 「のぞみ」なら2時間半で結ぶ距離を 約8時間半もかけるのですが、仕事が終わった後に乗車でき 翌日も朝の始業時間に間に合います。

 急行料金1280円に 寝台料金6380円がかかりますから 「のぞみ」を使うよりは僅かに高い料金です。
 車両は全て寝台で 多少豪華なA寝台と エコノミーなB寝台から構成されています。
 新幹線で移動し 一泊ビジネスホテルを使うよりは お得といった価格設定でしょうか。
 昨今 次々と夜行の長距離列車が姿を消す中、18年以上 運行を続けているのは固定客をつかんでいるのでしょう。

 豪華路線を突っ走る「カシオペア」「北斗星」、新型電車を得た「サンライズ瀬戸・出雲」とちがい、旧型車両でB寝台中心の 古典的な構成にもマニアックな興味を覚えます。
 寝台「特急」ではなく、寝台「急行」というのも 面白そうです。
 本来なら 夜行バスの方が経済的なんですが、こんな機会がないと この手の列車には乗れないので・・・

 

 時間に余裕を持って出てきたためか 発車時間の1時間以上前に東京駅についてしまいました。
 列車の中で寝るなんて 正気の沙汰ではありませんから、前もって理性を鈍らせておきましょう。

 通勤客のごった返すホームで かっ喰らうビールって美味しいですねえ。
 500ml缶が2本も空いてしまいました。

 22時を回っても通勤客はどんどん下り列車に吸い込まれていきます。
 新しい350mlに手をつけたところで 銀河が入ってきました。

 客車自体は6両の編成なのですが、機関車の後ろには 機械車がつなげられています。
 中には 客車の電気を賄う巨大なディーゼルエンジンが2機も設置されています。


写真が分かりにくいんですが、こんな定置型の発電エンジンが載せられています。
それも2機も。

 こんなエンジンのせいで 電車だというのに ディーゼル臭が染み付いています。
 実家の周辺は気動車ばかりでしたから 懐かしい雰囲気がありますが、都市近郊だと 馴染みのない臭いでしょう。

 機械車にはエンジンのほかにも 貨物用のスペースが設けられ、ブルートレイン便の荷物が積み込まれていました。

 私が小学生の時代(昭和50年代)にも 東北本線では貨車・客車混合の列車が走っていました。
 高速の電車や気動車が主流になった現在、こんな光景が見られるのはブルートレインだけです。

 外回りはこれくらいにして、車内に入ってみましょう。

  

 車内の片側に 蚕棚のように4床ずつ ベットが用意されています。
 通路の天井が低いのですが、この部分が物置棚になっている影響です。

 ベッドにはシーツ・毛布・枕に 寝巻きまで用意がされています。

  

 写真で見てお分かりでしょうが、ベッドの幅は狭く 中腰になると頭がつかえるあ程度の高さしかありません。
 ま、昔の3段ベットの時代は 座るのもやっとだったというのですから これでも進歩しているのでしょう。
 寝台を仕切っているのは 厚手のカーテンだけですが、しっかりとマジックテープで締め切られるようになっています。
 「サンライズ瀬戸・出雲」の個室寝台とは比べるべくもないのですが、夜行快速の座席よりは遥かに快適ですし、自分のスペースが区切れますから 着替えも周囲に気を使いません。


    いざ大阪

 荷物を片付けているうちに 発車の時間が来たようです。

 ガタン と、ちょっと大きめの衝撃があって、8時間を越える旅の出発です。
 乗り心地は・・・、客車列車の癖があるのですが さほど不快ではない範囲でしょうか。
 モーターの唸りがなく レールの継ぎ目とブレーキ音だけが聞こえてきます。

 昔は(といっても20年位前)機関車が客車を引っ張るスタイルの列車って 結構走っていたように思うのですが、最近は夜行列車以外は見かけることがなくなってしまいました。
 動力分散型の近代的な電車群に対して 運動性能が圧倒的に劣っている影響です。
 個人的には 原始的な雰囲気が好きなのですが、特急と名乗っていても近郊の快速列車の障害になってしまっているようです。

 大半の寝台特急は 高速電車が多くなる時間帯には目的地に到着する予定が組まれています。
 逆に、日中まで到着が遅れる寝台列車は 多少の時間を気にしない豪華寝台がほとんど。
 うーん、寝台列車が機関車に引かれてのんびり走るには 日本は忙しくなりすぎたのでしょうか。

 23時を過ぎた時間にも 近郊都市への電車は頻繁に運行されている様子。
 通勤用の電車は 機関車に引かれた客車特急より加減速の能力が圧倒的ですから、どんどん肩身が狭くなるはずです。

 

 横浜の駅では まだホームに通勤客の姿が見えています。

 こんな日常の風景の中、のんびり長旅に出ることのは 変な気分にさせられる物です。

 この日は ざっと見積もって 半分ぐらい座席が空いている印象ですが、私のコンパートメントは中年女性の二人組と ビジネス客らしい男性で埋まっています。

 女性お二人は 出来たばかりのユニバーサルスタジオ・ジャパンに遊びに行くとのこと。
 朝から並んで 営業時間をフルに楽しみたいそうです。
 今時は 私よりも おばさんの方がタフなのでしょうか。
 寝台列車は初めてと言っていましたから 他人事ながらちょっと心配になってしまいました。

 乗車率はさほど高くなさそうなのに 私の周りだけ 人口密度が高いのだろうと、車内を見て歩くと ビックリ。
 東京を出た後では 完全に空の車両があるではありませんか。
 乗客のある車両も 空いているコンパートメントは一人の乗客もなく、埋まっているところは きっちり4人づつ配置されています。

  後から乗ってきた客が眠りを妨げないとか、ベッドメーキングや車両整備が容易になる といったメリットはあるのでしょうが、大型の荷物の置き場にも困る狭い寝台のこと。
 カーテンを隔てたすぐ隣に 赤の他人が乗っていると思うのは 少し緊張する物です。
 隣だけでなく 頭がつかえる天板の上には もう一人が寝ているのです。
 女性車両を分けるのも手ですし(夜行快速では先例がある)、せめて 車両に均等に客を分散させるだけで 快適度は 上がるでしょうに。
 現に品川・横浜・大船とは あまり客の出入りはありませんでしたし。


    そして列車の夜は更ける

 列車は 小さく揺れながら距離を稼いでいきます。
 もう12時を回りましたし、眠りにつくことにしましょう。

 古いながらもしっかりとした洗面台が付いているのも 夜行バスより嬉しいポイントです。
 最新列車につけられているようなシャワー設備はありませんが、この程度の時間なら全く問題ないでしょう。

 それでは また明日・・・

・・・・・

 ううん、やっぱり夜行列車に乗り慣れたつもりでも 良くは眠れないものです。
 しばらくはウトウトしていたのですが、好い気持ちの時に減速がきたりして 引き戻されてしまいます。

 もうちょっとベッドが広いと 良いのですが。
 これだと10年前のユースホステルより寝台が狭い!

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 次に目が覚めたら 大津の直前。
 5時間程度は寝たはずなんですが、疲れはほとんど取れません。
 耳栓に加えてビールの前投薬と 完璧に準備したはずなんですけど。
 寝台車でも あまり眠りにつけないのは 以前「サンライズ瀬戸」に乗ったときから実感していたんですが、客車寝台でも あまり変わりがないようです。

 向かいベットの おばさん二人組は ほとんど眠れなかったとのことです。
 初めての夜汽車だと 無理からぬことでしょう。
 ユニバーサルスタジオでは 思う存分遊べたのでしょうか。

 朝一番で学会発表を終えた後、ホテルのチェックインまでの時間がこれほど待ち遠しかったことは 今までありませんでした。

 


    寝台列車の現状

 バレてしまっているかもしれませんが、私は この手の夜行列車がとても好きです。
 これまで書いてきたことは それなりに贔屓目になっているとも思います。

 が、どうしても 好意的になりきれないのは これまでの文章のとおりです。

 私個人は これからも機会があればこういう列車に乗ろうと思いますが、家族連れでは どうでしょうか。
 個室が取れる列車なら考えるかもしれませんし、時期がきたら子供にこういう旅を体験させたい気もします。
 でも・・・。
 それは列車に乗ること自体に娯楽的な価値を見るからであって、実用性は二の次です。

 今回乗った銀河は旧式の車両ですが、最新式の「サンライズ瀬戸」のように シャワーが付いたり、寝台が個室になったり、寝台料金のかからない車両が連結されたりしても、夜行列車が長時間の移動を強いる手段であり ホテルの部屋ほど快適でないという本質は まったく変わっていません。

 もちろん、寝台列車の未来が全くないとは思わないのですが、今のままでは どんどん他の移動形態との競争で侵食されていくでしょう。
 はたして どうしたら寝台特急は生き残っていけるのでしょうか。

 ちょっと現在の寝台列車について考えてみましょう。

 現在の寝台特急は 大雑把ですが 下のように分類できます。

移動距離

運行区間(列車名)

短距離 東京〜北陸・関西(北陸・銀河)
中距離 東京〜中国・四国(サンライズ瀬戸・出雲・あさかぜ)
東京〜東北(はくつる・あけぼの)
関西〜九州(彗星・あかつき・なは)
長距離 東京〜九州(さくら・富士・はやぶさ)
東京〜北海道(北斗星・カシオペア)
関西〜東北・北海道(日本海・トワイライトエクスプレス)

 他にも 北海道や九州の深夜列車には寝台が付けられているものがあるのですが、そのあたりは専門家に任せることにしましょう。(ここは双眼鏡のサイトなのですから)


    短距離寝台列車のライバルたち

 この中では 最も距離が短い路線は 東京〜北陸・関西の列車で、運行距離は500〜600kmになります。
 この距離で直接的なライバルとなるのは 深夜バスとなるでしょう。

 今回の寝台急行「銀河」で考えると、東京発23:00−大阪着7:18で運行されていましたが、深夜バスは東京駅22:20と23:00発の便があります。
 到着は それぞれ6:53と7:47になっていますから 所要時間はほぼ同一。
 料金は 「銀河」が16070円に対して 深夜バスは8610円ですから 約半額になっています。
 寝台列車には のんびり横になれること・時間の正確さなどメリットはありますが、8000円近い差に値するかどうかは疑問です。

 また、この距離であれば「夜の新幹線で移動し宿泊する」 「朝早い新幹線で当日に移動する」の手も考えられます。
 前日移動を考えれば 東京20:35の「のぞみ」であれば 新大阪は23:05、東京発21:18であれば新大阪は23:48到着です。
 残業が終わってからの出発であっても、その日のうちに大阪入りは可能なのです。
 運賃は14720円ですから バスより割高ですし 宿泊料金も必要になりますが、数千円のカプセルホテルでも 夜行の交通手段より遥かに快適でしょう。

 さらに大阪で 朝一番の仕事でなければ 当日の移動という手も考えられます。
 東京6:00の「のぞみ」を使えば 8:30には新大阪に付くことが出来ます。
 その後の連絡を考えても 10:00前後には仕事に取り掛かれるでしょう。
 快適さと経済性のバランスを考えると、可能なら、これがベストの交通手段となるはずです。

 まとめると

 

出発時刻

到着時刻

料金

新幹線「のぞみ」前日出発 東京駅 21:18 大阪駅 23:48 14720円
寝台急行「銀河」 東京駅 23:00  大阪駅 7:18 16070円
夜行バス「ドリーム号」 東京駅 22:20 大阪駅 6:53  8600円
東京駅 23:00 大阪駅 7:47
新幹線「のぞみ」当日出発 東京駅 6:00 大阪駅 8:30 14720円

 価値観は色々ですが、「銀河」の利用価値は 「朝一番に大阪で仕事がある人間で バスよりはゆっくり横になりたい場合」 ということになるでしょう。
 あとは 「寝台」というサービスに 8000円程度の価格差を認めるか否かにかかっています。
 個人的には 列車好きでないと 厳しいかと思うのですが・・・

 今後の生き残りを考えると 価格的な引き下げが必須でしょうし、快適さの面でも向上が求められるでしょう。
 少しの価格差であれば寝台列車の方が有利なのですし、室内のサービスが向上すれば許容できる価格差も広げることができるはずです。
 絶対に 朝の新幹線では間に合わない仕事を抱えた人間が存在しているのですから。


    中距離寝台列車のライバルたち

 次には これより運行距離が長い群を考えてみましょう。
 具体的には 700km〜1000kmを走る列車たちです。
 「東京〜中国・四国」、「東京〜東北」、「関西〜九州」の寝台特急がこの路線に当てはまります。

 この距離になると 当日発では午前中の到着が難しくなりますし、前日発でも時間的な余裕は少なくなります。
 また、深夜バスや新幹線に加えて 飛行機も有力な競合相手になるでしょう。

 ここでは 新型車両を導入して巻き返しを図る「サンライズ瀬戸・出雲」を例にとって見ましょう。


高松に着いたサンライズ瀬戸

 この列車は東京駅を22:00に出発、岡山で切り離され 高松に7:26・出雲市には9:52の到着となります。
 寝台は各席個室で 有料のシャワールームがあるほか、指定座席料金で乗車できる車両も連結されます。
 寝台の場合、料金は 東京−高松で20450円 東京−出雲市で21100円となっています。
 運行当初は切符が取れない人気列車だったようですが、最近は空席が目に付くようになりました。
 私が学会に出発した日は 東京発車時点で ざっと見積もっても3割程度の乗車率です。

 ここでは 高松の方を考えてみましょう。
 東京〜高松間は夜行バスが運転されており、東京発20:20 高松着6:11となります。
 都内からの連結だと問題ないのですが、近郊都市から乗り継ぐことを考えると 時間的には若干不利でしょうか。
 8時間も バスに乗っているのは辛そうですし、そういう点では列車の方が良いのですが、運賃は10500円と これまた約半額で 10000円の差がついてしまいました。
 この価格差だと 多少快適さが低くても バスを選ぶ客が多いはずです。

 飛行機で移動することを考えると 前日の移動では羽田18:55発 高松20:05着となります。
 運賃は25000円ですから 寝台と比べてもかなり割高です。
 前もって 早期割引が効く時期に予約すればよいのでしょうが、宿代を考えると 大変でしょうね。
 当日に移動することを考えると、羽田7:45発 高松8:55着となります。
 料金の高さ・空港アクセスの不便さ・運行の不確実性を考えると 寝台列車にも分があるのですが、圧倒的な快適さは捨てがたい物があります。

 新幹線を使う場合は 運賃は19310円と 飛行機よりお安くなりますが、夜の列車では東京を18:52に出発しないと その日のうちに四国上陸は不可能です。
 当日発では 東京を6;00に出ても高松着は10:41です。
 仕事客には 前日移動が前提となるでしょう。

 まとめてみると、

 

発着時間

到着時刻

料金

新幹線「のぞみ」+快速
(前日出発)
東京駅 18:52 高松駅 23:17 19310円
東京駅 19:52 高松駅 0:50
飛行機 (前日出発) 羽田空港 18:55 高松空港 20:05 25000円
夜行バス 東京駅 20:20 高松駅 6:11 10500円
寝台特急「サンライズ瀬戸」 東京駅22:00 高松駅 7:26 20450円
新幹線「のぞみ」+快速
(当日出発)
東京駅 6:00 高松駅 10:41 19310円
飛行機(当日出発) 羽田空港 7:45 高松空港 8:55 25000円

 ここでも夜行バスが強力なライバルになってしまいます。
 アメニティーの面では絶対に「サンライズ瀬戸」のほうが有利ですが、10000円の価格差は非常に高い壁です。
 逆に 飛行機や新幹線は 朝からの仕事を考えると 前日の宿泊が必須になります。

 快適さが高められた新型列車だからこそ もう少し値段が下げることができれば、料金差があっても十分にバスに対抗できる素材だと思うのですが・・・。
 5〜6千円の差なら 私は迷わず「サンライズ瀬戸」を選ぶでしょう。
 今の価格でも もっと評価されてよい列車だと思っています。


    長距離寝台列車のライバルたち

 さて、最後に1000kmを超える長距離寝台列車を考えてみましょう。
 代表的なものでは 「東京〜九州」、「東京〜北海道」、「大阪〜北海道」がこれに当てはまります。

 これらの列車は 夕方の時間帯に出発し 目的地にはお昼近くに到着します。
 時間的には 飛行機の足元にも及びません。
 翌日に飛び立った飛行機が 寝台列車の到着前に 目的地に着いてしまうことも珍しくありません。

 この距離では豪華な設備を売りにした列車も目立ってきましたが、いまだに古風な列車が大半を占めています。
 「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」「北斗星」は その列車に乗ること自体を娯楽として提供していこうという意図が見えるのですが、旧来の車両は純粋な移動手段として どのような立場にあるのでしょう。

 例として 東京〜長崎を走る寝台特急「さくら」を見てみましょう。
 「北斗星」や「カシオペア」より長い1400kmを走っています。
 東京発は18:03、長崎は翌日の13:05の到着です。
 翌日の仕事のために移動する手段ではなさそうです。
 料金はB寝台で24360円となっています。

 競合手段と考えられるのは新幹線と飛行機でしょうが、中心は時間的利点の大きい飛行機になるはずです。 
 この距離になると 深夜バスは運行されていません。

 飛行機で考えると 夕方の便では羽田18:00発で 長崎着は19:50になります。
 翌朝出発では羽田8:00発で 長崎着が9:50です。
 「さくら」の発車時刻とほぼ同じに飛び立った便は その日のうちに長崎入りしますし、朝一番の飛行機でも「さくら」の到着より かなり早く着くことが可能です。

 このような距離では時間的なメリットを見つけ出すのは困難です。
 ちなみに料金は 寝台列車の場合24360円、飛行機の場合は33000円となります。
 夜行の方が1万円割安になりますが これだけで利用者をひきつけることができるのでしょうか。

 新幹線を利用した場合も同様で 東京発6:00の「のぞみ」を使えば博多着で10:49となります。
 このとき 「さくら」は1時間以上前に博多を発車していますが、客車列車の鈍足さが災いして 高速の都市間特急に追い抜かれる羽目になります。
 新幹線に接続した「かもめ13号」は12:53に長崎着ですから 「さくら」より早いんです。
 翌日に出発した新幹線にまで追い抜かれるようでは 何が利点なのか良くわからなくなってしまいます。
 ちなみに 新幹線を利用した場合の料金は約27000円となります。

 「さくら」が博多以降で2本の特急列車に抜かれるのは 特殊な事情ではありません。
 寝台特急「富士」も「はやぶさ」も 九州に入ってからは全国有数の速度を誇る特急群に追い抜かされているのです。

 まとめると・・・

 

発着時間

到着時刻

料金

新幹線「のぞみ」+特急
(前日出発)
東京駅 16:52 長崎駅 23:55 27000円
飛行機 (前日出発) 羽田空港 18:00 長崎空港 19:50 33000円
寝台特急「さくら」 東京駅 18:03 長崎駅 13:05 24360円
新幹線「のぞみ」+特急
(当日出発)
東京駅  6:00 長崎駅 12:53 27000円
飛行機(当日出発) 羽田空港 8:00 長崎空港 9:50 33000円

 この距離を走る列車は 「夜出発、翌朝到着」という時間的なメリットを生かせないうえに、所要時間でも快適性でも新幹線や飛行機に太刀打ちできません。
 残るメリットは 経済性の点なのですが、皆さんはこの価格差をどう考えられるでしょうか。

 深夜バスのように新幹線の半額程度であれば かなり強力な競争力を持つでしょうが、2〜3千円では厳しいと結論するしかありません。
 時刻表を見てみると 「さくら」の場合も 中京圏から中国・北九州に向かう場合は時間的なメリットがあるはずですから、案外JRもそのあたりを狙っているのでしょうか。

 生き残っていくには 新幹線に対する価格競争力を高めて 多少時間がかかっても経済性を優先する層を確保するのが最も簡単でしょう。
 新型車両を導入して 都市間特急に追い抜かれない速度を得れば時間的な有利性は高められるかもしれません。

 さらに飛躍した考えが許されるなら、現在3本運行されている「東京〜九州」の寝台列車のうち何本かを豪華列車にしてしまう手も考えられます。
 同じような距離を走る「東京・大阪〜北海道」の寝台列車群のほとんどは快適性と優雅な設備を売り物にし、飛行機と競合しない道を選んでいます。
 また、北海道の場合は東北新幹線からの連結が不便なため、長距離寝台にもアドバンテージがあります。

 列車に乗ること自体を娯楽として成立させられれば 今までとは別な客層が獲得できるのではないでしょうか。
 東京発14:00 鹿児島着15:00なんていう豪華列車も面白そうだと思えませんか。(実用性はありませんが)
 北にいる人間から見れば、九州も旅行客を獲得しうる土地だと思うのですが。


     楽観できない将来、そして・・・

 長距離の移動の起点が東京や大阪のような大都市とは限りませんし、目的地も寝台特急が走っているところとは限りません。
 大都市発の深夜バスが地方の小都市まで行き渡っている現状を考えると 寝台列車の将来は全く楽観できません。

 「サンライズ瀬戸」の場面で 東京〜高松の例を検討したのですが、東京〜徳島や東京〜松山の場合はどうでしょう。
 早朝に乗換えが必要になる寝台列車より、直通のバスのほうが魅力的に見えるはずです。

 競合している路線でのみ考えれば 快適性では列車に分があるでしょうが、料金差は遥かに巨大です。
 列車がバスに対抗していくのは 確かに困難なのですが、列車にしかないメリットも少なくないはずです。
 スペースの広さ・寝台の利便性・運行の確実性・乗り心地(?) 色々長所はあるのに、最低でも6300円という現在の寝台料金は割高感があります。

 さらに飛行機を相手にすることを考えれば、距離が長くなれば長くなるほど 存在価値は危うくなっていきます。
 純粋な移動手段としての寝台特急が成立しうるのは 現状では800km付近までのように思われます。
 あとは 経済的なメリットを出すことができるかと 移動を娯楽に変えることができるかで どれだけ客を奪えるかにかかってくるはずです。

 一部のマニアにのみ注目されるだけでは 夜行列車の地位は危ういでしょう。
 熱心な「鉄ちゃん」だって 定期的に寝台特急に乗るわけではないのです。

 それでも生き残っていくための方策はあるはずです。

 これまでのように 策を打たずに 次々と名門列車が姿を消していくのは、それはたとえ時代の要求だとしても、非常に悲しいことです。
 夜行列車には それにしか提供できない旅の味があるのですから。


 

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注意
時刻表は2001年4月号を参考にしている。

料金は筆者の手計算なので 誤りがあるかもしれない。
正確な情報は近所の駅か旅行会社まで問い合わせを要する。